「日本の危機管理は従来とは全く異なる次元に入った」

 中東の過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件の対応にかかわった政府高官は、こう痛感したという。

 政府は官房副長官を長とする委員会で一連の危機対応の検証を始めた。同じような事件の再発を防ぎ、起きた場合に適切な対策をとる。テロに強い社会にするために、徹底的な検証は不可欠だ。

 責任追及をおそれて不十分な内容に終わっては意味がない。政府は検証にあたって有識者から意見を聞くというが、客観性を担保するには、保秘を担保したうえでも積極的な情報開示が必要だ。国会の関与も検討されてしかるべきだ。

 先週の国会で、政府の対応ぶりの一端が明らかになると同時に、疑問点も浮かんできた。

 昨年8月に湯川遥菜(はるな)さん、10月に後藤健二さんが行方不明になり、12月3日には後藤さんの妻に脅しのメールが届いた。ただ、今年1月20日に2人の映像が公表されるまで、政府には「イスラム国」による犯行との確証はなかったという。

 この間、アンマンの現地対策本部には職員の増員はなかった。どのような策が講じられていたのか。

 首相は1月17日にカイロで「ISIL(「イスラム国」)と闘う周辺各国に2億ドル支援する」と演説。殺害予告の引き金になったとの指摘がある。

 なぜ、こうした表現になったのか。首相は「私の責任において決定した」と答弁したが、「最悪の事態を想定していたのか」との野党議員の問いに正面から答えてはいない。

 2人の映像が公開された後も、政府は「イスラム国」との直接の接触はしなかったという。菅官房長官は「まさにテロ集団だから、接触できる状況ではなかった」として、関係国や宗教者、部族長らを通じて対応したと説明している。

 関係者によると、新たな誘拐を招きかねない身代金支払いの手段は取れない中、過去の事件の経験や常識が全く通じぬ過激派組織への対応は困難を極めたという。そこから何を教訓としてくみ取るべきか。

 一方、現地を知る専門家からは経済支援などを通じて培われてきた中東での親日感情が薄れてきたのではとの指摘が出ている。事実ならその原因は何か。米国の対テロ戦争への支援やイラクへの自衛隊派遣は影響していないのか。検証にあたっては歴史的な経緯も踏まえた視点も求められる。