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【コメディ戦記】ルーレ・ムエルテの14枚~ブラックジョークと熾天の隠し子~ 作者:ひなたつらり

未来の章

1

メリルアース城下町。
この城下町は、何でも名誉ある町なのだそうだ
何でも姫殿下が民と遊ぶために身分を隠してまで訪れたい魅力的な場所だったと言われている。
実際は、ただ近かっただけというのが理由であるが。

城下町の頭上。
友人のロザリーが張り巡らせた糸の上で姫殿下は戦っている。
美しい金色の髪を振り乱して鮮やかに剣を振るい舞う。
大きな胸は時折揺れ、回し蹴りを放てば鮮やかなラインを描いてスカートをはためかせる。
敵を見据える青の双眸は妖艶に映り、姫の全てが魅力的と言えるだろう。

彼女が過去。王女としての名誉を失わされた原因の男を弄ぶようにイジメながら。
ルクレシアは、軽く恐怖した。
姫の剣技と状況に。
何せ、周囲には姫殿下を慕う友人と彼女の師匠であるローゼン。
加えて二人の信頼のおける部下がいるのだから。
周囲は敵一色。
それなのにバカみたいに攻めて来たのには理由があるのだろう。
さしずめ脅されでもしたのだろう。
過去にこいつは、名誉あるダークエルフの騎士団を纏めていた。それなのに惨めになったものだ。
呆れるような視線を男に向けると、ウルスラ姫に更に煽られているのがわかる。
「剣技では勝てないんだから。距離を開けて戦わないと死んでしんじゃうよ」
酷な事だ。
距離を開ければ、彼女の能力が男を殺す。
それをわかっていてあえてウルスラは距離を詰めて戦っている。
剣聖。王家に伝わる能力であり、これは英雄の象徴である。
その能力を手に入れたが為に過去彼女は犯罪集団である咎人から狙われた。

指を一本中で描けば、眼前の者が小さく切れ、薙ぎ払えば大きく切れる。
剣を使えば威力が上がり、連続させれば、その分対象を切り刻む。
彼女が線を引けば、どんなものもたやすく切れるだろう。

昔は、もう少し守られキャラだった気がするのだがな。
懐かしい。最初の頃が。

そう言えば昔。ウルスラの問題を解決するまでは、彼女の事を内気な少女と思っていたんだったな。

しかし、問題を解決した後は考えを改めさせられた。
そして、彼女を知るいいきっかけになった。鮮明に思い出せる。彼女は何時だって優しく気高く美しかった。

過去から解放されて明るくなった。
親との確執がとれたことも原因の一つだろう。
罪滅ぼしの為に国王は奮起していたな。
事ある毎にウルスラの機嫌を取ろうとするんだ。笑わないと言うのは酷だ。
そう言えば、あいつを女性として意識したのは何時だったのだろうか。
正直何時意識してもおかしくない状況に居たと思う。

柔らかく白い肌に碧眼。金色の髪に妖艶さを漂わせるスタイル。
彼女は女性として何もかも魅力的なのだ。友人曰くウルスラは王女一お転婆でも服の中に秘めた色気は天をも貫く勢いだという。
これを言っていたのが、ウルスラの幼馴染であり女友達なのだから救えない。

思えば俺達は、とんでもない生活を送っていたのかもしれない。

それ以外にも沢山の出来事があった。
初めて互いを意識してのデートは本当に緊張したものだ。
あの時の事は、思い出しただけでも手に汗が浮かびそうになる。
本当にどれも大切な思い出なのがよくわかる。
皆の幸せ。そして、ウルスラの幸せの為にも早くこの戦いを終わらせなくてはならない。

一人深く考え込んでいると、どうやらもう戦いは終わったようだ。
街の頭上。糸の上で決着がついた。
既に民衆のボルテージは最高潮に達しようとしている
ルクレシアは、誇らしげにしている彼女へ視線を送った。
視線に気づいた彼女は小さくほほ笑んでくる。
金色の髪の隙間から覗く青の双眸。美しかった母の現身のような容姿をしているルクレシアの瞳には過去の戦争が描かれていた。

