社説:最高裁死刑破棄 議論深めるきっかけに
毎日新聞 2015年02月06日 02時40分
裁判員裁判の死刑判決を無期懲役に減刑した2件の高裁判決について、最高裁が高裁の判断を支持する決定を出した。
死刑が生命を永遠に奪う刑罰である以上、適用は慎重に行うべきだと最高裁は指摘する。その上で、「死刑の選択がやむを得ないとする具体的、説得的な根拠を示していない」と、1審判決について述べた。
ただし、「認定自体に誤りがあるとはいえない」と言及している。
死刑の判断は難しい。それでも死刑が想定される重大事件の裁判に国民を参加させる以上、刑事司法の仕組み、量刑の判断基準について説明すべき責任はまず裁判所にある。今回の決定をそのきっかけとしたい。
2件はいずれも被害者が1人の強盗殺人事件だ。千葉県松戸市で2009年、女子大学4年生を殺害して放火し、強盗殺人罪などに問われた竪山辰美被告と、妻子の殺人罪で20年服役した後の09年に東京・南青山で男性を殺害したとして強盗殺人罪に問われた伊能和夫被告である。
竪山被告について、1審の裁判員裁判は、出所後3カ月で殺人の他に強盗強姦(ごうかん)も繰り返した点を重視したが、最高裁は「殺人以外は、悪質性を考慮しても死刑の選択を根拠づける事情とするのは困難」とした。
伊能被告について、1審の裁判員裁判は「過去に妻子を殺害し、出所後の強盗目的の犯行は冷酷」と判断したが、最高裁は「前科を過度に重視すべきではない」と結論づけた。
最高裁は今回、死刑を選択する前提として、過去の同種事件との量刑の公平性への配慮を求めた。
連続4人射殺事件の永山則夫元死刑囚の事件で、最高裁は1983年、死刑の判断基準を示した。動機や計画性、殺害被害者の人数など考慮すべき項目を挙げたものだ。その後、特に被害者数は重視され、被害者が1人の場合は、死刑が選択されることは少ない。最高裁はそうしたことも念頭に今回判断した。
ただし、前科や犯行態様なども永山基準に含まれている。凶悪事件を繰り返す被告の人間性を重視した裁判員裁判の判断を肯定する人は少なくないかもしれない。
それが市民感覚だとすれば、今後も死刑をめぐる市民と裁判官の見解の相違は出てくるだろう。なぜ、死刑の判断に公平性が欠かせないのか。裁判所はより説得力のある説明が必要だ。
その先には、なぜ死刑が必要なのかという問いもある。死刑を全廃した欧州連合は、日本に死刑の執行停止を求める。裁判員を重い判断に関わらせるならば、根本的な問いかけにも答えていく必要がある。だが、死刑問題の議論は低調だ。政府や国会も含めて向き合うべき課題だ。