特に航空機産業は初の国産旅客機「YS11」で経験値を高め、1980年からはボーイング「767」を皮切りに中・大型機の機体分担生産を次々と担った。今や「ボーイングの最も重要なパートナー」(同社日本法人のジョージ・マフェオ社長)に駆け上がった。
■周辺の下請けメーカーを束ねて育てる
そして現在、足元では旧来事業モデルの殻を破る動きが盛んだ。航空機部品を手掛ける天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)。ここでアルミ合金部材のさび止めなどに使う大型の表面処理設備が稼働した。天龍はヘリコプターや防衛省向け哨戒機などを製造する川崎重工岐阜工場(同)に構造部品を納入するが、両社は今年から同工場向けの下請けメーカーでつくる「川崎岐阜協同組合」11社が天龍の設備を利用し、まとめて処理する改革に着手する。
従来は川崎重工が工程ごとに部品加工を各下請けに発注、再び戻してもらう「ノコギリ」発注を繰り返していた。下請けは川崎重工の分工場のようだったが「ファブレス」化で「周辺の下請けメーカーを束ね、我々と直接取引する1次部品会社(ティア1)へと育てる」(川崎重工航空宇宙カンパニーの石川主典プレジデント)狙いだ。川崎重工は他にも3社ほどの「ティア1」の育成を進めている。
航空機の部品点数は200万~300万点と自動車の100倍にもなる。産業の裾野は広く、チタンや炭素繊維複合材など材料あたりの部品単価は高い。だが自動車よりはるかに厳しい品質管理が下請けメーカーの参入を阻む。航空機部品は素材、製造設備、工程、供給方法に至るまで事細かにボーイングやエアバスの認定が必要。英語文書による手続きも複雑で、米国の審査機関が定めた国際認証制度「Nadcap」が取引条件になるケースも多い。投資回収も10~20年はざらで参入を諦める企業は計り知れない。「時間はかかるが、産業の裾野を広げ層も厚くしていかなければ次の成長はない」(石川氏)。覚悟がいる。
三菱重工の冨永氏は「自前主義では限界がある。オープンイノベーションこそ生産技術の原動力になる」と強調する。名古屋誘導推進システム製作所(愛知県小牧市)では、DMG森精機や超硬工具最大手のサンドビック(スウェーデン)など工作機械や工具など24社が集結。「Gマット」の名で企業の垣根を越えたチームを作り、切削効率の向上など課題を決め、研究開発を進める。タービンブレードの切削時間を半減したりするといった成果も出始めた。
日本航空機開発協会によると、33年の民間航空機の運航機数は3万6770機と13年の約2倍に達する見通し。この先20年に300兆円以上の需要が眠る。中京エアクラスターはサプライヤーを育て、周辺産業を吸い寄せ、上昇気流をつかむ。
上阪欣史、遠藤邦生、名古屋支社 中川渉、亀井慶一、津支局長 岡本憲明が担当します。
[日経産業新聞2015年2月4日付]
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