夢を抱き東京へ、上野のホームレスに見る日本

【新刊】柳美里著、キム・ミヒョン訳『上野駅公園口』(青い風社)

夢を抱き東京へ、上野のホームレスに見る日本

 在日韓国人2世の芥川賞作家、柳美里が昨年発表した小説。構想から脱稿まで12年もかかったという。上野公園のホームレスに密着取材し、日本社会の過去と現在を描き出した作品だ。太平洋戦争末期から2011年の東日本巨大地震に至るまでの、日本社会の変遷が詰まっている。

 本作の主人公は東北地方出身だ。太平洋戦争末期に幼年期を過ごし、東京オリンピックを前に、東京へ出稼ぎに来た。厳しい人生を過ごし、ホームレスに転落した後、自ら命を絶った。故郷の親戚は津波に襲われて命を落とした。主人公の魂が上野公園をさまよいながら物語る。上野公園にいるホームレスの中には東北地方出身者が多い。高度成長期に常磐線や東北本線の夜行列車に乗り、出稼ぎや集団就職のため東京にやって来た東北地方の若者が最初に降り立った場所、それがまさに上野駅だった。しかし50年後、彼らのうちホームレスに転落した人々が、再び上野公園に集まっているという。ホームレスは、秋には公園のイチョウの木から落ちた銀杏(ぎんなん)を売って糊口(ここう)をしのぐ。また、公園に捨てられた雑誌を古本屋に売ったり、アルミ缶をリサイクル業者に持っていったりする。

 柳美里は、福島第一原子力発電所の周辺地域や上野公園を取材し、この小説を書いた。東京へ出稼ぎに来てホームレスになった福島県出身者の中には、津波で故郷の家や家族が流されてしまったケースもある。この小説は、そんなホームレスの悲しき声をつづった「聴覚を刺激する小説」と評されている。186ページ、8500ウォン(約930円)。

朴海鉉(パク・へヒョン)記者
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