コラム:日本は先進国初の「ヘリコプター・マネー」発動か
Andy Mukherjee
[シンガポール 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 日本は、先進国で初めていわゆる「ヘリコプター・マネー」を発動する可能性がある。デフレをめぐる不満と量的緩和(QE)への失望が増していることで、マネタリストの戦略としては最後の奇策にたどり着くかもしれない。
1969年に国民に直接紙幣をばらまくという考えを最初に生み出したのは、経済学者のミルトン・フリードマンだった。それから30年を経て、ベン・バーナンキ氏が日本の需要低迷と物価下落への対策としてヘリコプター・マネーを提案した。
当時はまだ保守的だった日銀にとって、バーナンキ氏の提案はあまりにも奇抜だと受け止められた。既に日銀は政策金利をゼロにしていたことに伴い、QEに乗り出していたが、踏み込む心づもりがあった領域としてはそれがほぼ精一杯のところだった。
ただQEはその対価にふさわしい効果は発揮していない。日銀は金融機関から膨大な資産を購入する代わりに紙幣を増刷している。発行残高の4分の1に相当する1兆7000億ドル前後の国債が日銀の懐へと吸い込まれてしまった。
この国債購入でもいまだに民間需要の自律的な持続サイクルは実現せず、あるいは日銀が目標とする2%の物価上昇率も達成されていない。あわてふためいた日銀の政策委員会は昨年10月に資産購入規模を最大で60%も拡大した。
QEによって銀行は融資に回せる資金を非常に低いコストで調達できるものの、銀行側からすればもうかる投資機会を手にした積極的な借り手が出現しない限り、融資はできない。この点が高齢化が進む日本が抱える問題であり、家計に直接お金を振り向けるというフリードマンのヘリコプター・マネーが生きてくる場所なのだ。
ヘリコプター・マネーの構造は比較的、単純明快といえるだろう。日本の5200万世帯が、例えばそれぞれ日銀によって20万円(1700ドル)がチャージされたデビットカードを受け取り、残高が1年後には消滅することにして確実に消費させる仕組みを作るとしてみよう。これは国内総生産(GDP)の2%に相当する10兆円の民間購買力を経済に投入したことになる。そうした消費は次に企業の投資と賃上げを促す。差し引きした効果は減税と似てくるが、ヘリコプター・マネーの場合は国債ではなく紙幣増刷で財源を手当てする形となる。 続く...