記事盗用疑惑にたいする上杉氏の反論の検証  ( English version )

<以下、引用>
後付けでの他者攻撃
“新聞記事盗用疑惑”の事例

(中略)

〈上杉氏は、2011年9月22日のダイヤモンド・オンラインの記事およびそれを収めた著作において、昨年3月の原発事故後の各国による退避措置のリストを掲載している。これは3月23日配信のメルマガからの転載としているが、内容は並び順から言葉遣いに至るまで3月19日付の読売新聞に掲載されたリストと同一である〉

まず、本質を見失ってほしくないために言うが、当時、そうした人々は、海外政府やメディアの発表を、「そんな事実はない」「デマだ」と言っていたのだ。そうした自分たちの間違いはこのように消えてしまっている。 ※1

そして指摘の部分だが、江川氏はじめツイッターなどでいつも個人攻撃をする稚拙な人々は、この新聞の2011年3月19日付の記事を私が盗用したと決めつけている。

 だが、わたしがこの情報を最初に話したのは3月16日の文化放送「吉田照美のソコダイジナトコ」、東京FM「タイムライン」であり、その情報とさらに、オバマ米大統領のホワイトハウス演説をもとに枝野幸男官房長官に質問をぶつけたのは3月18日の午後のことだ。 ※2

 あの震災直後の多忙と絶望の一週間の最中に、どうやって私が3月19日の読売新聞の記事を知ったのか不思議だ。 ※3

もう、これだけ説明すれば、十分だろう。あとは、江川氏ら扇動する者たちが読売新聞に取材すれば済むだけだ。

少しだけヒントを出せば、 当時、私は自らの情報に関しては著作権などの権利を解除していた。たとえばメルマガなどに載った情報も、問い合わせがあれば、「緊急事態です。人道的見地からも、どうぞ自由に転載してください」と言っていた。 ※4

だが、私はそれによって他者に権利侵害を訴えることなど考えもしなかった。なぜなら、そうした情報は被曝の危険性のあるすべての住民のものだったし、なにより日本人全体が共有すべき多様な情報のひとつだと信じていたからだ。

冒頭示したように、元ジャーナリストの私は、もはや幼稚な日本現代の言論空間で、自らの正しさを証明しようとは思わない。だからこうしたことがずっと続いたこの一年半、扇動者たちのを発言を放置し、とくに江川氏については、同じ自由報道協会にいた元同志として外野の煽りによる「分断」の象徴となることを避けるために、ただの一度もメンションを返さなかったのだ。

そう、もう一度言おう。当時の問題は、海外の政府やメディアがこの事故に対して、自国民の安全の為にどういう施策を採用したかということに尽きる。

どうしても引用の問題を炎上させたいのならば、 そもそもこの海外避難情報のソースはすべて各国大使館のHPである ことをもうひとつだけ付け加えておこう。( ※5
※1~5 下記「上杉氏の反論の要点」1~5に対応

検証結果:

1.盗用の如何にかかわらず、上杉氏による ”3月に大手メディアは避難勧告について報じなかった” という記事は事実に反する。

2.上杉氏は盗用疑惑を否定する根拠をなにひとつ示していない。


上杉氏の反論の要点


1.大手メディアの記者たちは当時、退避勧告の情報を「そんな事実はない」「デマだ」と言っていた。

<以下、引用>
まず、本質を見失ってほしくないために言うが、当時、そうした人々〔※〕は、海外政府やメディアの発表を、「そんな事実はない」「デマだ」と言っていたのだ。そうした自分たちの間違いはこのように消えてしまっている。 <引用おわり>
※上杉氏が「そうした人々」と呼んでいるのは基本的には「記者クラブに属する記者」のことだが、ここでは江川氏も含められている。

「そんな事実はない」「デマだ」と言っていた、というのは上杉氏がそう言っているだけである。今回問題となっている2011年9月22日の記事では、「 大手メディアでは報じられなかった各国の退避リストを公表し、彼らがそうした情報を意図して人々の目から隠してきた事実を暴露する 」という体裁がとられていた。しかし、当のリストは読売が報じていたことがすでに明らかになっており、上杉氏の主張の根拠は崩れている。

また、『海外各国の避難勧告』の項目でも検証したとおり、当時全国紙で海外各国の避難措置がそのつど報じられていた事実も明らかになっている(下記リスト)。上杉氏の主張が事実であれば、これらの記事は存在していない事になるだろう。

