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これまでの放送

No.3614
2015年2月10日(火)放送
“見えない声”にどう向き合うか
~匿名情報に揺れる企業~

次々と捨てられるカップ麺。
去年(2014年)末、生産停止に追い込まれた食品メーカーです。
きっかけは、「商品に虫が入っていた」というツイッターの投稿でした。
ネットに書き込まれる企業へのクレーム。
匿名の投稿が一気に拡散し、企業に打撃を与えるケースが相次いでいます。

大手ハンバーガーチェーン
「大変申し訳ございません。」

しかし、真偽不明の情報も多く、企業はどう対応すればいいのか難しい課題です。

食品メーカー 副社長
「本人確認がとれるかどうかでもまったく対応が変わってきますし、まったく性質が異なる対応をしなきゃいけない。」

一方、ネットで声を上げるようになった消費者。
今まで以上に、企業に対して厳しい目を向けています。

ネットに投稿した人
「事の重大さをご理解いただいてないようでしたんで、それをツイッターに訴えてみる。」

ネットに拡散する見えない声にどう向き合うのか。
模索する企業の現場に迫ります。

拡散する“異物混入” なぜネットに投稿?

都内に住む50歳の男性です。
先月(1月)中旬、とうもろこしの缶詰を開けたところ、異変に気付きました。

ネットに投稿した男性
「これなんですが、何か変なものが入ってまして。」




毎日、ツイッターに10件以上の書き込みをしているこの男性。
すぐに撮影した画像と共にコメントを投稿しました。

“ひと事と思っていた。
ビニール片が混入。”


ネットに投稿した男性
「ツイッターはやはり身近にあるメディアですので、誰かに見て頂きたいという、単純にそういった気持ちです。」



ふだん、男性のツイッターを閲覧しているのは80人以上。
情報はその人たちを通じて拡散していきました。
男性の家族が食品メーカーのコールセンターに電話をします。
数日後、担当者がやって来て謝罪し、代替品として缶詰と1,000円を手渡されたといいます。
しかし男性は、再び投稿します。
再発防止に向けた姿勢が感じられなかったからです。

ネットに投稿した男性
「事の重大さを理解されてないなという印象を強く受けたものですから。
自分の気持ちがおさまらない。」

1週間後、メーカーからは再発防止策を記した書類が届きました。
今回の事態について食品メーカーは「再発防止に向け最善の努力を重ねていく」としています。

拡散する“異物混入” 追い込まれる企業

ネットにあふれる、企業へのクレームなど匿名の書き込み。
「異物混入」をキーワードにツイッターで検索すると、先月末の1週間で、80件以上の投稿が確認されました。

“牛丼に輪ゴムらしきものが付着していた。”

“プリンを開けたら毛が入っていた。”

真偽を確かめるのが難しいものも数多くありました。
ネットの情報は、どのようにして企業を追い詰めていくのか。
去年、生産停止に追い込まれた食品メーカーのケースでは、情報が拡散する中でネット上の反応が過激になっていったことが分かってきました。

きっかけは、この投稿。
「カップ焼きそばに虫が入っている」というものでした。




ソーシャルメディアなどによる企業のリスクを研究している団体です。
最初の投稿のあと、それに反応した書き込みの件数がどのように変化したか調べました。
虫が入っているという投稿は去年12月2日の夜でした。
翌日、その投稿を引用するなどした書き込みが急増。
1万5,000件以上に上りました。

2日後、メーカーはコメントを発表します。
調査の途中でしたが「通常、製造工程上混入は考えられない」としたのです。
すると、書き込みはさらに増えます。
「上から目線だ」「反省する気ゼロ」などの声が相次ぎました。


ニューメディアリスク協会 衣川武志さん
「事実であることが分からない中で、まず否定するという対応が非常にまずかった。」



その後、いったん投稿は収まります。
しかし1週間後、今度は3万5,000件を超える書き込みが行われます。
きっかけは、メーカーが「調査の結果、混入の可能性は否定できない」と発表したことでした。
当初の態度を翻したことに対して「イメージ最悪」「二度と買わない」など、さらに過激な声が広がったのです。

ニューメディアリスク協会 衣川武志さん
「事実関係の調査というものがしっかりできていれば、1度で終わっていたという事例であると思います。
インターネットの上で刻一刻とお客様対応が公開されていくという、これは非常に難しいことを今後企業は迫られるということだと思う。」