あの咎人の男には、大きく追い詰められた者が多くいる。
ダークエルフ軍および犯罪組織咎人の元幹部の末路。
終わりを見てしまうと笑ってしまうくらいあっけない。
こんな奴に世界は苦しめられていたのかと。
やり切った顔のウルスラにルクレシアは小さく拍手した。
それからは、街中大忙しである。
宴だ何だと唐突に催し物の準備を始めたんだ。
祭りは全て終わってからだと、言っていたのに聞きやしない。
皆の大好きな姫様が討ち取った。
そして、その勇姿を初めて目の当たりにできた。
民衆にとっては、とんでもないサプライズとなったようである。
誰とでも親しげに話す姫。
民に近い位置に居ようとした姫だ。
身分を隠している間は、我が子の様に可愛がっていた人もいるだろう。
そう言う暖かさも彼女の魅力なのかもしれない。
ルクレシアは、祭りの手伝いを始めたウルスラの元へ駆けて行った。

祭りは当然大盛り上がり。
騒ぎの中に居ると、めまいがしそうな程に盛り上がっていた。
ルクレシアもその一人である。
煌びやかに彩られた城下街から離れて裏通りに入る。
薄暗く、じめじめとした通路に乱暴に置かれたタルに腰かけた。

もうそろそろだ。
ルクレシアは、手の平を見る。
そこには、ベイルという名が刻まれている。
もう日は沈み人が寝静まる時間。
バカな奴らは、まだ騒いでいるが、ルクレシアはこんな時間にやる事があった。
今は、他の軍隊が作戦行動中。
ルクレシア達は一時休息を取っているに過ぎない。
そして、恐らくあと数時間で援軍要請が来る。
文字が光ればそうだ。

じっと待ち、文字を見続けていると裏通りに人の気配がした。
足音は小さい。恐らく子供だろう。
笑顔で手を振ってみると、少女はルクレシア目掛けて駆けてきた。
「ルクレシア様!好きです」
「ありがとう」
まだ幼い。単に大人がよく見えるお年頃なのだろう。
少女が差し出して来た花束を受け取ると、少女は恥ずかしそうに駆けて行く。
その先には、母親がいて軽く会釈される。
当然ルクレシアも返すと、親子は楽しそうに会話をしながら去って行った。
目を閉じる。
花に顔を近づけると、ほのかにいい香りが漂ってきた。
真っ赤なバラの花。
民衆の素直な感謝の気持ちに心が温まっていく。
そんな時、不意に茶化すような声が聞こえた。
「やけちゃうな。なーんて」
おどけながら現れたのは、ウルスラであった。
「主役が抜け出したらダメだろう」
「誰かさんが構ってくれないのが悪いのです」
寂しかったよ。と甘えた口調で彼女は言う。
ゆっくりと近づいてきて何を思ったのか、ウルスラはルクレシアの膝の上へと座った。

彼女の柔らかい感触が伝わって来る。
「もう直ぐだよね。じゃあ、行ってらっしゃいのキスをしよっか」
寂しそうに眉根を寄せて呟くと、ウルスラはゆっくりとルクレシアと唇を重ねた。
自分を忘れさせない様に何度も角度を変えて刻んでいく。
離れられない様に彼が自分のところへ戻ってくるように長いキスは続けた。
吐息が漏れて、涎が唇から洩れても二人は口づけをやめなかった。
互いの頭に手をそえて求め合う。
そして、それから少しすると、ルクレシアの手の平が淡く輝いて忽然と姿を消した。

姿が消えて抱きしめる者を失ったウルスラは、瞳に涙をためて唇を噛みしめる。
そんな彼女の気持ちを察してか、後ろからガウンをかけられる。
振り返らなくてもわかる。
友人であり、ライバルでもあるダフネだ。
赤く美しい髪はまとめあげられており、ドレスも鮮やかだ。
媚薬の魔法を扱う彼女らしい豊満なスタイル。
見る者を惹きつける美女。
にも拘らず、ボサボサの髪に眼鏡に簡素なパーカーを着ている事が多いのが驚きである。
彼女はルクレシアに出会ってから学んだと言う。
着飾る事の無意味さを。人を見る事の大切さを。
優しい声音でウルスラに言う。
「冷えるから。もう戻ろう」
「うん」
瞳から大粒の涙を流し、ウルスラはダフネに付き添われて城への道を歩いて行った。

