近い将来の憲法改正に向け、自民党が本腰を入れ始めた。

 安倍首相と船田元・自民党憲法改正推進本部長らがおととい会談し、改憲に向けた段取りを話し合った。

 憲法のどの部分から改めるかについて各党間で調整を進め、来夏の参院選後に衆参両院で3分の2以上の賛成を得て改正案を発議、国民投票にかける日程を描いているという。

 自民党は昨年の衆院憲法審査会で「環境権」「緊急事態条項」「財政規律条項」の創設を論点に議論を進めるよう提案している。このうち3分の2以上の賛成を得たものを国民投票にかけようというのだ。

 自民党がこの3点を挙げるのはなぜか。船田氏は憲法審査会でこう説明している。

 「優先度の高いものから取り上げていく方法もあるが、国会も国民も何しろ初めての経験。できるだけ多くの政党が合意できる項目から取り上げていくのが適切ではないか」

 つまり、憲法改正の必要性から考えるのではなく、各党に異論が少なく、実現可能性の高いものから手をつけていこうというのだ。

 これが国の最高法規を改めるのにふさわしいやり方なのだろうか。社会や国際情勢の変化に伴い、憲法を変えるほうが国民の利益にかなうということはありえるだろう。そのときは国会で正面から論じ、国民投票に問えばよい。

 内容よりも改正のやりやすさを優先しようという運び方は、自主憲法制定を党是に掲げる自民党にとっては自然なことなのかもしれないが、本末転倒だと言わざるをえない。

 先の参院予算委員会で、外国で拘束された日本人を救出できるよう9条を改正すべきだとの野党議員の質問に、首相は「我が党はすでに9条改正案を示している。なぜ改正するかといえば、国民の生命と財産を守る、その任務を全うするためだ」と応じた。

 過激派組織「イスラム国」による人質事件はあまりに痛ましかった。しかし、再発防止などの対策を日本の平和主義の根幹である9条の改正に結びつける議論は、短絡に過ぎる。

 改憲をめぐり安倍首相や自民党の視線の先には、9条改正という本丸がある。

 かつて首相は憲法改正へのハードルを低くするための96条改正論を唱えたが、世論の反対を受けいまは封印している。環境権創設などの議論を、本丸への新たな助走路として持ち出すべきではない。