パイロット殺害:ISが支配地域住民に「教義に反せず」

毎日新聞 2015年02月11日 19時19分(最終更新 02月11日 19時25分)

 ◇「焼き殺したこと」に疑義呈され、釈明する文書を配布

 【カイロ秋山信一】イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が拘束したヨルダン軍パイロットを焼き殺したことについて、ISが支配地域の住民向けに「イスラム教の教義に反していない」と釈明する文書を配布していたことが11日、IS支配地域の住民らへの取材で分かった。ISの宗教家の一人が「教義に反する」と疑義を呈し、拘束されたことも判明。残虐な殺害方法に対する反発を抑えたい思惑があるとみられる。

 イスラム教の預言者ムハンマドの言行録には「火を使って苦痛を与えるのは神のみだ」と記されている。

 ISが本拠地を置くシリア北部ラッカの住民らによると、ISは2月3日にパイロットを焼き殺したとするビデオを公開した後、独自に発行した「ファトワ(宗教令)」の文書(1月20日付)を支配地域の路上やモスク(イスラム礼拝所)で住民らに配布した。

 この文書では「言行録にある預言者の言葉は『真に罰を与えうるのは神のみだ』という意味だ」との解釈を主張。14〜15世紀の高名なイスラム法学者イブン・ハジャル・アスカラーニの著述を根拠に「ムハンマドの側近が背教者を焼き殺した事例がある」として、ISの行為を正当化している。モスクでも礼拝時にISの説教師らが、この文書の内容を説明しているという。

 だがエジプトにあるイスラム教スンニ派最高権威機関アズハルの法学者、アシュラフ・サード・アズハリ師は「背教者が焼き殺されたという伝承はあるが、大多数の法学者の間では信ぴょう性が低いという評価が定着している。イスラム法が定める捕虜の扱いにも反する」と反論する。エジプトのファトワ庁も「伝承は信頼できるものではない」とする声明を発表した。

 またイスラム社会では、遺体の損壊は厳しく戒められ、土葬が一般的だ。焼き殺すという行為は到底容認できないというのが穏健派の反応だ。

 異論はIS内部でも出ている。シリア内戦の戦況を調査している在英の民間組織・シリア人権観測所によると、アレッポ県バーブを拠点にするサウジアラビア人の宗教家はIS内部の会合で「パイロットを殺害した者は禁忌を犯したので、裁判にかけるべきだ」と主張したが、「宗教令を出したIS指導部に失礼だ」などの反論が出て、宗教家は拘束されたという。

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