その後、この食品メーカーは製造ラインの改良を検討し始めています。
異物混入の書き込みがあってから2か月余り。
今もすべての工場で生産が停止したままです。

“見えない声”にどう向き合う 匿名情報に揺れる企業
ゲスト鈴木謙介さん(関西学院大学准教授)

●書き込みの真偽が分からない中で対応しなければいけない難しさ

そういうふうに見てしまうと、インターネットの匿名の情報が広がっていくのって怖いな、企業も倒されてしまうのかというふうに見てしまうんですけれども、まず大前提として、日本の場合、消費者団体というのは、ほかの国に比べて弱くて、消費者の声っていうのが、企業に対して届きにくい、あるいはうまく伝わらない、無視されるってことが続いてきたっていう経緯があります。
そうした中で、ソーシャルメディアが登場したことで、自分たちの声がやっと企業に直接届けられるようになったと。
こういうふうになったことを考えると、一人一人のお客さんとしては、自分をちゃんとお客さんとして扱ってほしいという気持ちになってくるのは当たり前だと思うんですね。
今回のVTRにあったような、そのとうもろこしのケースなんかですと、確かにおうちまで行って対応しているようには見えるんですけれども、対応された側からすると、客として扱われなかったという気持ちがどうしても残ってしまった。
自分たちとしては、「ちゃんとやった」ではなくて、ちゃんと相手の納得する対応だったかどうかということを考えないといけない、そういうところに来ているんだと思いますし、そういうふうに見ると、これ、インターネットの話じゃなくて、昔ながらのお客さんとの1対1のフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの話なんですよね。

●企業側は投稿の真偽の見分けがつかない中、対応に迷うのでは?

難しいと思います。
ただ、こうした安全に関わる問題の場合、あとからやっぱり危険だったというのは、非常に最悪の対応で、もしかすると、安全かもしれないけれども、自分たちが100%悪いことを想定して、最初に動くっていうことが非常に重要なんですね。
この初動を誤ると、あとからあとから悪いことが出てきて、どんどん印象が悪くなってしまうということが起こる。
その最悪のケースを想定するってことができるかどうか。
これまでだったら、どうしても防衛的になって、まずは都合の悪いことは言わないように、隠そう隠そうとしてたと思うんですけど、そうしたことがソーシャルメディアの登場でやりにくくなってしまっているということはあると思います。

●大手ハンバーガーチェーンでは次々に異物混入の事例が出て、企業のブランドが痛めつけられる事態になっているが?

これもまた対応が難しかったケースだと思います。
どうしてもこうした騒ぎが起きると、例えばツイッターなどですと、検索をして、何か似たような事例がないかというのを探す方が出てきますし、また、消費者も不安になってますから、自分の口に入れたものの中に何か入ってるんじゃないかと思って、口に入れて、「ほら、やっぱり!」みたいなことがどうしても通常より増えてしまう。
さらに言うと、例えばハンバーガーチェーンのケースですと、4か月前にブログで話題になったことが、ブログに載ったことが、改めて記者会見を通じて話題になって、ツイッターで拡散した。
そうすると、騒ぎになってるぞっていう情報だけが独り歩きして、いつのものだったのかっていうのが伝わらないまま、ここ最近、ずっとあのチェーン、なんか悪いことが起きているぞと見えてしまう。
そうすると、もう先入観で、なんか口に入れるの怖いな、行くのやめとこうという、負の連鎖が止まらなくなってしまうんですね。
(今起きていることではないことでも、今起きてるように感じてしまう?)
対応済みのことでも、またリバイバルして炎上するということが起こってしまうんですね。

