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R18ダンデライオン 作者:チカ.G

10.

 今は違うかもしれませんが・・・・
 つい先ほど見たらお気に入り登録が1000件になっていました! お気に入り登録だけでなく、ストーリー評価や文章評価もどんどん増えています。
 ドキドキしながら数字を見ていました・・・(^ _ ^;)
 本当にありがとうございます。
 
 久しぶりの都会の喧噪に懐かしさを感じるかな、と華蓮は思っていたが、実際はそれほど懐かしいとは思わなかった。
 年も明け、今日は1月2日。
 今日は東京の元同僚たちである友子、美里、それに幸恵の4人でランチを楽しんでの帰り道。
 ランチだと言うのにめでたいお正月だからと言う理由で友子が頼んだワインを飲み、ほんのりとほろ酔い気分を楽しんだ。もちろんすぐに酔っぱらってしまう華蓮はグラスに1杯半しか注いでもらえなかったが。
 幸恵と美里は反対側のホームだからとついさっき別れてしまったが、華蓮は今日は友子のところに泊めてもらう事になっているので彼女と2人で電車がやってくるのを待っている。
 「あ〜、楽しかったね」
 上機嫌の友子が、反対側のホームで電車に乗り込んだ幸恵と美里に手を振る。
 同じように手を振りながら、華蓮は並んで電車を待っている友子を振り返った。
 「ご飯もおいしかったし。よくあんな店知ってましたね?」
 「忘年会の時に仲良くなった他の課の子に教えてもらったの。今度華蓮が来るからどこかいいとこ知らないって聞いたら、最近できたばかりだけど評判がいいんだって言ってね。ホント、あそこにして正解だったわ」
 うんうんと頷いている友子を笑いながら見て、華蓮は電車がやってくる方向に視線を向けた。
 このXX線は華蓮が通勤で使っていた電車だ。華蓮のアパートから会社までは約40分。その間の30分ほどが<電車の君>と一緒にいられた時間だった。
 「それにしても、面白い事になってるみたいね?」
 「面白い事って・・・あぁ、そんなんじゃないんですけどねぇ」
 反対側のホームから2人の姿が消えて閑散としてしまうと、友子が華蓮の方を振り返ってにやりとする。
 その顔から彼女がなんの話をしているのかすぐに判った華蓮は苦笑いを浮かべて答える。
 「ここにいる時に全く言葉を交わす事さえできなかったのに、まさかおばあちゃんのところに行ってこんなに親しくするようになるとは思わなかったですよ」
 「でも、付き合うんでしょ?」
 「えぇっと・・・それは保留にしてもらってるって言いましたよね」
 「うん、でも成人式の連休の時にその返事をするためのデートをするんでしょ?」
 「だからそうじゃなくて、その日にお試しの、って・・・あぁ、もうっっ」
 華蓮は真っ赤になって手を振るが、友子の顔からはからかいの色が消えないままだ。
 それを俯いたままそっと見上げて、なんで話しちゃったんだろう、と後悔していた。
 友子が言っているのは、康平と食事に言った時の話だ。
 その時の事を思い出すと、華蓮は途端に途方に暮れた気分になった。



