安倍首相が国会で施政方針演説に臨んだ。昨年12月に第3次内閣を発足させてから初めての演説は、高揚感に満ちていた。

 安倍氏は2年間で2度の衆院選を戦い、3分の2の与党勢力を続けて確保した。この間、株価を上げて景気回復への一歩を進め、集団的自衛権の行使容認で日米同盟の一層の強化への道筋をつけた。

 長期政権への基盤を確保した首相は今回の演説で、「改革」を強調。経済再生、復興、社会保障改革、教育再生などを列挙し「戦後以来の大改革に踏みだそうではありませんか」と呼びかけた。敗戦後間もなくの改革に匹敵するものにしたいという意気込みなのだろう。

 かつて「戦後レジームからの脱却」と繰り返していた首相が唱え始めた「戦後以来の大改革」。きのうの演説を聴く限りでは、その最終的な狙いについては不透明なままだ。

 改革の各論の冒頭に掲げたのは農協改革だった。全国農協中央会や農協の支援を受ける議員の抵抗を押さえ込み、直前に改革案をまとめた。首相は演説で「変化こそ唯一の永遠である」との岡倉天心の言葉を引き、「新しい日本農業の姿を描いていく」と述べた。

 戦後社会で形づくられてきた様々な制度を、時代や環境の変化に応じて改めていくのは当然の姿勢だ。そのために、指導者には決断力や突破力といったある種の「力」が求められるのも理解できる。

 だとしても、改革には熟慮や合意形成への努力もまた欠かせない。きのうの演説で気になったのは、「国会に求められているのは、単なる批判の応酬ではなく行動だ」などと野党への牽制(けんせい)を繰り返したことだ。

 それ自体は間違っていないにせよ、圧倒的な数を誇る首相が強調すれば、異論を封じてもやりたいことをやるという宣言と受け取られても仕方あるまい。

 目先の改革への多弁さとは裏腹に、首相は集団的自衛権を含む安全保障法制や戦後70年を踏まえた「積極的平和主義」、そして憲法改正についてはあっさりと触れただけだった。公明党との調整が控えているからなのだろう。

 首相が最後にめざすところをただし、問題点を明らかにするのは野党の役割だ。

 昨年の衆院選をへて最大野党の民主党は執行部を一新、政権を批判する共産党も勢力を伸ばした。数の力に押されるばかりでなく、緊張感ある議論を通じて立法府としての存在感を発揮しなければならない。