社会

PC遠隔操作事件、「早く忘れたい」 誤認逮捕された元少年の父

 警察、検察、裁判所は何も変わらない-。一連のパソコン(PC)遠隔操作事件で片山祐輔被告(32)に実刑判決が言い渡された4日、横浜市立小学校への襲撃予告事件に絡み県警に誤認逮捕された元少年=当時(19)=の父親(54)が神奈川新聞社の取材に応じた。捜査・司法当局への強い不信感を表し、「二度と起こさないでほしい」と訴えるとともに、将来的な社会復帰を求める片山被告の姿勢を「非常に甘い」と批判。一方で「私たちにも人生がある。もう触れたくない。早く忘れたい」と心情を吐露した。

 父親は、片山被告の懲役8年の量刑を「適切」とした上で「きっちりと責任を取ってもらいたい」と話す。片山被告が「社会復帰したい」と話したことを報道で知ったといい、「世の中をなめていて、とても腹が立った」と語気を強めた。

 特に強調するのが、捜査・司法当局への不信感だ。「(誤認逮捕した)警察、検察、裁判所という巨大な国家権力に対して、私たちには何の対抗手段もなかった」と当時を振り返り、「捜査は手を尽くしていなかった。不審な点を放置していて、変だなと何度も思ったが、何を言っても駄目だった。裁判所も、誤った捜査をうのみにしていた」と批判した。

 誤認逮捕発覚後の対応についても、「警察の署長と検察の中間管理職が一度、謝りに来ただけ。形だけだった」とし、裁判所は「謝罪にも来ない。どんなに誤った判断を下しても(裁判所の立場は)守られている」と憤る。

 「片山被告のことはいつか忘れるかもしれないが、誤認逮捕時の(3者の)対応は今でも思い出す」。そう、無念さをにじませた。

 元少年を含め計4人の誤認逮捕を受け、警察・検察当局は再発防止を誓ったが、「(裁判所も含め)何も変わらないと思う。国家権力が誤った方向に行くのは恐ろしい」。ただ、「あまりに巨大で、個人ではどうしようもない。当時、事件のことは早く忘れてしまおうと思った。私たちにも人生がある」と話す。

 最も悲しいのは、親が息子の無実を疑ってしまったこと-。元少年の保護観察処分が取り消された2012年10月、父親は弁護士を通じてそんなコメントを寄せていた。現在、親子の関係に「変化はない」とし、元少年は大学に復学して日常を取り戻しつつあるという。ただ、「思い出すと本人もつらそう。もう触れたくない」と、心の傷が今も癒えてはいない様子を明かした。

◇「反省 十分でなかったか」

 「反省が十分でなかったと受け止められたのか」。弁護人の佐藤博史弁護士によると、閉廷後に接見した片山祐輔被告は判決についてこう尋ねたという。

 本人が想定したより量刑が重く、期待を裏切られた様子だったといい、弁護団は「これから被告と話し合って控訴するかを決める」としている。

 被告の「腕試し」とされた一連の犯行は、横浜市が管理するホームページの投稿フォームに、市内の小学校への襲撃予告が届いた事件から始まった。判決では、片山被告がセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)なウェブサイトを狙い、簡易プログラムを使って最初の犯行に及んだと指摘。その後、実験を重ねて第三者のパソコンを遠隔操作するプログラムを自ら作り上げ、短期間にさらに8件の犯行を重ねたと認定した。

 誤認逮捕や無罪主張を経て有罪となった経緯を踏まえ、佐藤弁護士は「最終的に真実がゆがめられることなく、刑事司法が勝利した」と総括。一方で、「(簡易なプログラムが使われた)横浜の事件をしっかりと捜査しておけば、残りの事件は起きなかった」と付け加えた。

【神奈川新聞】