米と野菜・果物では、ここが違う 
ここまで、米の話を中心にしてきました。それは、あえて話をシンプルにして、前提知識がない人にもわかりやすくするためでした。
そして、野菜や果物についても、ほぼ「米と同様の考え方」をしていけば、福島の農業と放射線の問題は理解できると思ってもらって構いません。セシウムに注目すること、国際的に見た際などの基準値の位置づけのことなど、ここまでの説明を大体当てはめて考えていただいて問題ありません。
ただ、米と野菜・果物では違う点が3点あります。
1)測定の体制が違う
米は全量全袋検査をして、基準値以下のものを出荷、そうでないものを廃棄していると説明してきました。
一方、野菜や果物は、出荷前に地域・品目ごとにモニタリング検査を行います。そして、基準値を下回っている地域・品目のみが出荷することが許可されます。さらに、モニタリング検査で出荷可能となったのちも、産地ごとにスクリーニング検査を行って安全性を確認しています。
野菜や果物も、米のように全量全袋検査をすればいいのではないか、という議論もないわけではありませんが、「袋に詰めてベルトコンベアに流す」という方法に適さないものがあったりするので、このような方式をとっていると考えてください。以前にも紹介した、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のWEBにその検査体制の詳細が載っています。
また、その検査結果も、リアルタイムでWEBから結果を見られるサイト「ふくしま新発売。」にあります(農家の声や地元グルメなど、コンテンツも充実しているので、読み物としてもお勧めです)。
2)米のように「一つの地域・品目のものを毎日必ず一定量食べ続ける」ことが想定されづらい
米やパン、うどん・そばなど主食は、多くの人が毎日必ず一定量食べます。一方、野菜や果物はそうではありません。
例えば、「干し柿から基準値超えの放射線量が!」みたいな話があったわけですけれども、じゃあ、ほぼ毎日、数百グラムの干し柿を1年間とおして食べ続ける人がいるでしょうか。いるかもしれませんが、極めて稀でしょう。
野菜や果物は「一つの地域・品目のものを毎日必ず一定量食べ続ける」ということはありません。なので、詳しい方の中には、相対的に見て、米ほど厳密に放射線量を気にしない人もいたりします。
あくまで例ですが、例えば、オクラとかミョウガとかイチゴから基準値超えの放射線が出たとしましょう。「1kgあたり200ベクレル」になったとして、じゃあ、オクラを1kg食べる人がいますか、イチゴを通年で毎食食べ続ける人がいますか、という話です。せいぜい数十グラムを食べても、ベクレル数で言ったら1桁だったりする。
だったら、旬の食材の美味しさや栄養価の高さを重視して食べる、という選択もあるわけです。
3)放射線の移行の割合のメカニズムが違い、移行係数に反映されている
最後、これが一番重要です。「作物が土から放射性物質をどれだけ吸収するのか」というのは、実は、品種ごとに決まっています。
つまり、「土に1000ベクレルあるなら、作物Aにはそのうち10移行します、作物Bには3移行します、作物Cには1くらいしか移行しません」という割合が、これまでの研究からわかっているわけですね。
これを「移行係数」といいます(一応、式で表すと以下のとおりです。「移行係数=農作物中のセシウム137濃度(ベクレル/kg)/土壌中のセシウム137濃度(ベクレル/kg)」)。
移行係数が高いと、土に含まれているセシウムが移行しやすく、低いと移行しにくいわけです。
一例として、農林水産省が2011年に5月末に移行係数の表を公表しています。「農地土壌中の放射性セシウムの野菜類及び果実類への移行の程度」の表を見ると、ホウレンソウやキャベツ、メロンなどの移行係数が低く、ソラマメやサツマイモなどの移行係数が高いことがわかります。
この移行係数の高低から言えるのは、「移行係数が高い作物は放射線対策を念入りにする必要があり、低い作物はそうではない」ということです。
例えば、セシウムの量が多い畑では移行係数が高い作物ではなく、移行係数が低い作物をつくったほうがいい。高い作物をつくる場合はカリウムによる対策などを念入りにする。
逆に、移行係数が低い作物はセシウムの量が多い畑でつくっても、作物がセシウムを吸収する可能性が低いので、あまりケアしないでも大丈夫。
移行係数を意識することで、適切な対応が可能になります。
