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ドコモ光パックへの対抗は? スマホのOSはどうなる?――田中社長に聞く 2015年のKDDI

ITmedia Mobile 2月8日(日)15時0分配信

 春商戦に向け、ユーザー層を絞り込んだ端末を発表したKDDI。2014年末に発売した、Firefox OS搭載スマートフォンの「Fx0」も、大きな話題を呼んだ。「ドコモ光」をはじめとしたNTT東西の光コラボレーションモデルが話題となる中、同社が先行して固定回線とモバイルのセット割(auスマートバリュー)を提供してきた点も、再び注目を集めている。

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 こうした戦略の数々が功を奏し、KDDIの純増数とMNPはともに好調だ。その結果は、決算の数字にも表れている。1月30日に発表した2014年度第3四半期の決算は増収増益で、代表取締役社長の田中孝司氏は、2期連続での2桁成長に自信をのぞせた。では、そんなKDDIは2015年がどのような1年になると考えているのか。端末、料金、サービスなどの国内事情に加え、海外戦略を田中氏に直撃した。

●直近は「光」と「Firefox OS」が大きなトピック

―― 2015年初のインタビューということもあるので、最初に、全体像からお聞かせください。今年は、どのようなトピックがあるのかとお考えでしょうか。

田中氏 2つトピックがあると思っていて、1つは、今は光(回線とのセット割)がすごく盛り上がっていますよね? 盛り上がっているのは、我々が意思を持ってやっているというわけではなく、NTTさんがそういう方向に行って、ISPさんなどの卸事業者がいろいろとやられています。これに対応しなければいけないというは、当然のことです。

 じゃあ、光を除くとどうかというと、一番気にしているのがスマートフォンのペネトレーション(浸透率)。今、スマホが53%で、フィーチャーフォンの方が47%もいらっしゃいます。フィーチャーフォンを持っている方の意向もスローダウンしていて、どうやればスマホを持っていただけるのかというのが一番の課題です。そこに向けて、先日のようなシニア向け、ジュニア向け端末を展開します。

 シニア向けは、トライしてきたもののなかなかうまく行っていません。ですから、そもそもお客様が望んでいることが分かっていないという認識に立って、徹底的に調査しようと言いました。ハンドセットだけじゃあダメだろうということで、料金やサービスの話もさせていただきました。つまり、全部0パッケージで行こうということ。十分か十分じゃないかは市場が判断してくれることですが、できるだけのことを詰め込んだというアプローチです。

 もう1つはFirefox。これは、ビジネスの外にあって、思いの方が強いですね。なんとなくですけど、App Storeからアプリをダウンロードして、これを使ってくださいというのは、体を縛られているように思えるんですよ。僕らが子どものころは、自分でラジオを組み立てたりとか、そういうことがあった。そこでコスパとかは考えなかったですし、プロセス自体を楽しんでいたんですね。

 スマホは、本当にいろんなセンサーやI/Oがそろっています。それをWebだったらそんなにハードルが高くなく扱える。何ができるのかをお伝えするために、簡単なツールも作って出しました。

―― まずスマホ戦略の部分からうかがいますが、1台で広い層を狙うというより、特化した端末を出すという方針は、今後も続けていくのでしょうか。

田中氏 そうそう。それは間違いないですね。これだけの種類しかないと、市場がステイしてしまいます。フィーチャーフォンも機種変更のサイクルがどんどん延びていて、総販も落ちてしまう。世界的に見ると70〜80%はスマホに行くのに、日本がここでステイするのは、提供側に問題があるんでしょう。

―― そういう意味では、料金が上がるというのも移行の足かせになっている印象があります。KDDIバリューイネイブラーも一翼を担えると思いますが、MVNO市場にはどう取り組んでいくおつもりですか。

田中氏 遅ればせながらというのが、正しい表現。これから力を入れていきます。まだまだほかのMVNOに比べて十分かといえばそうではないので、頑張らなければいけないと思っています。

 販路がまだ整備できていないので、そこがポイントなのと、あとは端末。2機種出しましたが、まだまだですね。

―― KDDI側から何か協力はしないのでしょうか。端末の調達も、CDMA陣営という点はネックになりそうですが、いかがでしょうか。

田中氏 料金(接続料)が決まってしまっているところはありますが、リソースが足りないところにはいろんな協力はしていきますよ。

 確かに端末は、いわゆるUMTSだと、とんでもなく安いものからいろいろあって、まだまだ劣後感はありますね。ただ、iPhoneがそうですけど、CDMAでもUMTSでも無線チップは変わらない。低価格の端末調達にはハードルがありますが、日本の市場はエマージングマーケット(新興国市場)とは違いますから。これは時代が解決してくれると思っています。

●Fx0の反響はすごいけど、大赤字?