ウルスラとのキスの余韻を残しながら転移した。
視線を彷徨わせると気分が悪くなるような物が目に入る。
真っ先に視界が捉えたのは、趣味の悪い王族気取りの成金部屋であった。
この城の設計者など、想像しなくてもわかる。
趣味の悪さを見せられただけでなく、恋人との幸せな時間までも奪われたのだ。
気分が悪くならないわけがない。
加えて漂ってきたのは、血なまぐささである。
視線を巡らせてみると背を向けている男が居た。
端正な顔立ちで高い背丈の赤い髪の男である。

手の平に書いてあった人物ベイルである。
どうやら戦闘は終わっている様だ。
ベイルの下には、横たわり倒れているシトラスという魔女が居た。
最も王国を苦しめた物の一人だ。
魔力吸収を得意とする人物。
巨大な腕の尻尾を生やし箒に乗って宙を舞う。
空中での戦いを得意とし、大きな手で時には城全体を覆い魔力を吸い尽くしてきたりする悪人だった。
元上級貴族であり、本来ならば王族フレンディールに使えていなくてはならない人間。
それなのに王国にあだなし、多くの人を不幸に陥れた罪人。
こんな姿になろうが同情などするはずがない。
体中から血を流して、人体がバラバラになっていたとしても。
しかし、今気になるのはベイルだ。
こいつは、今何をしているのだろう。
先輩だろうが、何だろうがおかしい事はおかしい。
何でバラバラ死体と笑顔で写真撮ってるのだろうか。
ルクレシアは率直な疑問を感じた。
「ん?どうしたルーク。そんなに驚いて。拾い食いでもしたのか」
茶化すようにベイルは言う。
ルクレシアは、納得のいかなさから青筋を浮かべそうになるのを必死にこらえている。
お前は援軍要請をしたのではないのか。
聞きたい率直にそう聞きたいが、まず目の前の奇行について問い詰めなければならないと感じた。
「ベイル。お前は何をやっている」
「これは俺の功績だ。咎人の最高幹部討伐。この名誉を誰かに渡すわけにはいくまい。証拠は大事だ。そうだルーク。お前この討伐結果の保証人になってくれ」
嬉しそうに書類を差し出して来た。
何故持っていると聞きたかったが、こいつはそういう奴だ。
気にするだけ無駄であろう。

「あぁ、これで一個勲章確実ですねー」
棒読みのルクレシアから書類を受け取ると、ベイルは満足げに頷いた。
ここでふと気づく。
いや、待て。まさか。
この為に呼んだのか。
予想は的中し、満足げに遺体を袋に詰めたベイルは、こちらに目を向けずに城へ戻っていった。

いつも通りと言えば、そうである。
奴は、一番旨い物は自分の功績。一番まずい物は他人の功績。
貴様の活躍など、私にとっては有害でしかない。
などという、ふざけた理由で途中帰宅してしまうベイル将軍なのだから。

いつも通りの残念な将軍に安心半分落胆半分であった。

あの日から数日。
何事もなく時は過ぎた。
戦死者も出ず、滞りなく征伐していく。
疲労を見せる者はもちろんいた。
しかし、最終局面である為に皆口には出さなかった。
血塗られた剣。陥没した縦。
かつては美しかった街並みがゴーストタウンと化している。
その街の思い出し救い上げるように土を掴む。
戦火に蹂躙されて焦げてしまった物だ。
あんなにも。思い出の詰まった街を奴らとの戦争で失った。
しかし、もう今となっては気に病む事はない。
負ける事はない。
長きにわたって続いた戦は終焉を迎える。
皆笑顔を絶やす事はなくなるであろう。
そして、思い出の地は必ず息を吹き返す。
何てことはない。
単なる再出発である。

「もう少し待ってろ。昔の様に美しい街に戻してやる」
呟きから半刻が過ぎる。
火は沈み。人々は眠りについているであろう。
約束しよう。
お前達が寝ている間に全ての戦争が終わっていると。

