「イスラム国」による日本人人質殺害事件で、様々な議論が国会で行われている中、安倍首相は“日本版CIA”とともに、特殊部隊である“日本版デルタフォース”の必要性も訴えた。1月29日の衆院予算委員会で、「領域国の受け入れ同意がある場合は、自衛隊の持てる能力をいかし、救出に対応できるようにするのは国の責任だ」と述べたのだ。
では実際問題、自衛隊の既存部隊を利用して外国で作戦を実行する部隊を育成することは可能なのか。また特殊部隊を新設するにあたり、どのような困難があるのか。軍事アナリストの黒井文太郎氏はこう解説する。
「実はデルタフォース的な部隊はすでに日本にも存在しています。千葉県船橋市の習志野駐屯地に本部を置く、陸上自衛隊の『特殊作戦群』です。彼らのポテンシャルは高いと思います。とはいえ、今のところはSAT(都道府県警の特殊部隊)をレベルアップさせたようなもので、国内におけるテロ対策が基本です。海外で救出作戦を実施するとなると、改善しなければならないポイントは山のようにあります」
語学力と国民の合意なくしては設立できない
まずは隊員の語学力だ。特殊作戦は他国と連携することが珍しくない。実際に特殊作戦群がイスラム国で救出作戦を展開するなら、米軍やヨルダン軍と協力する可能性もある。最低限、英語は必須になってくるし、中東・アフリカ各国で日常的に利用される旧宗主国の言語(フランス語、ポルトガル語、イタリア語)などの素養も必要になるだろう。
「こういう点でも、移民国家の米軍は強いですね。アラビア語をネイティブ並みに話す兵士は必ずいますから、特殊部隊に通訳として参加させられます。日本は絶対に無理ですから、特殊作戦群の隊員に様々な外国語を習得させる必要があります」
更に重要なのは、結局のところ「諜報」と「特殊作戦」は別物ではないということだ。例えば救出作戦なら人質の監禁場所を特定する必要がある。
「無人偵察機の運用や、ヘリやオスプレイ部隊と連携した特殊作戦の訓練を徹底する必要があるでしょうし、特殊部隊の隊員はスパイとしての役割も求められます。場合によっては潜入地で地元住民を味方に引き入れ、情報を得なければなりません。実際、米軍や英軍の特殊部隊の隊員は、そうした訓練を受けています」
そして結局は「経験値」と「国民の合意」が最大の焦点だという。
「どんな猛訓練も実戦には敵いません。更に救出作戦の場合、たとえ人質全員が助かっても、特殊部隊に犠牲が出る可能性があります。5人の人質が生還し、10人の隊員が戦死した場合、日本全体としては死者が上回るわけです。軍隊は民間人の犠牲になっても仕方がない、というコンセンサスを持つ国は少なくありませんが、日本はどうでしょうか」
1977年、日本赤軍が引き起こした「ダッカ日本航空機ハイジャック事件」で、当時の福田赳夫首相は「一人の生命は地球より重い」と述べ、身代金600万ドルと獄中メンバーの引き渡しを行った。それとは真逆の思想が日本版デルタフォースには求められているのだ。日本人の“覚悟”なくして、特殊部隊の設立はあり得ない。
(取材・文/葉山哲平)