天然キノコや山菜を食べる習慣ある人が検査で引っかかった
福島でのWBC(ホール・ボディ・カウンター)による調査の結果、放射線が検出された1%の人の話に戻ります。
この1%の選ばれし人々が、高齢者で山間に住んでいて、自分でとった食べ物、特に自分の家の山などでとった天然キノコや山菜、イノシシなど野生動物を日頃から食べる習慣のある人たちであると述べました。
「天然キノコや山菜」を「常食」する習慣を持つ人は、先の「移行係数」や「一つの地域・品目のものを毎日必ず一定量食べ続ける」的に問題が出ます。
まず、「天然キノコや山菜」の移行係数は極めて高いんです。ものによって違いますが、3~5ぐらい。1を超えるものが多いんですね。
先の農林水産省の「農地土壌中の放射性セシウムの野菜類及び果実類への移行の程度」の表だと、普通の野菜・果物の移行係数は、0・01とか、0・001とか、いずれも小数点以下であることがわかります。そんな中、1を超えるわけです。
移行係数が1を超えるっていうのが、どういうことかというと、土壌よりも作物のほうの濃度が高いということです。
「天然キノコや山菜」は、よくセシウムを吸う性質を持っています。それをたまに食べるぶんには大した問題はありません。松茸を年に何回食べても、せいぜい数百グラムとかの話だからです。
ただ、自分で家の近くに生えている、とってきた天然キノコ・山菜を定期的に食べる習慣がある人はいて、毎日のように食べていたりする。
あるいは、「WBCで検査する時期がたまたまそのキノコがたくさんとれた時期で、ここ1週間毎日キノコを食べてました」なんていう人がいたら、これは法定基準以上の放射線が出て引っかかります。
じゃあ、「イノシシなどの野生動物」がどうしてダメかというと、イノシシは線量が高いものを毎日食べ続けてるわけです。木の芽とか山菜類とか、土についているようなものを食べ続けている。
これを「イノシシとれたからさばいて、ここ1週間、毎日煮たり焼いたりして食べてきました」なんていう状態でWBC検査を受けたりすると、やはり検査結果に出てしまう場合があります。
あえて、不謹慎な話をしますが、こういう食生活をしている、山間に住んで自分で農業やっているお年寄り同士の雑談で、「お前、出たか。オレ出たぞ」「うぁーオレは出なかったぞ」と、出なかったほうがちょっと残念そうに「オレ負けた」みたいに話しているのを聞いたことがあります。
これ、どういうことかというと、もう、そういう生活している人の間ではキノコ、山菜、イノシシが放射線についてはよくない、という知識は散々聞かせられているわけです。
それを知った上で食べている人も、もちろん少数ですがいます。「やっぱり旬の山菜はうまいんだ」とか「オレは年取っているからいいんだ」という言い方をします。
これは極端な例かもしれませんが、知識を持った上で気にしないという人もいます。
チェルノブイリと福島とは状況がどう違うのか
ちなみに、原発事故のあったチェルノブイリ原発が位置するウクライナでは、郷土料理にキノコをよく使います。そして、このキノコをあまり検査せずに常食してしまった時期があったのが、被曝を進めてしまったといわれています。
ウクライナ料理というのは、私たちが認識しているロシア料理をイメージしてもらえればいいんですが、ボルシチ(スープ)とかピロシキ(揚げ餃子)を食べます。そこにキノコが入ります。
地形的には、日本のように山があって川が流れている風景ではなく、起伏の少ない土地、湿地帯が広がる風景が続きます。畑でカブとかイモのような根菜類を育て、牛や豚などもいます。いまは、検査体制が整ってきているので問題はありません。
私もチェルノブイリに行った際には、原発の作業員が食事をする食堂や、首都のキエフの若者も来るようなレストランなどでウクライナ料理を食べましたが、日本人の口にも合うとても美味しいものばかりでした。
それで、チェルノブイリと福島を並べて考える語り方がよくされがちです。たしかに原発事故が起こったという意味では共通しています。ただ、そのまま重ねあわせて考えて「チェルノブイリで起こったことが日本でも起こる」というような認識をもっている人がいますが、だいぶ状況が違うことを認識すべきでしょう。
3・11から4年近く経つ現在において、「チェルノブイリで起こったことが日本でも起こる」というような安易な語りをするのはあまりに不勉強、無知の極みです。
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