誓いを捧げ祈りをささげてルクレシアは、近くで共に待機していたスロム・ディルカルに別れを告げた。
青髪の端正な顔立ちをした男である。
「この戦争が終わったら国に帰るのだな。リーディルスロウ国の将でありながら、よく仕えてくれた。礼を言う」
「勘違いをするな。貴様に才がなければ手を貸す事はなかった。あったからこうして、貴様についている」
最初は貴様に心などないと思っていた。
本性を隠していた事。忘れたわけではないからな。
人をたばかる者は好かん。
貴様を例外としてな。
「スロム・ディルカルは、心を持つ本性の貴様を尊敬している。だから、ついて来た。レジスタンスをやめる機会などいくらでもあった」
しかし、お前が言う全体を見回した時。わかったんだ。
お前について行くことが幸せにする最善策だと。
人々を愛する者として。
感謝している。あの時、目の前に現れてくれた事を。

「地位を失い。亡国と化そうとしているリーディルスロウに焦りを覚えてただ武力を行使するしかできなかった私の頭を冷やしてくれた貴様には」
スロムは言いかけて溜息をつく。
「最後くらいは感謝の言葉を述べてもいいと思ったが、どうにも貴様相手ではままならんな。ただただ敵でなかった事を幸運に思う」
「最高の褒め言葉をありがとう。お前達リーデ人の青い髪を見ていると塩気が漂ってきてたまらん。いい加減海中の底に眠るといい」
「貴様らリルマン人は、その不健康そうな白い肌のせいで脳みそまでしらばんで見えるぞ。いい加減外に出る事を覚えたらどうだ?」
「似たような事をそう言えばアネットから言われたな。出会った頃に」

思い浮かべたのは、ドレスリヒテン国の研究者であり協力者でもあるアネット・コーランドである。
赤く長い髪。肌はアルマン人特有の赤みがかった肌で目つきは美しく妖艶だ。
グリーンの瞳がよく似合う。綺麗と言う言葉を体現したかのような女性と言う印象が強く残っている。
いつも白衣を着ており、輸出する原子炉や魔道具などの開発では色々と世話になっていた。
「あの研究者ならばいいそうだ。違いない。どうせ貴様は、ベチャベチヤのトマトの脳味噌だとか、貴様らアルマン人の肌は健康的ではなくてトーストを焼きすぎて出来た赤みだとか言うんだろう」
「「知っているぞ。貴様らの先祖がイースト菌である事を」」
二人は同時に言うと笑い合った。
何もかも懐かしい。
二人が出会った頃。
王国奪還戦の最中であった。
咎人を倒して国を取り戻したいルクレシアと遠く離れた北の大地から出向き咎を倒す事で国の正常化を図ろうとした地位を失った将軍スロム。
彼はルクレシアの説得の元に一時行動を共にする事になっていたのである。
「それが今では、ズルズルズルズルと。本当に貴様は。昔の腹立たしい貴様を思い出したではないか。もうたばかるなよ」
「たばからないさ。こんなにも周囲に笑顔が戻った。もう直ぐ役目は終わりだ」

鋭い閃光が走る。
紅に光る一閃は、ルクレシアの美しい金色の髪を数本落としていく。
「これからの間違いだ。リルムを泣かせてみろ。お兄ちゃん許さんからな。貴様はもうじき弟になる。兄として誇りに思うぞ」

リルム・ディルカル。
ディルカル家の長女。
最初はスロムと共に行動をしていたが、何時しかルクレシアと共に居るようになっていた。
彼女は兄に甘える事を今までしなかったせいかルクレシアに甘え始めたのを覚えている。
無理難題に答えるのは、彼の得意分野でもある為リルムはどんどん懐いていった。
薄水色の髪は綺麗に切りそろえられていてパッツンヘアーとなっており、可愛らしい顔つきをしている。
彼女は最も才女で背が低い事もあり、遊びに出かけた時にいつも順番があると先に遊ばせてもらっていた。
ルクレシア関連以外でだが。
リルムを思いうかべながら、ルクレシアは冷やかすように肩を竦めて見せた
「お前のような兄は恐ろしい。故に御免こうむりたい」
「減らず口を。最近では6人の才女の尻に敷かれている英雄殿はこれだから」