―― 次に、2014年末に出されたFirefox OS搭載スマホ「Fx0」についてうかがいます。発表時に「ビジネス度外視」と言ったことも注目を集めていましたが、目標はどこに持っているのかを改めて教えてください。いくらなんでも、大赤字というわけにはいかないと思いますが……。

田中氏 いやいや、そりゃ、大赤字ですよ(笑)。端末を売って、加入者が増えて回収できるかといえば、回収できません(笑)。ただ、うちの新しいコンセプトを体現する宣伝費みたいなところはありますね。何かをやらないと、ジャンプできないですから。

―― 反響は大きかったですね。

田中氏 反響はすごい! とんでもなくギークさんには刺さっています。とはいえ、ギークさん全員に伝わっているわけでもありません。例えば、昨日いろんな大学の先生とお話しました。理科系の先生なので当然知っていると思っていたのですが、そこまでまだ伝わっていない。イベントのことをニュースで読んだ方はご存じでしたが、そこまでもまだ伝わっていない。実際見せると授業で使ってみたいということも言われるので、そこはもっと努力しないといけないところですね。

―― ちなみに、MM総研で(Firefox OSの)出荷台数5万台というデータもありましたが、思ったより多いなという印象です。

田中氏 そんなにポジティブな印象は持ってない(笑)。だから、数字なんて見ちゃダメ!

―― 今後、Firefox OSについてはどのように取り組んでいくのでしょうか。

田中氏 社内でも言っているのは、普通のスマホのようにマス(広告)を使って(宣伝を)やるのではなく、最初にギークさんに伝えることをしなければいけないということです。今度ハッカソンもやりますが、ああいうことを継続していくことが重要。グローバルで見れば、こんなにハイエンドな(端末は)まだうちだけですし、ほかはLTEすら載っていないですからね。

 でも、エマージングマーケットではけっこう(数も)出ている。これ(Fx0)を出したことで、エマージングマーケットのキャリアさんだけでなく、欧州のキャリアさんからも売りたいという問い合わせが入るようになりました。みんな興味はあるし、こういう尖りまくったものは海外でもないですからね。ネジにもアホみたいにお金をかけましたし(笑)。

 続けてやっていくことは重要で、ちょっとずつ問い合わせも入っているし、SFCでは授業もやっています。企業だって、そんなに常に金勘定ばっかりしてるわけじゃないですから(笑)。

―― 作るという点ではGoogleの「Projetc Ara」がまさにそんなコンセプトですが、あのプロジェクトをどう見ていますか。

田中氏 ああいうのは、すごくいいアプローチだと思いますね。Googleは失敗が重要というコマーシャルをやっていますけど、そういうことを日本は看過してきているので、なんとなくこんな感じ(の閉塞感)になっちゃうんじゃないですかね。

●フィーチャーフォン後期のころの雰囲気が漂っている

―― そうした中で、今後、スマホのプラットフォームはどうなると見ていますか。

田中氏 二強万全だと思っています。これはしばらくは続くよね。でも、絶対そのままにはならないし、過去もそうじゃなかった。iOSがイノベーションを続けるのか、Androidがイノベーションを続けるのかはありますが、彼らもステイするわけはない。そうじゃなければ、第3のOSになる。

 狭い範囲で使っていて、スマホは飽きたという人もだいぶ出てきています。全体的には「スマホ欲しい、スマホ欲しい」というときではなく、市場が落ち着いてきています。なんとなくだけど、フィーチャーフォンの後期のころのような雰囲気が漂っていますよね。

