社説:後方支援の法制 拡大の議論は慎重に
毎日新聞 2015年02月11日 02時31分
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)による日本人人質事件は、中東の安定に日本がどう関わっていくかという重い課題を突きつけた。
そんな中、集団的自衛権の行使容認などを具体化するための安全保障法制の整備に向けて、自民、公明両党が13日から与党協議を始める。
集団的自衛権と並んで焦点になりそうなのが、自衛隊が他国軍に補給や輸送などの支援を行う後方支援をめぐる法整備だ。自衛隊の海外活動がなし崩し的に拡大しないよう、冷静で慎重な議論を求めたい。
政府は憲法9条との関係で、自衛隊は武力行使と一体化する後方支援はできないとの見解をとっている。
昨年7月の閣議決定では、武力行使との一体化を避けるとの見解は維持したまま、一体化の基準を大幅に緩和した。これまでの「後方地域」「非戦闘地域」のように一律に地域を区切る枠組みを廃止し、「現に戦闘行為を行っている現場」以外なら後方支援を可能にした。
自衛隊が過去にインド洋やイラクで行った後方支援や人道復興支援の活動では、その都度、活動の根拠となる特別措置法を国会で成立させてきた。だが新たな法整備では、政府は、時限法の特別措置法ではなく包括的な恒久法をつくり、国連決議の有無や地理的条件に縛られずに、政府の判断次第で自衛隊が海外で幅広い後方支援活動を行えるようにしたいと考えているようだ。
安倍晋三首相は先月のNHKの番組で、ISと戦う有志連合に対し自衛隊の後方支援が可能になるかを問われ、「後方支援は武力行使ではないので、憲法上は可能だ」と述べた。そのうえで政策判断としては、現在求められている人道支援で貢献していく考えを示した。
政策判断で後方支援しないということは、将来、状況が変われば判断次第で後方支援する可能性があるということになる。
恒久法を制定すれば、必要な場合には迅速な自衛隊派遣が可能になるだろう。一方、これまで自衛隊を海外派遣するたびに特別措置法を成立させ、活動目的を限定してきたのに比べて、政府の裁量の範囲が広がり、歯止めはかかりにくくなる。
首相は後方支援の恒久法制定を目指す考えを示しているが、公明党は慎重姿勢を崩していない。
重要なのは、恒久法の制定ありきではなく、何のために法整備が必要かという目的や、どういう場合に支援するかの基準を、政府・与党が示すことだ。武力行使と一体化しない後方支援のつもりでも、敵国から見れば一体と見なされるかもしれない。後方支援をめぐる国民の不安や疑問に丁寧に答える議論を望む。