また、この「プラン」(素案)は、区民にも公開されパブリックコメントの募集までされていました。
「プラン」はホタル館だけでなく、板橋区の全事業、全施設の抜本的見直し・再検討をすすめるものでした。ですから、区の職員であるならば、自分の職場が「プラン」(素案)ではどういう方向性になっているか、当然関心があったはずです。
にもかかわらず阿部氏が「見解」で「知らないし、そのような存在を聞かされたこともない」と主張するのは、公務員としての意識の怠慢を示すものでしか、ありません。
阿部氏には、自分が「あり方検討会」に参加していないことに不満があるようにも読めます。
しかし、阿部氏の区職員として職責は「一般職員」であり、「ホタル館館長」というのは自称あるいは通称にすぎません。
区の事業の方向性をきめる重要な会議は、役職のある幹部職員で構成されるのは通常のことです。
「見解」は、ホタル館の実際の管理業務の受託事業者「むし企画」への、区による事情聴取を問題し、
「到底ホタル生態環境館のあり方を検討するという類のものではなく、まさに阿部落としを企図してなされたものとしか言いようがない」
と非難しています。
しかし、ホタル館のその後のあり方を検討するために、現場を知る事業者に話を聞くのは当たり前のことです。
ところがこの聞き取りで、「むし企画」代表は、自分が雇用している従業員・アルバイトの氏名など、基本的なことすら答えられなかったのです。区側がこの聞き取りで不審を感じるのは当然のことでしょう。
◆矛盾する幼虫の大きさ
「見解」は、「内容上の検討」として「専門性の欠如、客観性の欠如、論拠としている内容の矛盾、阿部氏の実践の無視等を指摘することができる」といいます。
「専門性の欠如」として「見解」があげているのは、2014年1月27日に区が行なった生息調査で、「そもそもあの1月末頃の時期に生息調査をしようとすること自体で専門性の欠如が示されている」としています。
そして「ホタル生息数は学術的に通常、夏の成虫で数えるのが一般的」というのですが、この生息調査にいたる前の事前の調査活動のなかで、ホタル館に成虫が外部から持ち込まれていた疑いがすでに浮上していたことが、いまではわかっています。
外部からの持ち込みの可能性を考慮すれば、成虫の数を数えても、ホタル館でホタルが生息してことの裏付けにはなりません。館のせせらぎ(小川)に棲む幼虫を数えてはじめて、ホタル館での飼育が実態として認められます。
「夏の成虫で数える」というは、成虫を持ち込んだ者からすれば、まことに都合の良い数え方です。
「見解」は、生息調査のあった1月下旬の時期の「実際の幼虫の大きさは基本が6~8mmと小さい」と述べ、区の報告書の「1~2月におけるホタルの幼虫の大きさは、室内飼育環境で、ゲンジボタルは15~25mm程度、ヘイケボタルは、数mm~15mm程度であ」るという記述が、実際の飼育状況と乖離しているかのように主張しています。
しかし、ホタルは同じ環境のなかにあって同じ時期に孵化した幼虫のグループであっても、さまざまな大きさの個体が混在する生物であることが知られており、阿部氏自身もかつての講演会などで、こうしたホタルの習性について語っています。つまり、「6~8mmと小さい」個体もいてもおかしくはありませんが、同時に報告書にあるような「15~25mm程度」の個体もいるはずです。
しかも、多くの個体が「15~25mm程度」までに成長していなければ、6月~7月に「2万匹」の羽化(成虫化)を迎えることはほとんどむずかしいといえます。
また、ホタル飼育の専門家からすれば、阿部氏の「見解」がいう「幼虫の大きさ」は、けっして一般的な常識といえるものではありません。
「12月頃から翌年の2月頃にはほとんどの個体が2~3センチ(メスのほうが比較的大きい)に達」するとあります。

◆仕掛けられたワナ
幼虫の大きさの問題では、区の報告書は「また、元飼育担当職員が仕掛けたというトラップ(平成26年2月1日報告)により、捕獲したヘイケボタルは、写真(トラップ内のヘイケボタル)のように、約30匹中で10mm程度のもの(現ホタル飼育担当者が確認)が数匹確認された。このように元飼育担当職員の言うような大きさ(6~8mm)ではないものがあった」と指摘しています。しかし「見解」はこの指摘については具体的な反論がありません。
ただ、「論拠としている内容の矛盾」があるなどと言って、つぎのように述べています。