 「付き合うって・・・誰と・・・誰が・・・?」
 「誰と誰がって、俺と華蓮さん」
 「い、いや・・・だからっ・・・・でも、その、ですね」
 テンパってないでちゃんとしなさいよ、華蓮は心の中で自分に突っ込むが、だからといって落ち着いて話ができるかと言われても頷けない。
 「付き合うも何も・・・私、綿貫さんの事、全く知らないんですよ? そんな人と付き合うなんて・・・その、無理ですよ」
 「どうして? お互いを知り合うために付き合おうって言っているんだろう? 別にすぐに結婚してくれって言っている訳じゃない」
 「けっ、けっっ」
 どこから結婚何て言う単語が出てくるんですか!
 そう言いたいのにテンパり過ぎて華蓮の口からちゃんとした言葉すら出ない。
 「ほら、落ち着いて。俺たちはお互いの祖父祖母繋がりで知り合ったから、お互い相手の事を良く知らないだろう? でもこうやって一緒に食事をするのって楽しくなかった? 俺はのんびりできて良かったよ。だから、これからもこうやって2人で一緒の時間を過ごせたらなって思ったんだ」
 「でも・・・無理ですよ」
 「どうして?」
 「だから・・・」
 私、あなたに振られてますから。
 そう言いかけて、華蓮は下を向いてしまった。
 言える訳ない、そう思ったからだ。
 目の前の彼は、華蓮がずっと憧れていた人だ。もし東京にいた時にこんなことを言われていたら、きっと一も二もなく頷いていたと思う。
 けれど、今華蓮は東京から遠く離れた地方都市であるここに住んでいて、彼とはただの祖父祖母繋がりと言うだけの知り合いで、何より彼は憶えていなくても華蓮は彼に振られているのだ。
 ――興味ない。
 そうきっぱり言われたではないか。
 もし今ここで付き合うと言ったところで、すぐにまた同じことを言って切り捨てられるに違いない。
 いや、今度は祖父祖母繋がりの事があるからそう言う切り捨てられ方はないかもしれないが、それでも彼がいつまでも華蓮に興味を持ち続けるとは思えない。
 だったら・・・・
 どうせ切り捨てられる事が判っているのであれば、最初から彼と付き合わなければいいのだ。
 そうすれば、華蓮がまた傷つく事はない。
 「付き合えません」
 「・・・どうして?」
 「私、今の綿貫さんたちと祖母との関係が気に入っているんです。だから、その関係を悪くするかもしれないきっかけを作りたくないんです」
 「それは判らないだろう? もしかしたらもっと良くなるかもしれない」
 ゆっくりと顔を上げて真っ直ぐ見つめた彼は、同じように真っ直ぐ華蓮を見つめている。
 「そうですね・・・でも、悪くなるかもしれないという可能性もあります。私は祖母のためにもリスクを冒したくないんです」
 そして、自分の心の安寧のためにも、とそっと心の中で付け加える。
 そんな華蓮の目の前で、康平が大きな溜め息を吐いた。
 きっと華蓮の臆病さに呆れたのだろう。
 それでも華蓮はここで流されるわけにはいかないのだ。
 そんな決意を込めて康平を見返すと、彼は少し困ったような顔をしてからフッと笑みを浮かべて口を開いた。
 「・・・じゃあ、お試し期間って言うのはどうかな?」
 「はっっ?」
 「だから、俺と付き合うんじゃなくて、俺と付き合うかどうかを決めるためのお試し期間を設けたらどうかな?」
 「それって同じ事じゃあ・・・」
 「違うよ。恋人同士として付き合う訳じゃなくて、ただのお試し。ほら食事に行ったり一緒に休みを過ごしたりして、それでお互い上手くいきそうだったら付き合おうよ。もしその間にやっぱり駄目だなって事になれば、そこまでにすればいいだろう? それなら付き合っている訳じゃないから、別に祖父祖母の繋がりの方に変な亀裂が入るでもないだろうしね」
 屁理屈としか思えない事を言い出した康平を、華蓮はなんとも言えない顔で見つめた。
 「もちろん、恋人じゃないんだから、変な事はしないと約束する。キスもしないし、もちろんそれ以上の事もしない。そうだな・・・手を繋ぐぐらいだったら友達でもするだろうからそれくらいは許してもらえると嬉しいんだけど、それでも華蓮さんが嫌だって言うんだったら手も繋がない。ただ一緒に食事をしたり休日を過ごす・・・まぁ友達ってことかな。ただ立ち位置が多少変わるかもしれないって言う限定的な、ね」
 「でも・・・」
 「そういえばクリスマスが終わっても大晦日まで忙しいんだろう? それに、友達に会いに行くって言っていたよね?」
 「あっ、はい」
 急に話が変わって目を白黒させながら、それでも華蓮は素直に頷く。
 その話は以前彼が店にきた時に話してあったからだ。
 「お店の正月休みっていつ?」
 「お店は・・・お正月は元旦から4日までお休みです」
 「その間ずっと東京に行っているんだっけ?」
 「いいえ、元旦は祖母と過ごします。それで2日から4日まで友達の家にお世話になる事になっています」
 「そっか・・・」
 何か考え込んでいるのか、康平は左の親指を顎に当てて目の前のデザートの皿を見つめている。
 華蓮は少し頭を傾げながらも、それでも黙って彼が何かを言い出すのを待つ。
 というか、急に話が変わってしまって、華蓮には一体何がどうなっているのか判らなくなってしまっているのだ。
 「お店の定休日はいつ?」
 「お店、ですか? えっと、毎週日曜日です。後は週に6日開けてします」
 「そっか・・・じゃあ祝日は?」
 「お休みです」
 <ダンデライオン>は基本、日曜祝日が休みと言う事になっている。それはお店に花を入れてくれる仲買さんが花を仕入れる先の市場が日曜祝日休みだから、と言うのが理由で、それは祖母が店を開く時にそう決めたらしい。
 「じゃあ、成人式の連休は休みだね」
 「そうですね・・・成人式とかだとお店を開けていてもあまり売り上げに関係ないから」
 それよりもバレンタインや卒業式の方がはるかに忙しい筈だ、と華蓮は頭の中で考える。
 まだ1年経っていないから華蓮にも店の繁忙期が今1つまだ理解できていないのだが、それでもバレンタインや卒業式が忙しいだろう事は想像がつく。
 「だったら、その時に一緒に出かけよう」
 「へっ?」
 「だから、お試しってヤツ。もし2日両方は無理だって言うんだったら、そのうちに1日でいいから、俺と一緒に過ごそう」
 「だっ、だから、ですね」
 「別におつきあいをしましょうっていうんじゃないよ? ただのお試し期間を一緒に過ごしましょうって言ってるだけさ。映画を観に行ってもいいし、ドライブでもいい」
 結局、そこに戻るんじゃないっっ。
 華蓮は口をぱくぱくさせて文句を言おうとしたけれど、言葉が出てきてくれない。
 「そうだね、いきなりドライブなんて言うと華蓮さんは困るかな? じゃあ、映画を観に行こう。何か見たい映画があったら言ってくれれば、俺はそれでいいから」
 「・・・人の話を聞かないっていわれませんか?」
 「俺? 言われない」
 「・・・そうですか」
 きっぱりと言われて、華蓮はがっくりと肩を落とす。
 きっとこの人と自分は意思の疎通はできないんだろう、としか思えないほど一方通行の会話が2人の間で成り立っている。
 それを思うと、康平はきっと華蓮が何を言おうとこのお試し期間とやらを諦めないに違いない。
 だったら、と華蓮は顔を上げた。
 数回彼の酔狂に付き合って、とっとと愛想を尽かしてもらおう。
 「判りました。でも、日曜日だけですよ。私だって色々とする事があるんですから」
 「いいよ、忙しいのに俺に付き合ってもらうんだから、無理は言えないって言うのは判ってる」
 十分無理言ってるじゃない、と口に出さずに飲み込んで華蓮は乾いた笑みを浮かべた。