“見えない声” 対応 迫られる企業

菓子の製造・販売を手がける食品メーカーです。
ネット上のクレームなどに対応するために、マニュアル作りを進めています。

チロルチョコ 松尾裕二副社長
「“リスク分け”を作り込んでる最中です。」




異物が混入しているという情報が寄せられた場合、健康被害の有無や同時に複数起きているかどうかなどをもとに、3つに分類し対応策を検討しています。



マニュアル作成の指揮にあたっている、副社長の松尾裕二さんです。
一昨年(2013年)、異物混入の疑惑に見舞われたときの経験を生かしたいと考えています。



当時、投稿された画像です。
商品に虫が入っていたという情報は、1分間に数百件という速さで拡散したといいます。



消費者からクレームの電話が殺到したことで投稿の存在を知った松尾さん。
商品が期間限定品だったため、出荷時期が半年前だったとすぐに突き止めました。


一方で、画像の虫は生後1か月ほどのものだと判明。
工場から出荷されたあとに混入したものだと分かりました。




3時間後にコメントを発表。
出荷した時期と虫が生きた期間とがずれているという情報を発信しました。



するとネットの書き込みが収まり、クレームの電話も鳴りやみました。
松尾さんは、分かった情報を素早く発信できたことが決め手だったと考えています。

チロルチョコ 松尾裕二副社長
「スピード感を持ってやらなきゃと、本当に怖かったです、あの時は。
同じようなことが起きた場合に、うまく対応できるように下準備がどうしても必要になる。」

松尾さんが重視する素早い情報発信。
しかし、投稿が匿名の場合は、いつもそうした対応ができないことも分かってきました。
投稿した人と連絡が取れないと、製造日や出荷時期などが特定できない場合があるからです。

チロルチョコ 松尾裕二副社長
「本人の特定もまだできていない状態がスタートで、ツイッターだけで、お客様相談室に本人からの電話はないという状態。」

社員
「その時はもうお手上げですね。」

調査が進まないうちにネットの書き込みが拡散。
そのとき、どのように情報を発信すればいいか方策は見つかっていません。

社員
「自社のホームページにのせる。
“調査しようとしているが(確認がとれない)”と。」

チロルチョコ 松尾裕二副社長
「消費者からしても“だから何?”って話になる。
“調査できていません”では。」

社員
「それでは納得しないと思います。」

チロルチョコ 松尾裕二副社長
「先にネットが炎上してしまうという場合はまったく性質が異なる対応をしなきゃいけないと思うので、その辺のスピード感にどこまですばやくついていけて対応できるか、難しいと思います。」

“見えない声” 問われる企業の体質

ネットの投稿をきっかけに、経営方針の大幅な見直しを迫られた企業もあります。
全国におよそ2,000店舗を展開する大手牛丼チェーン。
去年、経営体質について消費者から厳しい批判を受けました。
従業員の長時間労働や深夜の過重労働などを巡って、「人を大事にしない企業」「もう行かない」などの書き込みが広がりました。
こうした影響などもあり、今年度の営業損益は17億円のマイナス。
創業以来、初めての赤字となる見込みです。

この牛丼チェーンを運営する会社の取締役、国井義郎さんです。
これまでは、価格の安さや24時間営業を売りにしてきましたが、今、それだけでは消費者が受け入れてくれないと感じています。

ゼンショーHD 取締役 グループ職場環境改善改革推進室長
国井義郎さん
「従来であれば、商品の価格とか、コストとか、食材とか、そういった部分だけにお客様の目がいっていたと思う。
しかし最近は、そこで働いている人たちがどんな思いでサービスを提供してくれるのかを含めた時代になっている。」

消費者に受け入れられる企業となるにはどうすればいいか。
従業員の働き方への不満をいち早く把握する取り組みを始めました。

「普段言ってることでもいいんです。
でも言えないことでもいいから、ぜひ言ってもらいたいなと。」

今月(2月)から始まったクルーミーティングです。
アルバイトや契約社員などを集め、ふだん職場で言いにくい不満などを聞き取っています。

女性
「休みなのに電話がかかってくる。
24時間電話がかかってくる。
そうすると休みじゃない。」

さらに、人件費などコストがかかる改革にも乗り出しました。
消費者から、特に問題視された深夜の1人勤務を廃止。
2人のスタッフを配置することにしました。
これによって店舗ごとの人件費は1割ほど増えました。


新たにトレーニングセンターも設置。
スタッフの技術力向上のためにこれまで現場の店舗に任せていた調理場の研修を一括して行うようにしました。

「どんぶりは、右手で持ち上げた時に、左手で回転させて中を洗ってあげます。」

研修にかかる費用は年間1億4,000万円近く増えますが、必要な投資だと考えています。

ゼンショーHD 取締役 グループ職場環境改善改革推進室長
国井義郎さん
「目先のコストは多少上がったにせよ、数年たてば、そういった人たちの働きが向上する中で新しい付加価値を生んで、コストは回収できる。
結果としてお客様満足を実現するベースだろうと考えています。」

“見えない声” どう向き合うか

●商品のチョコレートから虫が出てきたという情報に対し、迅速な対応で炎上を抑えたケースあったが?

