農協改革をめぐる政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)との戦いは、JA全中の敗北に終わる見通しになった。
敗因を探ると、自民党の農林族を味方に付け、政府、とりわけ首相・安倍晋三を動かすというJA全中の戦法そのものに限界があった。頼りとした農林族は安倍の強い意向を知って、安倍になびいてしまった。
昨秋、財務省が消費再増税を実現するために国会議員を各個撃破したのに、安倍が衆院解散に踏み切ったことによって、根回しした努力が水泡に帰したのと酷似している。党を押さえ、官邸を包囲する「外堀戦法」は通じず、JA全中は財務省の二の舞を演じてしまった。
票田・農協の影響力低下
JA全中を法的根拠がない一般社団法人に移行し、その監査・指導権限を撤廃することは、かつての自民党なら考えられなかったことである。農協は建設、医師会と並ぶ票田。農協の頂点に位置する全中を実質的に廃止することはあり得なかった。
全中の職員は自民党の部会などを傍聴し、議員が全中の方針と違う発言をすると議員の地元農協に連絡し、全中の意向に沿った発言をするよう促した。議員は選挙のことを考え、地元の有権者の声に耳を傾けた。
今回、こういう手法が通じなかった。その第1の原因は農協票の減少である。
2013年7月の参院選比例代表で、農協の組織内候補・山田俊男は33万8485票を獲得した。自民党の比例代表候補で2位。とはいえ、たとえば自民党案のとりまとめに当たった前農水相・林芳正の地元・山口県で見ると、林が45万5546票だったのに対し、山田の個人票は3687票にすぎなかった。林の得票数のわずか0.8%だった。
これでは議員にとって脅威とならない。かつ、昨年暮れに衆院解散・総選挙が行われたばかりで、衆院議員にとって今は選挙を意識する必要がない時期だ。参院議員にとっては来夏に参院選を控えているが、説明し、対策を打つ時間の猶予はある。また、「自民1強体制」の下、農協にとって頼るところは自民党以外になく、自民党議員にとって票が流れる心配もない。
加えて、自民党議員は安倍官邸に対して従順だ。時の首相に逆らって失敗した郵政民営化のトラウマ、党内対立が深まると国民の信頼を失い政権喪失につながりかねないという不安、さらに、人事の際に冷や飯を食らいかねないという恐怖感が議員心理の奥底に眠っている。
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