 そんな時(フィーチャーフォンの後期)にスマホが現れて、「電池が全然持たない」とかあーだーこーだ言いながら、ここまで広がった。そのあと電池の持ちのような話はテクノロジーが解決しましたが、そういうことは絶対にまたある。それがIoT(Internet of Things、モノのインターネット)だと言う人もいて、トライもしていますが、まだ大きな市場を作るところまでは行っていない。タブレットも、日本では伸びていますが、海外では伸びが止まりりつつあります。今は、少し混沌とした時代なのかもしれないですね。

―― そういう意味では、実際使ってみて、Firefox OSは初期のAndroidのような印象も受けました。

田中氏 Androidが出たときも、こういう感じだったでしょ? それがテクノロジーとの組み合わせで、なんとか使えるようになってきた。先を見ようということです。

―― フィーチャーフォンのユーザーがスマホに移行しない一方で、「AQUOS K」のようにAndroidを採用したものも発表しました。この狙いを改めてうかがえますか。

田中氏 ダメなところは、旧フィーチャーフォンのアプリをサポートしきれていないところ。一方で、LINEが載ったりという点はスマホ型ですよね。ユーザーインタフェースは長らく苦労してきましたが、けっこう使えるところまで来たんじゃないかと、すごくポジティブに捉えています。

―― 料金は、もう一工夫がほしかったという声も聞こえてきます。

田中氏 外見はフィーチャーフォン、中身はスマートフォン。で、料金はというと、スマートフォン(笑)。この辺は、まだまだ開発されていくと思う。うちって、けっこうトライしていて偉いでしょ?(笑)

 今は、タブレットがガーッと上がっていて、それは、フィーチャーフォンユーザーが「これだと小さすぎる」というのがあると思っています。10インチぐらいの大きさのタブレットと、電話プラステザリングが欲しい人にはマッチしていると思いますね。逆に大きなスマホがいいという人もいて、両局が動き出している感じです。

 自分は今、iPhone 6 Plusを使っていますが、(いい意味で)ダメですね。デカいのに慣れると、ほかが小さく見えちゃいますから。

●SIMロックを解除しても、マジョリティはあまり変わらない

―― 端末の話の流れでうかがいます。2015年はSIMロックの解除が義務化されます。こちらについては、どうお考えでしょうか。

田中氏 マジョリティはあんまり変わんないんじゃなかなと思ってます。それにペインポイントがあんまりないですからね。もっと言うと、別にSIMロックでもいいから、もっとサポートしてほしい、もっと料金を下げてほしいという人もいます。あんまり急激にやりすぎると、日本の本当にいいビジネスモデルがなくなるのが怖いというのが本音。お客さんが求めているのは日本並みのサポートですから。もちろん、そうじゃない人もいるので、選択肢が増えるのはいいことだと思っています。

―― 端末のロックが外れても2年縛りは残っています。キャリアの人は、SIMロックを過大評価しているのではという気がします。

田中氏 そうだとは思っていますよ。だけど、作ってきたビジネスフローもある。それをすべてレビューしなければいけないですからね。

―― 御社の場合、CDMA以外は技適を取っていない端末も多く、解除してもあまり意味がないのではないという意見もあります。

田中氏 そこは今、議論されていることで、割とちゃんとやっていこうとは思ってます。いろんなことがきちんと整備されないとダメという考えです。

●auスマートバリューで「モバイル回線を1人1410円割引」にした理由

―― 冒頭のお話に戻りますが、ドコモがドコモ光でセット割を打ち出してきました。ここについて、改めてお考えをお聞かせください。また、どのように対抗してくのでしょうか。

田中氏 ドコモさんは、基本的な考え方が、回線を引いて、家族でシェアするというものですね。決算会見の場でも少し申し上げましたが、結局お客さんはスマホを買いたいんです。そのスマホを安くしないといけないのでバンドルを考え、できたのが「auスマートバリュー」です。

 もともと、「auひかり」は厳しかった。量販店ではNTT東西さんが冷蔵庫を10万円引きというようなキャッシュバックをやっていましたが、僕らは量が少ないのでそこにはついていけない。じゃあ自分たちの強みは何かということで、モバイルとのバンドルプランにしました。バンドルプランは料金理論の中ではあまり成功例がなくて、あくまで一番手ではなく、二番手、三番手の戦略です。料金を下げれば当然収入が減りますし、その分ユーザーが増えないとただの値下げになってしまいます。ポジションを考えて、初めて成り立つビジネスモデルなんです。