「待て。その話は都合が悪い。俺は次の戦場に赴くよ」

ルクレシアは数歩進んだ。
目の前には倒壊した建物や、あちらこちらから煙が上がっているのが見える。
その惨状に眉根を寄せていると肩を叩かれた。
「時間か。次に会う時は友国の将だ。妹は頼んだぞ。手放すくらいなら全員選べ、どの道。貴様は幸せにできるだろう。世界を救った英雄だ。そのくらいの我儘は通るだろう」

「まだ先の話だ。今は止せ」
「限りなく近い先のな」

この会話を最後にルクレシアは転移する。
光に包まれてたどり着いたのは、薄暗い場所だった。

使われていない廃墟。本来ならば、人の気配すらしない場所。
所々壁が崩壊しており、吹き抜ける風が肌を刺す。
空を仰げば、当然の様に天井はなく瞳には、闇夜を照らす星空が見える。
こんな場所でいつか平和になった世界でトルデリーゼと来れたらいいな。
などとそんな考えが浮かぶ。

彼女は、昔と比べて随分と笑みを浮かべるようになった。表情の豊かさを感じさせてくれるようになった。
それだけでも十分に喜べるだろう。

あぁ、そう言えば、トルデリーゼの問題を解決するまでは、身バレを防ぐ為に名を変えていたな。
変なあだ名をつけられたり、称えられ始めたのには笑ったものだ。
そう言えば秘密を共有していた事がある。
仲間にも明かせない秘密であったから、ルクレシアとトルデリーゼは、いつも一緒に行動をする事を余儀なくされていた。
鮮明に思い出せる。彼女は何時だって優しく気高くアホだった。

過去から解放されて明るくなったな。
そして、あの秘密共有生活がなければ、トルデリーゼと今の関係を築くのは、無理だったであろう。
あいつを女性として意識したのは何時だったのだろうか。
正直何時意識してもおかしくない状況に居たと思う。

褐色の肌に碧眼。金色の髪に妖艶さを漂わせるスタイル。
彼女は女性として何もかも魅力的なのだ。一説によれば、ダークエルフは性の魅力がエルフや人間よりもはるかに高いそうだ。
秘密共有生活の頃から、とんでもない生活を送っていたのかもしれない。
それ以外にも沢山の出来事があった。
初めて互いを意識してのデートは本当に緊張したものだ。
あの時の事は、思い出しただけでも手に汗が浮かびそうになる。
本当にどれも大切な思い出なのがよくわかる。
皆の幸せ。そして、トルデリーゼの幸せの為にも早くこの戦いを終わらせなくてはならない。

空を見上げるのをやめて今にも崩れ出しそうな古びた床に視線を送る。
そこには、大きな血だまりがあり、人が倒れ込んでいる。
それは、女性であり、名はミランダ・メデュード。
咎人と言う王国に脅威をもたらす犯罪組織の女幹部だ。
桜色の髪に普通の体系。
飛び切り美しい容姿からは、多彩な嘘が放たれる。
夢魔に変身することが出来て幻術が得意で接近戦がそこそこできる。
俺が騎士になりたての頃の潜入任務で出会ったのが初対面だ。
仲良くなれたような錯覚に陥ることがあるようなないような。
人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、優しい口調で騙して来る女だった。
その時は短期間で3,4回騙されたっけか……でも途中から騙せなくなってつまらなそうに拗ねていた記憶がある。
こいつは、対咎人魔戦部隊の仲間であるガリアスの妹でもある。
あいつは、また悲しむのかな。
弟のフラクタスの時もそうだった。殺すだの粛正だとか言っておいて、仲間の為とも付け足している。
途中で気づいてしまった。
あいつは、裏切った一族を兄妹を殺さなくてはならない重圧に押しつぶされそうになっていたことを。

