音楽と食べ物が描ければ一人前

はじめまして。村上先生の『ポートレイト・イン・ジャズ』を読ませて頂き、先生がまえがきで「僕はただ楽しんで音楽を聴いて、楽しんで文章を書いていただけなのです」と記しておられますが、どうすれば、ジャズミュージシャンへの愛に満ちた素晴らしい批評をお書きになることが出来るのか、批評のコツがあるのでしょうか? また、「CDではなくLP」と何度も記しておられますが、改めてCDとLPの違いについて語って頂けると嬉しいです。宜しくお願い申し上げます。
(タムリン、男性、47歳、牧師)

音楽と食べ物について、実のある自分なりの文章を書くというのは、本当にむずかしいんです。それなりの文章技術が必要ですし、その前にまず自分の心持ちを正確に把握しておなくてはなりません。ソシュール風にいえば、「記号表現」と「記号内容」とをどのように上手に重ねていくかということになります。音感や味覚を的確に表すだけの微妙に分化された言語表現・語彙を、僕らは手にしていないのです。それがうまくできるようになると、文章家として一人前と言えるかもしれません。楽しんで読んでいただけるといいのですが。

LPとCDの違いについてはほかのところで書きました。そちらを読んでいただければと思います(ほんとに書いたっけな?)。

村上春樹拝