したがって、上杉氏による ”3月に大手メディアは避難勧告について報じなかった” という9月22日の記事内容が事実に反していることは明白であり、上杉氏は記事の執筆にさいして、3月の報道について確認をしなかったか、さもなければ知りながら嘘を書いたかのいずれかである。いずれであっても、 盗用疑惑の如何にかかわらず、上杉氏の9月22日の記事内容が事実に反するものであることは確定している。

朝日新聞
3月14日(17面)『仏大使館「関東離れて」』
3月16日(7面)『在留外国人 退避の動き』
3月17日(6面)『大使館の閉鎖や機能移転の動き』イラク、バーレーン、アンゴラ、オーストリア
3月17日夕刊(3面)『米、自国民へ避難勧告 福島第一独自基準、80キロ圏内』『英独も退避促す』
3月18日(5面)『80キロ圏外勧告 韓英豪なども』
3月18日夕刊(3面)『米、退避支援進める』
3月20日(29面)外国人、後ろ髪引かれ
3月24日(5面)『大使館の一時閉鎖27カ国』『米軍家族の避難9千人』
3月29日(5面)在郷大使館、再開進む
4月 6日(9面)外資系、香港へ退避
読売新聞
3月15日 『仏大使館…自国民に外出自粛の呼びかけ』(2011年3月15日14時12分 読売オンライン)(紙面夕刊2面)
3月17日夕刊(12面)『自国民の退避勧告拡大 出国などを求める例も』
3月18日夕刊(2面)『外国人の脱出続く』
3月19日(5面)『自国民に退避を求めている主な国・地域』
3月19日夕刊(2面)『「日本脱出組」急増 出国手続き体制強化』
毎日新聞
3月16日(24面)『成田から脱出も』
3月16日夕刊(9面)『メキシコ政府も』自国民帰国のためのチャーター便の検討
3月17日夕刊(3面)『原発退避 各国、独自に対応』
3月18日(6面)『避難勧告、続々』
日経新聞
3月16日夕刊(3面)『オーストリア大使館を閉鎖 大阪に業務移管』
3月16日『駐日大使館や外資系企業、帰国勧告や日本西部に避難』(WEB版)
3月17日『英外務省、東京以北からの退避勧告 「インフラ混乱の恐れ」』(WEB版)
3月17日『米大使館、福島原発80キロ圏の米国民に退避勧告 予防的措置』(WEB版)
3月17日『コロンビア、自国民の救援機を派遣 巨大地震』(WEB版)
3月17日『米、政府関係者家族の日本退避を承認 チャーター機用意も』(WEB版)
3月18日(7面)『「日本脱出」の動き広がる』
産経新聞
3月13日『【原発爆発】仏大使館が首都圏のフランス人に関東を離れるよう勧告』(MSN産経ニュース(共同通信) (cache))
3月14日『原発また爆発!巨大キノコ雲の恐怖…外国人は関東から逃げた』(ZAKZAK)
3月14日『【原発爆発】韓国、東京に「渡航注意」、原発30キロ圏内は「渡航制限」』(MSN産経ニュース(共同通信) (cache))
3月15日『【東日本大震災】イスラエル、外交官家族に帰国促す 理由は余震で原発爆発でない』 (MSN産経ニュース(共同通信) (cache))
日本テレビ
3月14日『在日仏大使館、首都圏からの退避を勧告』(NEWS24 3月14日 5:57)
3月17日『各国政府に“被災地や東京から避難”の動き』(NEWS24 3月17日 6:42)

2.自分は当時いち早く情報を伝えていた。

<以下、引用>
だが、わたしがこの情報を最初に話したのは3月16日の文化放送「吉田照美のソコダイジナトコ」、東京FM「タイムライン」であり、その情報とさらに、オバマ米大統領のホワイトハウス演説をもとに枝野幸男官房長官に質問をぶつけたのは3月18日の午後のことだ。
<引用おわり>
上杉氏が16日に退避勧告について話したかどうかは、記事盗用疑惑とは関係がない。仮に上杉氏が16日に報じていたとしても、それは19日の読売記事を盗用する可能性がなかったことを何ら意味しないからである。唯一、16日の放送が盗用を否定する根拠になりうるとすれば、それは、放送中に問題のリストと一言一句同じ事を言っていた場合のみである。しかしそれはありえない。何故なら、この記事のリスト紙面)からもわかるように、16日時点での各国の退避状況は19日時点のものとは異なっていたからである(※たとえばアメリカの80km退避は日本時間の17日未明に決定され、その後に幾つかの国がアメリカに倣うかたちで同じ80km退避措置をとった)。それゆえ、上杉氏が16日の放送で19日の読売新聞記事と同じ内容を話した可能性はない。