そして、いざ殺した時に辛そうにしていた事を。
この兄弟はガリアスを合わせて5人いる。
今回のミランダを殺したことで3人を始末した事になる。
残るは一人、一族の長にして最大の敵の一人。
ロキ・メデュード。
性格は似ていないが、外見ではガリアスに最も近いかもしれない。あいつと一緒の眼の色と髪の色。顔つきも少し似ている。
そういえば、こいつにもミランダ同様にしてやられた事があったな。
だが、そんな事は、はるか昔の話だ。
今のルクレシアならば、確実に奴を殺せるだろう。
何時呼ばれてもいいように深呼吸をして集中力を高める。
そんな時に肩を叩かれた。
同じチームのドロシー・フェンネス。
死霊使いの黒い髪の女性だ。出会った時から、どこかしら変だった気がするが、真面目になる時はなる人だった
いつもは明るく振る舞っているのに今は、どうやら明るくは振る舞え無いようだ。

ドロシーはミランダ達と幼少期を過ごしてきた。
今は敵とはいえ、昔は友人として接していたんだ。
心が痛むのは、当然かもしれない。

「ミランダを死霊にするね」

「あぁ、元々そのつもりだっただろう。死霊にして人の為に働いて少しでも罪を軽くしてやろうと」

ドロシーは頷くと、作業に入った。
思わずため息がこぼれる。
そんな時、唐突に手の平が光り始めた。
あぁ、合図か。では、もう終盤何だな。
手の平を見てみると、そこにはガリアスと言う文字が書かれており、徐々に文字が発する光が強くなってきていた。

「行ってくる」

「死ぬなよ。スレンシィは、ルクレシアじゃないとダメなんだから!あの頭おかしいのを野放しにしないでね!絶対だよ!」

祈り始めたドロシーに背を向けてルクレシアは転移した。
スレンシィ。ルクレシアは思い出していた。
彼女と初めて会った日の事を。
戦場を掻き乱すペテン師になりたいとかよくわからない事を言っていた記憶がある。
彼女は黒く長い髪の良く似合う女性である。
豊満なスタイル。青の双眸に薄ピンクの唇。
6人の才女の中で最も好戦的で戦闘能力の高い美女である。
派手な戦闘に似つかわしくない可愛らしい顔つきは常にギャップとして脳裏に残る。
戦闘の中で彼女の魅力は際立つのだろう。

淡い光に包まれてたどり着いたのは、どこかの屋敷内である。
先ほどの廃墟から数十キロ離れた場所にある。
どこに視線を送っても趣味の悪い豪華さにうんざりする。
目の前に居るのはロキだ。しかも手負いの。
ガリアスは、相当削ったようだな。
その証拠にあちらこちらに鏡の残骸がある。
ロキの魔法だ。こいつは、鏡の魔法を使う。
この鏡の残骸が無数に散らばる惨状は、ロキの魔法がことごとく破られた証拠。
しかし、ガリアスが入れ替えを使ったと言う事は、限界が来たのだろう。
これでよかった。少なくともあいつは兄弟をもっとも憧れを抱いた兄を手にかけずに済んだのだから……。
ロキ。初対面の時は服も白のタキシードにシルクハットと言う手品師のように見えたが、結局敵を欺く為の物だったのだろうな。
今のこいつは、国を裏切っておきながら上級貴族メデュードの正装を着ている。本当にふざけた奴だと思う。

たとえ同じ兄弟でもガリアスとお前では根本的に違う事がある。
あぁ、だからお前は騎士の責務を放り出して裏切り者となり、咎に落ちたのだろう。
そして、これから起こる事がお前自身の結果となって降りかかる。
報いを受ける時が来た。
全てを魔力に乗せよう。幸せをただ願い平和に暮らしていた罪のなかった人々の思いを。
ロキを見据えながら目を細める。充分に魔力を貯めた後に詠唱を始めた。

「右には呪のスカアハ。左には光のリズハーデットを……」

詠唱をきっかけに建物が震えはじめる。
魔力の重圧によるものだ。
そして、俺の姿はどんどん変化していく。
右側からは、黒い霧が溢れ、目の周りがメイクされていき、フードと角が生まれる。
ボロボロのマントを纏い、肩から指先にかけて骨ばった黒い腕が覆いかぶさる。
左はそれと正反対に白く輝くフードマントとなり、同様に目の周りメイクされていく。
次に角が生え、肩から指先にかけて白く骨ばった腕が覆い被さる。
ルクレシアの姿を見てからか、ロキは苛立つように舌を打つ。
珍しい焦るだなんて……。

