【イスタンブール=花房良祐】米国とトルコの対シリア政策を巡る溝が埋まらない。アサド政権打倒に固執するトルコ政府に対し、米オバマ政権は中東の過激派「イスラム国」の打倒を優先させている。欧米はトルコの国境管理が緩いため大量の外国人がシリアに渡航しイスラム国の戦闘員になっているとみている。有志連合の軍事作戦にも積極的に協力していないとして疑念を強めている。
トルコ政府はシリアのイスラム過激派をテロ組織に指定した時期が米政府より遅く、アサド政権を弱体化させるために過激派の台頭を黙認したと非難されてきた。過激派がトルコ政府と敵対するシリアのクルド人勢力を攻撃していることも「シリアの過激派を利用しているトルコ」という印象を強めた。
トルコ側は過激派対策で国際社会に協力していると反論。むしろ反政府運動が始まった初期の段階でアサド政権打倒に向けた軍事介入を避けた欧米の失策がいまの状況を生んだとしている。シリア北部に緩衝地帯と飛行禁止区域を設置し、過激なイスラム思想を持たない反体制派を積極支援すべきだとしている。
国境管理を巡ってはイスラム国には1万~1万2千人の外国人戦闘員が参加し、大半がトルコ国境から入ったとされる。一方、トルコは水際で阻止する構えで、国営アナトリア通信によると、当局にはイスラム国への参加を企図した外国人9915人のブラックリストがあるという。トルコ政府関係者は日本経済新聞に「イスラム国に加わったトルコ人は500~600人しかおらず、欧州に比べ少ない」と話す。
シリアのクルド勢力、民主連合党(PYD)はトルコと敵対関係にある。PYDはトルコのテロ組織、クルド労働者党(PKK)の兄弟組織。シリア北部の要衝コバニ(アラビア語名アインアルアラブ)を巡るPYDとイスラム国の戦いでは、コバニが陥落寸前になってもトルコ政府はPYDへの支援をためらい続けた。最終的にはトルコと友好関係にあるイラクのクルド勢力の援軍を認め、イラク北部からトルコ領内を経由してコバニに入ることを認めた。
PYDは1月26日にコバニからイスラム国を撃退。4カ月にわたる戦闘を制した。トルコメディアは、有志連合の空爆のほか、イラクのクルド勢力の援軍が勝利に貢献したと伝えている。
シリアのクルド勢力への対応はトルコのクルド問題に直接跳ね返ってくる。2014年10月にはコバニを支援しないことに怒ったトルコ南東部のクルド人が抗議活動を実施し、治安当局との衝突で約50人が死亡した。
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