上杉氏が16日に退避について何か話したかもしれないということは、したがって、「上杉氏の記事が読売記事と全く同一であり、時系列的に後に公表されている」という記事盗用疑惑の根拠にたいして、何らそれを否定しうる答えにはならない。

ちなみに以下の、
これも、3月15日に各国が退避勧告をだしていたこと、或いは上杉氏がそれに言及していたことは、その時点で上杉氏が問題のリストを作成・公表していたことを何ら意味しない。また、この時点で件のリストを作成するのは、上ですでに述べたように、17日以前の退避状況が19日時点とは異なるため不可能である。

ただし、この上杉氏のツイートは、盗用疑惑にかんして或る重要なことを示唆しているようにもみえる。すなわち、上杉氏は、当時の退避状況について実はよく分かっておらず、問題のリストにある状況が15日時点とは異なる事を知らずに、その時点でリストの情報を把握し作成できたように思っている節が伺える。しかし、もし自分自身でリストを作成していたのなら、そのような有り得ないと分かっている事を主張する筈はないのである。

ちなみに、上杉氏が挙げた3月16日放送『吉田照美のソコダイジナトコ』のなかで、上杉氏は海外各国の退避勧告について言及していない。音源を確認したところ、上杉氏はこの日6:00~8:30頃まで、『ソコトコ』の「朝いち情報デリバリー」、「ニュースのポイント」などに間を挟みながら2時間半ほど出演して喋っている(※抜粋)。この日に上杉氏が話している内容は終始、政府・東京電力が情報をださない、官邸と記者クラブが情報のアクセスを邪魔している、プロパガンダをしている、というものである。上杉氏が退避勧告について言及したことが分かっているのは、3月15日『小島慶子のキラキラ』の「サウンドパティスリー」における以下の下りである(※文字起こし
<以下、引用>
小島 ヨーロッパの国々は、自国の人に対して日本から退去するようにと?
上杉  最初はフランス大使館かな?『関東平野から出ろ』と。アメリカ大使館も、『西に行け』と。退避勧告。まあ、イギリスもそうですけれど。要するに、核の問題に関しては対応出来ないから。 あの、後じゃ遅いんですよ。とにかく、その事前にやらなくちゃいけないんです。
むろん、この発言は盗用疑惑にかんして何ら有意味な反証とはならない。

※※ やや余談になるが、上杉氏は15、16日のこれら二つの放送のなかで、「原発事故のさいの避難範囲は世界中で30kmが基本」と言って政府対応を非難している (※3月15日『キラキラ』「サウンドパティスリー」該当個所3月16日『ソコトコ』「朝いち情報デリバリー」該当個所 。これは上杉氏がのちに「原発事故のさいの避難範囲は80kmが世界標準」と言っている事と比べると興味深い。つまり上杉氏は、このあと17日(アメリカ時間の16日)にアメリカが80km退避を勧告したのを知って、「80kmが世界標準」と言いだしたと考えられる。すなわち、上杉氏は『原発事故対応の世界基準』の項目でも検証したように、原発事故のさいの世界の避難対応にかんする知識などなく、その時々に口から出任せを言ってきた疑いが強い。

3.当時は多忙で新聞を読んでおらず、したがって盗用していない

<以下、引用>
あの震災直後の多忙と絶望の一週間の最中に、どうやって私が3月19日の読売新聞の記事を知ったのか不思議だ。
<引用おわり>
当時多忙で読売新聞を読む暇がなかった、という弁明である。
これも上杉氏がそう言っているだけなので、盗用疑惑を否定する根拠にはなりえない。
ちなみにこの記述は、上杉氏が「読売新聞が何を報じていたか当時知らなかった」と認めている点で興味深い。すなわち、もし上杉氏が当時、「大手メディアは真実を報じていない」と何処かで言っていたとしたら、事実確認を怠ったまま断定をしていたことになる。