 ホームに人が増えた。
 そろそろ電車が来る時間なのだろう。
 華蓮はホームを見上げて時計を捜すと、今は夕方の6時少し前だった。
 「もう6時なんだ。結構遅くまで遊んでいましたね」
 「うん、だってご飯が美味しくって、2時間以上いたからね、あのお店。それから4人でふらふらとお店を見て回ってからスタバに入ったでしょ? だったら・・・う〜んと、このくらいの時間でもおかしくないんじゃないの?」
 ランチからの流れを考えると、確かに友子の言う通りだ。
 「そういえば、晩ご飯どうする?」
 「晩ご飯、ですか? そうですね・・・まだあんまりお腹空いてないかも」
 「私もそう。じゃあ、コンビニで何か摘めるものでも買って帰りましょうか? それと朝ご飯用のパンもね」
 友子に聞かれて、華蓮はそっとお腹に手を当てる。
 あれだけ食べたり飲んだりしていたからか、お腹が空いている気がしない。
 だから友子の提案は丁度いいと思って頷いたその時、後ろから名前を呼ばれた。
 「華蓮さん?」
 「えっ?」
 ぱっと振り返るが、背が低い華蓮は周囲を人に囲まれて誰に名前を呼ばれたのかも判らない。
 気のせいかも、と思って前を向いた時、ポンと肩を叩かれた。
 「華蓮さん」
 「わっ・・・綿貫さん」
 振り返った先に立っていたのは、<電車の君>、綿貫康平わたぬきこうへいだった。




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