2011年度 世田谷市民大学 連続講義


「アジアの幸せ」

第4回 宮脇先生 5月11日 1/7
モンゴル人の幸せ 国家と民族と家族への思い
今回はモンゴル人の幸せの話をします。私は『モンゴルの歴史』という本を刀水書房から出しておりますが、これは2000年間の遊牧民の通史で、7世紀のモンゴル誕生から13世紀のモンゴル帝国、さらに現代のモンゴルまで書いています。モンゴル人は16世紀にチベット仏教に帰依して、本当に熱心な仏教徒になったんですけれども、20世紀に社会主義が北のモンゴルにも中国の内モンゴルにも押しよせてきて、仕方なく仏教を捨てさせられました。でも92年の民主化後、北のモンゴル国は仏教を復活させましたし、内モンゴルの人たちも、中国に対抗するための精神的な拠り所として、じつはダライ・ラマを今でも本当に尊敬しています。国外に出たモンゴル人はみな仏教徒です。ダライ・ラマ猊下が日本にいらっしゃったときには、モンゴル留学生の全員が法会に参加します。
前回、チベット仏教は、自分自身が平安な精神を保つことを目的として、個人の修行を非常に重んじ、法論をして考えを深めていく、という話をしました。舌足らずな説明でしたが、私自身もそれを実践したいと思っております。
撮影:杉山晃造 モンゴル人は、チベット仏教徒になる前はシャマニズムを信仰していました。青い天(フフ・テンゲル)がすべてを決めるのです。人間の力なんてたかが知れていると遊牧民はずっと考えてきて、チンギス・ハーンの時代もその考えが強かった。ですが、16世紀になって、ダライ・ラマ3世のとき、チンギス・ハーンの子孫のアルタン・ハーンという人が大々的にチベット仏教を取り入れて、それ以来、モンゴル人は、たとえ社会主義の国になっても、心の底では仏教を捨てませんでした。ただ、シャマニズムも残っており、今でも峠や分かれ道に、天に祈るオボーがあります。チベットから入った白いカタが、モンゴル語でハダックとなり、モンゴル人の好きな色の青になりました。シャマンも仏教を取り入れています。



モンゴル帝国の地図には残念なことに日本がありません。日本の学問は、日本史は日本史だけ、中国史は中国史だけ、モンゴルはモンゴルだけ。全部地域割りしてしまって、大変不便です。私が使う地図はほとんど白地図から自分で作った地図で、日本海からヨーロッパまで全部入っていないとモンゴルの話はできません。朝鮮半島があるので、どこに日本があって、どのくらいの大きさか、分かっていただけると思います。
世界的に国境をまたいだ話は教育しにくくなって、そうするとモンゴル人の話は、とても不十分で片手落ちになります。モンゴル国でも、国内のことしか教科書で書けないので、内モンゴルとかロシアにいるモンゴル人の話はできない。だから前回お話しましたように、ブータンの国民だってチベット人なんですけど、そういう話は結局はないことになっています。今の国家や国民だけの、パスポートどおりの話になると、本当に行き詰ってしまう。日本人はこういう政治問題に直接関係していないのだから、公平で正確なことを伝えていく、という使命があると思います。