またこの記述は、読売が当時退避勧告について報じたという事実、すなわち上杉氏の記事内容が誤りであることを、上杉氏自身が現在明確に認識していることを示している。

4.むしろ読売が盗用した疑いがある

<以下、引用>
だが、わたしがこの情報を最初に話したのは3月16日の文化放送「吉田照美のソコダイジナトコ」、東京FM「タイムライン」であり、その情報とさらに、オバマ米大統領のホワイトハウス演説をもとに枝野幸男官房長官に質問をぶつけたのは3月18日の午後のことだ。
(略)
少しだけヒントを出せば、当時、私は自らの情報に関しては著作権などの権利を解除していた。たとえばメルマガなどに載った情報も、問い合わせがあれば、「緊急事態です。人道的見地からも、どうぞ自由に転載してください」と言っていた。

だが、私はそれによって他者に権利侵害を訴えることなど考えもしなかった。なぜなら、そうした情報は被曝の危険性のあるすべての住民のものだったし、なにより日本人全体が共有すべき多様な情報のひとつだと信じていたからだ。
<引用おわり>
上杉氏は読売の方が盗用した疑いがあると仄めかしているが、読売の記事は3月19日、上杉氏のメルマガは3月23日(配信は24日)であり、当然、時系列的に無理がある。

また上杉氏は、19日以前に退避について話していたことが盗用を否定する根拠になるかのように述べているが、上記 で既述のとおり、これはいかなる点でも記事盗用の疑惑を否定する根拠にはなりえない。

5.もともと海外避難情報のソースはすべて各国大使館のHPなので盗用ではない

<以下、引用>
そもそもこの海外避難情報のソースはすべて各国大使館のHPである ことをもうひとつだけ付け加えておこう。
<引用おわり>
この弁明は二通りに解釈できる。

a.大使館の公開していた情報がリストの文言と同一であった。したがって同一のリストができるのは不思議ではない。

これに対しては、仮に各大使館による情報が、リストにある各国についての文言と同一であったとしても、記事のリストにおける国の順番、記号、改行、末尾の全角スペースまで一致する事は常識的にありえない。したがって、記事盗用の疑惑を否定する有力な根拠にはなりえない。

b.大元の情報ソースは各国大使館のHPなのだから、仮に他紙の記事をコピー&ペーストしても盗用は成立しない。

大元の情報ソースが同一であれば他紙の記事をコピー&ペーストして自前の記事として公表してよい、という理屈が通らないのは明白だろう。又これを言ったばあい、上杉氏がこれまでマスメディアの横並び報道について取りあげてきたことや、記者クラブのメモあわせをカンニングとして批判してきた事とも、著しく矛盾することになるだろう。のみならず、もし上杉氏がみずから読売の記事を流用したと認めると、これはむろん、読売による退避勧告報道を流用の時点で知っていたことになるのだから、意図して虚偽の内容の記事を書いたと認めることになる


※注記: 今回盗用が疑われている上杉氏の記事について、読売からの出典を明記すれば問題ないという意見が散見されるが、それは不可能である。「今なお続く大手メディアの“不誠実”な報道に対する不信」というタイトルからもわかるように、上杉氏の当該記事の主旨は、大手メディアが意図して報じなかった各国の退避措置を公表することで、彼らの不誠実さを告発するというものである。そして記事の中で、上杉氏は読売を名指しで糾弾している。リストの出典を明記すると、読売が各国の退避を報じなかった事例として、読売が報じた各国の退避の記事を引用する、という自己矛盾を犯さざるをえなくなる。


参考


更新
2012.10.13 一文追加。文章表現を一部修正
2012.10.14 一文追加:「配信は24日」。一部説明を修正:2のツイートにかんする文。
2012.10.17 上杉氏のメールマガジン、HPの告知にかんする追記
2012.10.19 10月17日以降の追記を新ページに移行。スタイルなど微修正
2012.10.20 退避措置にかんする記事を追加
2012.10.21 退避措置にかんする記事を追加
2012.10.22 参考にリンクを追加。ダイヤモンドオンライン記事がリンク切れを起こしたため魚拓にリンク。
2012.10.26 上杉隆氏・読売オンラインコピペ盗用疑惑の流れへのリンクを追加
2012.10.28 参考にリンクを追加



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