 もちろん、うちも2人目は1200円にしようということは考えましたよ(auスマートバリューは、家族でも1人ずつ、月最大1410円が割り引かれる)。考えましたけど、実際に買う人が私は2人目なのか、3人目なのかを気にするのは、やはり不公平です。いろいろなことを考え、料金を決めてブランドネームを決めて、「新しい自由」に変えていこうと始めたものです。お客さんのインサイト、これにマッチしているんですね。auひかりは少ないので、ケーブルテレビさんやケイ・オプティコムさんなど、資本関係のないところも一緒にやろうとなりました。彼らにとっては、NTTのシェアが高い中で、守りにもなりますし、攻めにもなりますから。それにトップアップして、auスマートパスをセットしたのが、僕たちの戦略です。

 もう1つ(料金プランで)悩んだのが、ギフト型とシェア型の2つです。日本人はどっちだろうと考えましたが、家族の絆が強いようで、意外とみんな自由。これは家族ではなく、1人1人にした方がいいとなりました。ドコモさんは、家族でシェアする形で、当然囲い込みは彼らの戦略です。それに対して、我々も攻めていかなければいけない。どちらにするかなら、お客さんの考えに寄ろうと考えました。もちろん、マーケットが違っていれば、微調整もしなければいけないし、そこにステイしていたら色あせてしまうんですけどね。

―― ギフトとシェアのお話が出たところでうかがいたいのですが、シェアプランはいつ始まるのでしょうか。ずっとキャンペーンが続いていますが……。

田中氏 シェア、大変なのよ(笑)。ちょっと遅れてます。

―― ちょっとじゃないような気もしますが、何か別のプランを考えているのでしょうか。

田中氏 ちょっと都合により……すいません。個人の中ではシェア、家族間はギフトという考えは変わっていません。

●ミャンマーはもうかる事業?

―― 最後に、海外戦略についてうかがえればと思います。ミャンマーのMPTを共同で運営していますが、こちらについての手応えや課題をお聞かせください。

田中氏 ちょうどこの前行ってきたところですが、本当に急速に携帯の浸透が進んでいて、2社がいて競争もしている市場です。ディマンドが大きく、サプライを急いで拡張していかなければならない。そんな状況です。ネットワークは相当前倒してやる計画で、マーケティングも前倒しています。先方は音声通話が1分25チャット(約2.9円)で、MPTは50チャット(約5.7円)だったのですが、ここも35チャット(約4円)に下げました。ただ、料金はもう少し考えなければいけない。やることはいっぱいあります。

―― ドコモがインド事業に失敗した理由として、価格競争が激化しすぎて収益が上がらなかったことを挙げています。同じような心配はミャンマーにはないのでしょうか。率直に言って、これはもうかる事業なのでしょうか。

田中氏 こういうことでは、(Firefox OSと違って)もうからないことはやらない(笑)。長年に渡ってオペレーションするので、投資が先に来てお金が先に出ることはあります。ただ、インドほどは安くなっていないので、ARPUもそれなりにあります。プリペイドで、いわゆるサブシディ(定期契約)を入れて回収するモデルではないですけどね。

●取材を終えて:ドコモやソフトバンクの囲い込みにどう対抗する?

 よりユーザー層を明確にした端末を出しながら、Firefox OSのような次への種まきをしていく。これが2015年のKDDIの端末戦略で、料金までパッケージにしている点からも本気度がうかがえる。その料金については、auスマートバリューで他社に先行している。他社の反撃がいまいち精彩を欠く理由も明快で、特にドコモは単純な値引き額ではKDDIに追随しにくい。KDDIは2番手としての戦略を、堅実になぞってきたというわけだ。

 一方で、額はともかく、ドコモやソフトバンクにセット割が入ったことで、ユーザーを奪いづらくなった側面はある。ここに対してどのような施策を打ち出すのかは、注目したい。また、KDDI系MVNOはまだこれからの段階。MVNOが増える中で、UQ mobileがどこまで存在感を示せるのかも今後の取り組み次第といえるだろう。

最終更新:2月8日(日)15時0分

ITmedia Mobile

 

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