新たな自由貿易の枠組みを築く環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大詰めを迎えた。交渉で中心的な立場にある日米両国の2国間協議が着実に進み、残る課題が絞り込まれてきた。全12カ国による決着に向けて、両国の通商当局は柔軟かつ慎重に交渉の詰めと国内調整を急いでほしい。
にらみ合いで協議が停滞する場面が多かった日米に、歩み寄りの機運が高まった点を歓迎したい。自由化の交渉は双方が少しずつ譲歩しなければ、合意点にたどり着けない。市場開放や規制緩和には必ず国内での痛みが伴う。交渉の難しさは相手国との駆け引きではなく、むしろ国内対策にある。
ここ数カ月が事実上の期限だ。交渉が妥結しても、法的文書を完成して署名するまで数カ月の期間が要る。秋に入れば、米国は来年の大統領選に向けて動きが取れなくなる。今回を逃せば、TPP構想は漂流する可能性が大きい。
日本側の農産物市場の開放に関しては、政治的に最難関とされるコメに焦点が当たっている。特別に設けた無関税の輸入枠を広げる方向で調整が進んでいるようだ。安倍首相にとり、重い政治判断を下すべき局面が迫っている。
ただし、コメに限らず目先の摩擦解消のために低関税・無関税の輸入枠を設けるのは、市場競争に基づく本来の自由貿易の理念に沿わない。固定した枠は既得権を生む温床にもなる。交渉打開のためにはやむを得ないが、一層の関税削減に耐えられるよう国内の農業改革の手を緩めてはならない。
オバマ政権にとっては、自動車の扱いが政治的に難しい。また米議会から強い通商交渉権限を取得しなければ、各国と最終的に合意できない。共和党が多数派の議会と膝詰めで対話し、早急に権限を取得すべきだ。オバマ大統領は今こそ胆力を見せてほしい。
日米ともに国内の意見調整は容易ではないだろう。だが、両政権がここで指導力を発揮できなければ、歴史的な協定は幻となる。
通商ルールづくりの分野では、知的財産権の保護や国有企業の扱いで米国と新興国の間に溝が残っている。米政府が特定業界の利益を代弁して主張するだけでは、期限内に交渉はまとまらない。
精緻な政策の設計で知られる日本の出番だ。新興国と米国の間に立って見事と呼ばれるような知恵を出し、新領域のルール交渉で世界に存在感を示してほしい。