社説:読書感想文 想像の翼を広げた60年

毎日新聞 2015年02月06日 02時30分

 偶然、近くの水路から上がってきたホタルの幼虫を見つけて飼った。なぜ幼虫も光るのかと疑問が湧いたころ、1冊の本に出会う。その日のうちに読み切った。

 松山市立湯山中学3年、竹中義顕(よしたか)さんは「ホタルの光は、なぞだらけ」(くもん出版)で不思議な発光生物の世界に引き寄せられ、研究者の生き方にも心が動いた。僕も研究者の道を進みたい−−。

 その感動と弾む思考をつづった竹中さんの作品は、第60回青少年読書感想文全国コンクール(公益社団法人全国学校図書館協議会、毎日新聞社主催)中学校の部で内閣総理大臣賞に選ばれた。本が自分の未来に眺望を与えてくれる。そんな読書の力を示す好例だろう。

 1955年に始まったコンクールへの応募は初回5万2943編。今回は449万2194編に上る。時代の変化を映しながら、読書が想像の翼を広げてきた60年である。

 学校での「朝の読書」の普及、ボランティアの読み聞かせなどが、本好きの子供の育成に効果を上げてきた。ただ、自分が好きな分野やお手軽な本に偏りがちな子供たちもおり、一つの課題だという。先生たちもさまざまな工夫をしている。

 例えば、東京都杉並区立井荻(いおぎ)中学校(生徒364人)は、2012年度から次のような目標を掲げる。

 生徒の読書のジャンルを多様にし、未知の世界を知る喜びを味わう「広げる読書」。そして、精読して他の生徒と意見交換し、新しいことに気づき、思考を深める「考える読書」である。容易ではない。

 先生たちは「中学生に読ませたい本」を挙げ、候補本を職員室に並べて皆で読んだ。その感想や校外の意見も聞いて検討を重ね、半年がかりで約100冊を学校の課題・推薦図書に選ぶ。これを先生らがペアになって昼の放送で関連作品も含め紹介した。生徒は、今まで読んだことがない種類の本も図書館から借りた。

 全校読書討論会では、一つの作品を掘り下げて考え、違う学年の生徒の考えにも触れる。「正解のない問いに対し、考え続ける姿勢を身につける」のがねらいだ。

 地域住民らが自由に参加して学校で開く読書会には、生徒たちも加わり、気後れせず意見を述べ、大人の考え方を新鮮に受け止める。

 次期学習指導要領は「アクティブ・ラーニング」が柱だ。先生が一方的に知識を教え込むのではなく、子供たちも積極的に意見を交わし、課題解決を目指す。大学入試もそうした学力を問うことになるという。

 成長期に思考を耕す読書や、調べ学習にも不可欠な学校図書館の活用は、まさにそれに通じる。

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