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【政治】

ODA揺らぐ平和理念 他国の軍隊への援助解禁

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 政府は十日午前の閣議で政府開発援助(ODA)の基本方針を定めたODA大綱に代わる新たな「開発協力大綱」を決定した。これまで原則禁じていた他国の軍隊に対する援助を、災害後の復旧などの非軍事分野に限って認めるのが柱。安倍晋三首相が掲げる「積極的平和主義」を反映させ、軍と無関係の開発支援に限ってきたODAの理念を大きく変える内容。支援が軍事分野に転用される懸念もあり、日本の平和外交が変質する恐れがある。

 大綱の改定は二〇〇三年以来十二年ぶり。

 従来の大綱は「軍事的用途および国際紛争助長への使用を回避する」ことを援助の条件として、他国軍への支出は原則してこなかった。

 新大綱もこの条件の表現は踏襲。しかし、軍や軍関係者への援助について「実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」との文章を付け加え、日本政府が非軍事目的と認めた場合は、他国軍支援を容認することにした。

 岸田文雄外相は十日の記者会見で「現在、災害救助や紛争からの復興で軍が重要な役割を果たす事例は多い」と説明。「(援助の)基本的な原則は今までと変わっていない。軍事目的の支援を行うことは今後もない」と強調した。

 しかし、「実質的意義」の基準が明確でなく、政府の解釈次第で、軍事転用可能な物資や資金が他国の軍関係者に渡る余地がある。他国軍による支援の運用実態を把握するのも難しく、軍備増強に手を貸す結果につながる可能性がある。

 また、ODAにより「国益の確保に貢献する」と明記。従来の大綱が、経済成長によって国民総所得(GNI)が一定水準に達したODA「卒業国」への援助は認めてこなかったのに対し、新大綱は日本政府が「国益に資する」と判断すれば、資金や物資、技術を援助できるようにする。

◆周辺地域 刺激の恐れ

 <解説> 十日に閣議決定された開発協力大綱で透けて見えるのは、経済・軍事的に拡大を続ける中国に対する安倍政権の対抗意識だ。だが、中国を意識するあまり、日本の援助が他国軍に軍事転用されたり、援助先と競争関係にある国を刺激したりする恐れが強まった。

 大綱は重点政策の一つに「(援助先との)普遍的価値の共有」を掲げた。具体的には「基本的人権の尊重や法の支配」といった価値観を他国と共有することで安定した社会を目指すとした。これらは、安倍首相が中国を意識して頻繁に使う言い回しだ。

 首相は他国の軍隊や「ODA卒業国」への援助に道を開くことで、幅広い国々との連携も加速させ、中国包囲網をつくろうとしている。

 連携相手として首相の念頭にあるのは、東南アジア諸国だ。特に、南シナ海の領土問題で中国と対立するフィリピンやベトナムなどを中心に資金や物資を提供し、連携を強化、中国をけん制する狙いがある。

 ODAについて、国益を達成する外交手段として位置付けたのも、開発支援をてこに国際社会で有利な立場を築く戦略からだ。

 新大綱は、首相の積極的平和主義を踏まえ「国際社会の平和と安定および繁栄の確保に、より一層積極的に貢献する」ことを目的に掲げた。だが、新大綱により、日本の平和国家としての外交方針が揺らぐことになっては本末転倒だ。 (上野実輝彦)

 

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