と思いきや、これ、あえて砕けた言い方をすると、超ラッキーなケースです。
普通はチョコ1個の流通って捕捉できませんから、いつ、どこで、どういうルートで売られたものなのかというのは分からないので、全く特定できません。
特定できないと、今回のような情報を発信することもできませんから、多くの場合はこうした全く特定もできない状態で、「これ本当なの?どうしよう?」というところからしかスタートせざるをえないというのが現状だと思います。
(もしそうだった場合はどうすればいい?)
そうですね、最悪を想定して動くっていうのもそうなんですけれども、まずこうした不安が起きたときに、どうしてもデマが流通しやすくなります。
不安が起きて、なんかそれを解消してくれる確かな情報がないと、もっともらしい情報にみんな、飛びついてしまうんですね。
これを解消するためには、きちんとした公式のソースから情報を出すことが、非常に重要です。
例えば、分からないなら「分からない」、「分からないけど、いつまでに検証します」「いついつまでになったら分かります」。
こうしたことを逐次出していくことによって、ああそれなら大丈夫だなというふうに安心をすることができるし、それを拡散させていくということが非常に重要になります。
これまでだったら、企業の情報発信というのはホームページで一方的に行うことが多かったと思うんですね。
ところがこれ、一方的に今そういう情報発信をするとどうなるかというと、その企業のホームページに対して、例えばソーシャルメディアで、普通の消費者がコメントをつけて、なんだこの一方通行の発信はという形で、本来言いたかったこととは全然違う形で、流通されてしまう。
これが例えば、ソーシャルメディアに自分たちでアカウントを持っていて、公式にリツイートされるような環境を作っていれば、本来、公式のことはこういうことを言っているよねというふうに、消費者が安心して確認をすることができます。
こういう確認できるソースから確かな情報を出していく。
分からないなら分からないと正直に言っていくということが、大事なんだと思うんですね。

●ふだんからSNSリスクに強くなるにはどんなことが必要?

リスクに強くなることがどこまでできるかは分からないんですけれども、少なくとも情報発信を止めて、なんか、おとなしくしていようというのではなくて、日頃から何気ないことでも、情報発信をして、あっいつもつぶやいている、あの人が言っているからこれは確かなんだなっていうふうに思ってもらう、そういう先入観をちゃんと与えておくことが大事だと思いますね。

●牛丼チェーンの場合、企業の行動を変えさせるところまで動き始めたが?

本来、これまでだったら、人のうわさも七十五日というか、ほとぼりが冷めたらまた同じことをやろうということができた環境が、ソーシャルメディアの登場によって成り立たなくなっています。
これまでのように、ほとぼりが冷めるのを待つというよりは、きちんと消費者の声に応えて、それに見合うだけの行動をしないといけない。
いわゆる企業の社会的責任・CSRというものが、本来の形で機能してくるようになったんだと思います。
CSRというのは、右手で悪いことをしてもうけたお金で、左手でいいことしたからチャラだよねというものではなくて、自分たちのやっている仕事というのは、そこからお金をもうけさせてもらっている社会にきちんと還元してるんだということを、消費者に知ってもらう、理解してもらうという取り組みですから、そうしたことを怠っていると、消費者の側から選択をされなくなってしまう。
安ければなんでも買うという時代ではなくて、きちんと価値のあるものを選ぼうという消費者にそっぽを向かれてしまうということが起こるようになっています。

●消費者がもの申せる手段を得たことで、企業を変えるところまで影響が及んでいるが?

そのときに大事になってくるのは、ただ、その消費者が、ただ火をつけたくて、おもしろ半分でやっているのか、それともきちんと企業を変えたくて行動しているのか、これを区別していくことだと思うんですね。
その区別ができるようになるためには、私たち消費者の側も、ただただ脊髄反射でおもしろい情報だからっていって拡散してしまうんじゃなくて、例えば、あの件あのあとどうなったんだろう、どういう対応したんだろうというのをちゃんと確認するだとか、あるいはそうした意識を常に持っておくことから、消費者と企業のよりよい関係を作っていくような、そういう社会に変えていく力に変えていけるんじゃないかなと思うんですね。

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