上場企業の2015年3月期の経常利益が前期に比べて2%余り増え、リーマン・ショック前に記録した08年3月期の最高益を上回る見通しだ。過去7年の間に進めた経費削減や不採算事業の見直しなどが実を結んだ。
前回の最高益だった時に比べ、為替など市場変動への抵抗力も増した。企業はここでひと息つくのではなく、経営基盤をさらに強固なものとして、新しい成長の段階に進んでほしい。
金融危機後の企業は概して投資のリスクを小さく抑え、財務体質の改善を重視してきた。これまでの手堅い経営を攻めの姿勢へと切りかえていくうえで、いくつかの課題がある。
まずもって「ためる経営」からの脱却が必要だ。企業は利益を再投資に十分に回してこなかったため、今では95兆円の手元資金を持つ。さらに手元資金を積み上げるのは、従業員や株主などの納得を得られないだろう。
今期の最高益を見込むトヨタ自動車は、設備投資と研究開発を従来計画より増やし、それぞれ1兆円とする。安全・環境分野などに資金を投じる。持続的な成長のために、有望技術への支出を惜しむわけにはいかない。
これまでに広げてきたグローバルな経営体制を深化させることも必要となる。
日立製作所は米IT(情報技術)子会社など海外戦略部門のトップに、日立のなかで実績を積んだ外国人を起用する。進出先の顧客の動向を見きわめ人材や資金といった経営資源を最適に配分するには、需要地に近いところでの意思決定が欠かせない。
業界の再編に備えることも、競争を勝ち抜いて成長を続けるうえで重要な戦略だ。
コスモ石油は持ち株会社に移行し、石油製品の精製などの事業を傘下におく。石油業界では国内のガソリン需要の低迷で再編機運が高まっている。持ち株会社になれば事業の連携や買収がしやすくなる。自力の成長だけでなく、M&A(合併・買収)を通じた業容拡大の機会も探りたい。
電鉄や小売業などの好業績は、急速な円安による訪日客の増加で底上げされた面もある。円安の特需で得た利益を人や営業拠点などの投資に回し、日本のサービスやモノの良さを訴えることにより、海外の需要を継続的にとりこめる戦略を練るべきだ。