安倍内閣がきのう、政府の途上国援助の指針としてきたODA大綱に代えて、新たに「開発協力大綱」を閣議決定した。

 政権が掲げる積極的平和主義に基づき、ODAを「戦略的に活用」する方針を掲げた国家安全保障戦略を受けて改定したものだ。

 最大の変化は他国軍への支援を一部解禁したことである。災害救助など非軍事目的の場合は「その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」として、支援に道を開いた。

 だが「実質的意義」の意味するところは明確でなく、結局は政府の裁量が大きい。これが抜け道となり、他国軍支援が拡大する恐れはぬぐえない。

 災害派遣の現場では救援物資の輸送などで軍が役割を果たすこともあろう。だがその支援は後々、軍事目的に転用される可能性が出てくる。

 現場で働くNGOなどから懸念の声があがったが、そのまま閣議決定された。運用基準や、軍事転用を防ぐ追跡調査の方法も明示していない。

 日本の支援が軍事目的だと受けとめられる余地を残すのは、外交上も危うさを抱え込む。チェック機能を強め、非軍事目的であることを担保する具体策を早急に示すべきだ。

 そもそも新大綱は、日本の安全保障を強く意識した内容となっている。海上保安能力やテロ対策のほか、海洋・宇宙空間・サイバー空間の能力強化も支援の対象としている。

 一方、新大綱には「国益」という言葉を初めて盛り込み、日本の安全保障や経済のための支援という性格を打ち出した。

 戦略性も強調されている。支援対象国については「戦略的重要性を十分踏まえる」という。

 ことは対外協力の問題にとどまらない。戦略的な外交ツールとして活用するのは当然としても、短期的な「国益」を追求するあまり、諸外国を安易に選別していけば、これまで人道的な理念を重んじてきた日本外交の性格を変質させかねない。

 背景には、世界で開発援助を急速に拡大している中国への対抗意識が垣間見える。

 限られた予算で安保分野への支援に傾斜していけばその分、貧困や疾病に苦しむ人々への支援が削られないか。地道な活動で彼らを助けたいという理念が後退してはならない。

 途上国の貧困対策より、その経済成長を重視しているのも気がかりだ。人々のために黙々と汗をかく日本人の姿勢こそ、国際社会の信頼につながることを忘れてはならない。