こいつの事だ。今から逃げる算段を立てているのだろう。
しかし、それはさせない。
右手を振るう。
黒のマントと腕から魔力が溢れだす。
溢れた魔力は形を成していき、瞬く間に四角形の結界を作り出した。

「箱の中で戦おうか……」

「……初対面では、あんなにも初々しかったルクレシアが成長したものだ」

ロキの表情から迷いが消え始める。
どうやら余計な事を考えるのは、やめたようだ。
賢明な判断と言える。どの道その状態でルクレシアと対峙すれば、助かる事はまずない。
悪の根源の一人。咎人の柱であるお前には必ずここで消えてもらう。

………………。
………………。
今、眼前には、血だまりが広がっている。
最も王国を苦しめた者の一人。
ロキ・メデュードは死んだ。
残る咎人の強大戦力は三つ。
そして、壁の向こうには、その中で最も危険な男がいる。
もう律儀に扉を開ける気にはならない。
眼前の壁を一気に破壊する。
中に入り込むと、やはりそいつはいた。
相も変わらず偉そうだ。
昔は気にならなかった態度も今では癪に障る。
広い部屋。こいつの性格だ。王宮の王座をイメージして作ったのだろう。
実に趣味が悪い。不相応にもほどがある。
静かに剣を引き抜いて切っ先を偉そうに王座に座る男へと向けた。

「その態度は治らないようだな」

「お前は俺の教えを守れていないようだ。口の利き方。人の騙し方。世渡りの仕方。女の口説き方。力の使い方。今のお前は、力の使い方と女の口説き方しか覚えていないようだ」

互いに目を細める。
一歩を踏み出した瞬間、奴は面倒くさそうに腰を上げた。
駆け出す事はせず、互いに手を横に振り魔力をぶつけ合った。

………………。
………………。

みんな直ぐにでも戦いを終えて、勝利を祝おう。

……………。



数カ月後。
世界は平安を取り戻した。
恐ろしい犯罪組織もない。幸せな暮らし。
人々は笑顔を絶やす事はないだろう。
きっともう。

世界を救った英雄。
燈華の剣聖がいる限り。

しかし、現実はいつも無情だ。
何せ世界を救うほどの実力を持った英雄が6人の才女に囲まれて冷や汗を流しているのだから。
かれこれこの状況は、数ヶ月の間続いている。

つまり世界に平穏が訪れてから、ずっとだ。

世界中の人が憧れる英雄の成れの果て。

美人に囲まれ、柔らかい胸を押し付けられて、お叱りを受ける。
6人の才女はご立腹である。

「ウルスラ。トルデリーゼ。スレンシィ。ダフネ。アネット。リルム」
「何ですか?」
とげのある口調。
一見笑顔にも見えるが、カチコチの笑顔は恐怖をあおる。
凄まれていないのにまるで心臓を掴まれているような感覚。
滅多な事では垂らさない冷や汗をダラダラかいている。
ルクレシアは困惑していた。
こちらを一心に視線を送ってくる二人に。

まず口火を切ったのはトルデリーゼの方だ。
「ルクレシア?戦争中は耐えることが出来た。何せそれどころではないから。でも今は戦争中ではない?それはわかりますよね?」
無言を貫くルクレシア。
反対側からは溜息が聞こえてくる。
ウルスラのものだ。

「貴方がここまで優柔不断だとは知らなかったよ。でもね。私達も待ちくたびれているの。だから」

唐突に6人に腕を掴まれ引き寄せられる。
両側から引っ張られ、柔らかいやら何やらで大変だ。
どちらにも引き寄せられない事がわかり、6人は顔を寄せる。

「「誰を選ぶのルクレシア!」」

ぐぬぬ。
優柔不断な英雄は究極の選択を迫られていた。
読んで頂きありがとうございます
これは未来編です
ここを目指して物語は進行されますが、最後は結婚式やその後の話も書くと思います

最後までお付き合いいただければ幸いです

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