ボンK日報

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日本のマスコミを心配する海外マスコミ

 曽野綾子女史の産経新聞への寄稿をめぐり、アパルトヘイトの扇動じゃないかと炎上が発生した。

 これについて問題視した日本のネットユーザたちは海外の有力メディアのアカウントや著名なジャーナリストに一斉に「通報」。そのかいあってか、アメリカ代表紙のニューヨーク・タイムズ記者や複数のジャーナリストがこの問題に気づき、紹介する動きが起きている。

 しかし、日本の出来事にもかかわらず、この問題に注目する国内有力マスコミは1つも存在しない。イデオロギーは反対にある競合紙の朝日新聞すら取りあげていない。産経も謝罪や訂正記事を出していない。

 似たような「通報祭」は以前にも発生している。

 複数自民党有力政治家が「ネオナチ」とツーショットを撮った写真が発覚した問題だ。最初に気づいたのは日本のネットユーザだった。だが、国内メディアがまともに取り合わないため、海外への通報合戦が発生。そしたらフランスのAFP通信が記事を配信し、世界全体のメディアがそれを引用報道するようになり、共同通信も連鎖的に報道せざるを得なくなり、後で日本のメディアも話題にした。

 日本の政治家が起こし、日本人が憂慮した問題である。ネットにアクセスすれば、ウェブニュースなりSNSのトレンドなどですぐ目につくことだ。日本のマスコミはそれをただ記事化すればいいにもかかわらず、数日遅れでスクープを「逆輸入」し、「海外でこんなことが話題に」という文脈を添えて話題にしているのだ。

 

 これが2015年の日本のメディアの実態なのである。

 国内主要マスコミは一切報じず、「海外メディアばかりが報じる日本の話題」はいくつもある。代表例は「ろくでなし子問題」だ。

 自身の性器を象った作品を作った女性アーティストが逮捕された事件である。海外メディアが特に注目したのは、単に彼女の表現がシュールでおかしいからではなく、それが表現の自由の規制につながりかねないからだ。どこからどこまでがわいせつで、どこからどこまでがポルノかには、議論が分かれるものだ。裸婦画や性器を精巧に再現した全裸の銅像は世界中ごまんとある。言論の自由表現の自由のない国は、大抵、まず文化の時点で制約がかかるものだ。文化がある程度統制され、一定規模の国民がそうした風潮に迎合するようになれば、後は権力を批判する言論をひたすら縛れば統制社会のできあがりだ。北朝鮮はまさにそういう国だろう。

 

 しかし日本では、この重要な問題について、そうした背景を解説することもなかったどころか、そもそも報じなかったのだ。

 ほかにも海外メディアだけが話題にする事例はいくらでもある。

 安倍首相の選挙演説会場にかけつけ、首相を礼賛してマスコミを悪しざまに罵る「日の丸集団」は、国家主義が蔓延する日本の現状の象徴のように報じられている。身体全体を全身タイツで覆い隠す「ゼンタイフェチ」の報道には、現代日本の生きづらさが自己を消し去る願望を招いているという専門家の指摘があるほか、こうしたマニアックな性癖解消手段ばかり広がる一方で少子高齢化がとどまることない日本の問題点への批判もふくまれている。世界的人気小説家の村上春樹氏のヘイトスピーチへの憂慮を有力紙が複数報じたのは、「今のような日本社会」であえて異を唱える著名人がいるということへの希望もこめられているだろう。

 2009年、アメリカの経済紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が日本語版サイトを立ち上げたことを皮切りに、海外メディアのウェブでの日本語情報発信が広まるようにもなっている。

 イギリス公共放送BBCは日本語ツイッターアカウントを開設、来週からYoutubeで日本語ニュース動画を投稿し、本年度中にはウェブのニュースサイトの日本版を提供するという。

 同じくイギリスの有力紙であるガーディアンは昨年末の総選挙の際にツイッターで、「選挙に向けてのあなたの意見と国内のムードを是非私たちに聞かせてください」と日本語で呼びかけた。ガーディアンは日本語版を持っておらず、こうした取り組みは異例中の異例だが、それほど日本のマスメディアへの不信や、日本社会が世界から逸脱することへの警戒意識が高まっているのではないだろうか。

 このたび、「国境なき記者団」による世界の報道の自由度調査の最新の調査結果が発表された。

 日本は61位と先進国で最下位で、韓国に抜かれてしまった。その韓国も、産経新聞ソウル支局長が在宅起訴されたことに国際社会から非難を浴びたことから順位を下げたと言うから、日本の報道の自由はとてつもない勢いで失墜しているのだ。

 日本だってわずか5年前の2010年調査時には11位だった。その次の調査でも何だかんだ22位。前回調査になって59位と大きく下落している。何が変わったかといえば、安倍政権になったことにほかならない。

 この日調査結果が発表となった同日、日本の国営放送NHKの看板番組はトップで何を報じたかご存知だろうか。安倍首相の施政方針演説である。

 それも、番組のオープニングの際に、「戦後以来の大改革」と喋る様子を3回も繰り返し、昔のテキストサイトみたいにテロップのフォントをだんだんと強調させていったという。

 あくまでNHKは「公共放送のニュース番組」のつもりであり、この番組を見る階層(特に情報弱者で保守的な田舎老人たち)もそうしたモチベーションで番組を見ている。しかし、これはどう見ても「国営放送のプロパガンダ」と見なすほうが適切である。本来公共放送は「公共の益」を第一とするため、権力批判は大前提中の大前提であるが、日本のNHK北朝鮮朝鮮中央通信や中国のCCTVに等しいことは明らかだ。しかし中国だって、林檎日報などの香港系のマスメディアは政権批判の報道をしっかりとやっているから、今の日本は香港よりも危うい状態にあるのではないだろうか。

 

 かくして、免許のない料理人が毒まみれのふぐを客に振る舞うくらい危険なことがまかり通っていて、出されたメニューを疑わず食べているうちに、無意識的に「麻痺」状態に陥っている国民がいるのである。コロッといってしまったら、また70年前の繰り返しになるのだ。