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【放送芸能】

災害に強いAMラジオに 電波障害解消へ FMと同時放送

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 既存のAMラジオ局が、同じ番組内容をFM波でも同時放送できるようにする「FM補完中継局」が全国で整備されつつある。波長が長く遠くまで届くAM波に、受信エリアは狭いが災害や電波障害に強いステレオ高音質のFM波を加えることで、大震災が起きた際も「貴重な情報源」として放送を続けられるようにする取り組みだ。 (梅本秀基)

 「『言葉も音楽もクリアに聞こえる』と、リスナーに好評です」。昨年十二月一日、全国のAMラジオ局で初めてFM波の同時放送を始めた北日本放送(富山市)の担当者はこう語る。もともと朝鮮半島やロシア方面からのAM波と混信が起きやすい地域だっただけに、日常レベルでも歓迎されている。

 現時点でFM補完放送を実施しているAMラジオ局は、同日にスタートした南海放送(松山市)と、今年元日から始めた南日本放送(鹿児島市)の三局。

 きっかけは東日本大震災。電力網や電話回線網が壊滅した中、電池があれば聴けるラジオは唯一の情報源として活躍したが、一方でラジオの弱点も浮上した。AM波送信所(親局、中継局)の立地だ。

 「長い波長に応じて高さ百メートル近いアンテナを必要とする上、遠くまで電波を飛ばすため大地にアンテナ機能を肩代わりしてもらわなければならない」(総務省担当者)というAM波の特性上、地中に電気が通りやすい水際に広大な土地を確保する必要がある。当然、津波や地盤の液状化に弱い。東日本大震災の際には「津波がぎりぎりまで迫り、放送中断寸前だった中継所があった」(同)。

 そこで国は震災直後から、津波とは無縁の高台や山頂が送信所となるFM波の同時放送を検討。受信エリアは狭いものの、高さ数メートルのアンテナでも事足りる安上がりな点と、山林やビル群などの障害物に強く、コンクリートの建物内にも電波が届きやすいこと、さらに外国波との混信対策にもなる点を重視した。

 FM波の周波数は従来、ラジオやテレビ、携帯電話、各種無線で満杯だった。だが二〇一一年のテレビの地デジ化に伴い、アナログ1〜3チャンネル向けに使われていた90〜108メガヘルツ帯が空き、そのうち90〜95メガヘルツ帯のAM局への複数割り当てが可能になった。昨年四月に総務省が補助金も含めて制度化した。

 課題は受信機。少し古い機種ならアナログ1〜3チャンネルテレビの帯域をカバーしており、FM補完放送を受信できるが、地デジ化以降は80メガヘルツ台で打ち止めの製品が増えた。特にカーステレオやカーナビで受信できない機種が多い。過去の震災ではマイカーで避難生活を送る例も多かっただけに「ラジオ業界と国が共同で、自動車メーカーに積極対応を要請しているところ」(同)だ。

 ラジオ局の経費負担も重い。FM補完中継局の建設には局ごとに億単位の出費を強いられるが「FM波でも放送するから」という理由でCM料を上げられる保証はない。ステレオ放送による音質の良さで聴取率が上がり、収益アップにつながる−との期待もあるが、基本的には「社会貢献の面が大きい」(東海ラジオの酒井弘明開発室次長)。

 屋内でも電波が届きやすいFM波の真価は、学校や公民館が避難所になったときに実感されるのかもしれない。

◆在京3局は今秋開始

 今年の秋から冬にかけ、在京のTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送がFM補完放送を始める。東京スカイツリー(東京都墨田区)の共同アンテナからFM波を流す。

 すでにスカイツリーでの工事は始まっているが、高所での作業で風や雪など天候の影響を受けやすいという。予定では、八月に工事終了、九月に試験放送、本免許交付の後、本放送を始める。周波数はTBSが90・5、文化放送91・6、ニッポン放送93・0メガヘルツ。 (中村信也)

 

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