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自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質

魚類:異常脂質

1 有毒種

ギンダラ科のアブラボウズErilepis zonifer、クロタチカマス科のバラムツRuvettus pretiosus及びアブラソコムツLepidocybium flavobrunneumが特に有名な中毒原因魚である。バラムツとアブラソコムツは、沖縄では"インガンダラメ"(胃がゆるみ下痢をするという意味)という。

アブラボウズ

(日本産魚類大図鑑(東海大学出版)より転載)
アブラボウズ

バラムツ

(東京都市場衛生検査所提供)
バラムツ

アブラソコムツ

(東京都市場衛生検査所提供)
アブラソコムツ

2 中毒発生状況 中毒は散発的。最近20年間では、1990年に栃木県の旅館で発生したアブラソコムツによる中毒(患者11人)のみである。(厚生労働省発表)
3 中毒症状 下痢。
4 毒成分
(1)名称および化学構造

アブラボウズの場合:トリグリセリド

アブラソコムツとバラムツの場合:ワックスエステルR1COOR2(高級脂肪酸R1COOHと高級アルコールR2OHのエステルで、単にワックスともいう)

(2)化学的性状 アブラボウズのトリグリセリドを構成する脂肪酸は、高度不飽和脂肪酸が多い一般の魚類とは異なり、大部分がオレイン酸(C18:1、二重結合を1つもつ炭素数18の脂肪酸)で植物油に近い[1]。
アブラソコムツとバラムツのワックスエステル:ワックスエステルを構成している主要な脂肪酸はオレイン酸、主要なアルコールはセチルアルコール(C16:0、パルミチルアルコールともいう)とオレイルアルコール(C18:1)[2]。
(3)毒性 アブラボウズのトリグリセリド[1]:栄養価も高く毒性はない。
アブラソコムツおよびバラムツのワックスエステル[2]:アブラソコムツおよびバラムツの筋肉またはアセトン抽出油(約90%がワックスエステル)をラットに投与すると(投与量は筋肉では7.5 g/日、アセトン抽出油では1.5 g/日)、油が皮膚からしみ出す皮脂漏症(セボレアseborrhea)が2日でみられた。最初は口や腹部が油でぬれたようになり、日が経つにつれて全身に及んだ。皮脂漏症とあわせて下痢もみられ、大部分のラットが1週間程度で死亡した。皮脂漏症および下痢の原因はワックスエステルである。
(4)中毒量 明確ではない。
(5)作用機構 アブラボウズ:筋肉中の脂質(主成分はトリグリセリド)含量が異常に高く(腹部では50%近くにもなる[1])、消化不良により下痢を起こす。
アブラソコムツおよびバラムツ:ワックスエステルは消化できないので下痢を起こす。
(6)分析方法 トリグリセリドおよびワックスエステルの分析は、通常の脂質分析法にしたがう。
5 中毒対策 バラムツは1970年に、アブラソコムツは1981年に食用禁止。
6 参考事項 ワックスは垂直移動の激しい魚に多いといわれている。クロオーマトウダイ[3]やハダカイワシ類[4]の筋肉には高含量のワックスが確認されており、中毒の可能性がある。また、カラスミの原料にされているボラの卵巣のワックス含量も高いが(ボラの筋肉にはワックスはほとんど含まれていない)[5]、カラスミは塩分濃度が高く一度の摂取量が少ないので、中毒することはまずない。
アブラボウズは肉は美味であるが、食べると肛門から油が滲み出るといわれている。
7 文献
  1. 金田尚志: アブラボウズ体油の脂肪酸組成及びその栄養価について. 日水誌, 17, 15-19 (1952).
  2. Mori M, Saito T, Nakanishi Y, Miyazawa K, Hashimoto Y: The composition and toxicity of wax in the flesh of castor oil fishes. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 137-145 (1966).
  3. Mori M, Saito T, Nakanishi Y: Occurrence and chemical properties of wax in the iwiuscle of an african fish, Allocyttus verrucosus. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 668-672 (1966).
  4. Nevenzel JC, Rodegker W, Robinson JS, Kayama M: The lipids of some lantern fishes (family Myctophidae). Comp Biochem Physiol, 31, 25-36 (1969).
  5. Mori M, Saito T: The occurrence and composition of the occurrence and composition of wax in mullet and stockfish roes. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 730-736 (1966).

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