「本件報告書の中に、1月27日の5日後である2月1日に阿部氏がせせらぎ内から幼虫を採集していることが報告されている。 これをこの報告書の至るまでいたことも(引用者・注--明らかに脱字がある。前後の文脈からおそらく「伏せていた」「隠していた」類のことばが入ると思われる)非常に疑問である。つまり阿部氏は1月27日に乱暴な手法で見つけられない幼虫を採集したのである。であれば、同様の方法を繰り返し検証し、1月27日の結果を検証することもできたはずである」。
この「見解」の指摘は的外れだと言わなければなりません。 なぜなら、 第1に、報告書は阿部氏が幼虫は「6~8mm」の大きさと言っているにもかかわらず、阿部氏自身が「発見」した幼虫は10mm程度だったという矛盾を指摘しているますが、「見解」はその矛盾に答えていません。
第2に、報告書では、阿部氏が仕掛けたトラップについては、ほかの区職員の立ち会いがなく、誰も目撃者がいない状態で行なわれたことを指摘しています。
いいかえれば、阿部氏が生息調査のあとで、調査結果を意図的に改ざんしようとした可能性を指摘しているともいえます。こうした不正な方法を繰り返せば、繰り返すほど、調査結果は歪んでしまうのは明らかでしょう。
また「見解」が「トラップのことをいままで黙っていたのはおかしい」と言いたいのであれば、それも的はずれです。
阿部氏が1月27日の生息調査の後にトラップを仕掛けていたことは、区議会でも公表されていました。 「トラップの件につきましては、我々の調査が終了した後、生息調査が1月27日に終了した後、今、正確な日にちの資料は手元にないんですが、担当者からせせらぎに弁当箱のような穴があいてるんですけど、そのトラップをせせらぎの上流に仕掛けたと、中には秘密の餌が入っているというような話がありまして、結局、数日後にはそこからヘイケボタルの幼虫が見つかっているんですね。
我々としては、やはりもしそこに仕掛けるんであれば、やはり我々が調査を行った後、調査の信頼性を下手すると損なわせるわけですよね、入れること自体が。ですから、それはこういうことやるよということ事前に言ってほしかったですし、中に後から入ってましたと言われても、いや、これは一体どういうことだろうと…」
(2014年8月19日 平成26年 区民環境委員会 環境課長事務取扱資源環境部参事の答弁から)
◆「188匹の乖離」をどう見るか
区の報告書には「(2014年)9月14日現在のホタルの羽化数は、ゲンジボタル64匹、ヘイケボタル147匹と合計で211匹であった。生息調査(2014年1月27日)の推計では、ゲンジボタル23匹、ヘイケボタル0匹と推計され、188匹の乖離があった」と記載されています。
この事実について「見解」は、 「羽化率は自然界よりも高く、約2%ぐらいであるが、調査後のせせらぎの管理状態から見て、1月の調査時点からの羽化率を5%と見てもこの時点で、4000匹前後の幼虫が存在していなければ200匹以上の羽化は不可能である。つまり、1月27日以降の管理の劣悪さにもかかわらず、少なくとも4000匹前後の幼虫が存在していたことになり、そのことはせせらぎに幼虫が飼育されていたまぎれもない事実を物語っている」
と述べています。
しかし、これも早とちりな認識にすぎません。 まず前提となるのは、生息調査の「23匹」というのはあくまで「推計」であって「実数」ではないということです。また、持ち込まれていたかどうかにかかわらず、多数の成虫がホタル館で交尾・産卵をしていたのは事実ですから、人為的な飼育がおこなわれていなくても、ある程度の数のホタルが生息していても不思議なことではありません。
一番確実な数え方は、成虫の死骸を数えることですが、生息調査では、水中のなかで生きている幼虫を数えなければなりませんでした。 ですからどうしてもサンプリング調査のような方法を取らざるをえません。もし、より徹底した、たとえば「カイボリ」のような手法をとれば数は正確でも、ホタルにとってのダメージは計り知れないでしょう。 限られた条件のなかでの調査で、推計と実際の数がズレるのはむしろ当然のことです。
それでも「188匹も差があるのは大きすぎる」という疑問はあるでしょう。その点については、報告書の「Ⅵ 平成26年度のホタル羽化数の検証」をよく読む必要があります。
ここでは「特に屋外ビオトープのヘイケボタルの羽化数74匹とせせらぎ内でヘイケボタル56匹、上陸水槽(せせらぎ内で元飼育担当職員がトラップで捕獲したヘイケボタルの幼虫30匹)10匹の成虫が発見されたことが推計値と大きく乖離する原因となった」と結論しています。 屋外ビオトープに74匹ものヘイケボタルがいたことについて、報告書では「ビオトープ等で発見されたヘイケボタルについては、不自然な点があり、本施設で全て羽化したものとすることは疑問が残る」として、具体的につぎのように指摘しています。