先日、スーパーの関係者にこんなことを言われて驚きました。
来年度から、野菜でも○○に効くって表示できるようになるんですよね。景品表示法違反には問われないって聞きました。上司から、『どんなフレーズをPOPに書くか、それぞれの野菜について今から考えておけ』ってハッパをかけられたんですが、どんなものを書けるんでしょう?
どこからどうなって、そんな話になってしまうのか。たしかに、新しい機能性表示食品制度はサプリメントだけでなく、生鮮食品、一般的な加工食品も対象ですが、本欄でも何度か書いている通り、自由に表示してよい制度ではありません。機能性、健康効果については、学術論文で報告されかなり強い根拠があるもので、なおかつ表示することをあらかじめ届け出ておかないと、表示はできません。当然、POPでも書けません。
●表示できるほどの根拠を持つ生鮮食品は、まだわずか
生鮮食品や一般的な加工食品で、現在のところ、届け出て表示できるほどの根拠があるのは、β-クリプトキサンチンを多く含み更年期以降の骨粗鬆症を抑える効果が前向きコホート研究で示された三ヶ日みかんや、花粉症の症状を和らげる効果がヒト介入試験などで確認されているべにふうき緑茶くらいではないか、とみられているのが実情です。
前向きコホート研究というのは、最初に食生活の調査や血中濃度などを調べて、この集団を前向きに追跡し、つまりその何年か後にどの病気にかかったか等を調べて、どんな食生活や摂取した成分が、その後の病気を防いでいるか等、因果関係を探るもの。
ヒト介入試験というのは、一定の人数の人に食べてもらって、どのような現象が起きるのか調べるいわゆる「臨床試験」です。
どちらも、厳密な実験計画と実行する研究者が必要で、お金もかかります。
テレビなどで、この野菜は○○に効く、あの果物は△△に効くなどと、いともたやすく当たり前のように伝えられていますが、多くはこのレベルの試験は行われていません。細胞に与えて細胞の変化を見たり、ラットやマウスに与えて血液検査をして「良かった」とわかったり、というレベル。
でも、細胞にかけて細胞膜を通して中に物質が入って行くのと、ヒト食べて消化して体の中で機能すると、まるっきり違って当たり前、です。動物実験も代謝メカニズム等が異なりますので、動物で効いてもヒトでは消化され分解されてしまってダメだった、というようなことが普通に起こります。機能性研究では、細胞実験や動物実験は参考程度。ヒトでしっかりと確認しないと科学的根拠とはなりません。
もう一つ多いのが、「野菜の抗酸化力を測定しました。この野菜は抗酸化力が非常に高くて、体内で活性酸素をやっつけます」などというパターン。この手の、食品を直接測定する手法は、それが高いものが実際に、食べた人の体内で効果を持つのかどうか、はっきりとしないものがほとんどなのです。有名なORAC法は、USDAが当初、データベースをウェブサイトに出していましたが、「測定値と体内で効果が一致しない」として2012年に取り下げてしまい、そのままになっています。なのに、「抗酸化力が高いから、効く」とうたってしまう研究者や業者がいます。
いくら、テレビなどで伝えられてブームになったとしても、新制度に則って機能性表示だなんて、到底無理なのです。
だから、スーパーの野菜や果物売り場の担当者の方々、準備に焦る必要なんて、まったくないですよ。
●機能性表示には、相当の準備と先行投資が必要
機能性表示は、学術論文と届出が必要なだけでなく、販売する場合に容器包装に所定の「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品とは異なり、 消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。」や「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」などの文言を表示し、効くための「機能性関与成分」の含有量や熱量、たんぱく質量などの栄養成分含有量等も、きっちり表示しなければいけません。それに、ウェブサイト等で消費者に情報提供することや、健康被害等の苦情受付の仕組みなども備えておく必要があります。
その食品を売り出す生産者やJA等には、相当な準備と先行投資が求められます。要件を満たし、容器包装に所定の表示をした野菜や果物、一般加工食品が出て来たら、その時に十分に宣伝してあげてください。
●野菜、果物の栄養機能食品が登場する?
実は、生鮮食品は来年度、栄養機能食品の対象となります。もしかすると、こちらの方が店頭への登場は早いかも。
栄養機能食品というのは現在、ビタミン12種類とミネラル5種類について定められている制度で、これらについて一定の含量、つまり規格を満たしていれば、許可申請や届出をせずとも、所定の機能性を表示できるという制度です。たとえば、「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維 持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です。」「葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です。」「 葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です。」というような感じです。
来年度から、規格が設けられるのが3成分増える見込み(n-3系脂肪酸、ビタミンK、カリウム)。そして、鶏卵以外の生鮮食品は認められていなかったのですが、来年度から生鮮食品も対象となりそうです。既にパブリックコメントも終わっています。
栄養機能食品も、容器包装に1日あたりの摂取目安量や、機能を表示する成分をどの程度とれるのかなどを書き、さらに、成分ごとに決まっている注意喚起の文言や「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」なども表示しなければなりません。
機能性の根拠を証明する必要がない分、機能性表示食品よりは楽に表示できますが、そうであっても表示する者には責任が伴います。
●根拠なくPOP表示をするのは、法律違反の可能性
栄養機能食品や機能性表示食品ではないのに、店頭で勝手にPOPに「○○に効くみかん」「△△を食べて、風邪を撃退!」などと書いてしまい、根拠が薄弱な場合には、食品表示法違反や景品表示法違反にも問われかねません。
もっとも、スーパーや直売所の中には、そんなPOPを平気で出しているところがありますね。しっかりした食品メーカーは「行き過ぎたPOPを出さないでほしい」と、スーパーマーケット等に頼み込んで回っているのです。
私は最近、「根拠が薄いのに機能性なんてうたっちゃだめですよ。細胞実験や動物実験、抗酸化値を基に効くなんて言うのは、詐欺に等しい行為なんですよ」と生産者やJA関係者、流通、事業者の方々などにことあるごとに言っています。消費者庁の作業が遅れて、来年度からの機能性表示食品や栄養機能食品制度がどのようなものになるのか、普通の生産者や消費者に知らされないまま、「できるんだって」という気分だけが盛り上がっているのが実情です。
慌てないで。勇み足にならないように。知らないうちに法律違反、なんてことにならないように、今後の消費者庁の情報発信や説明会の開催等に十分に注意しましょう。
<参考文献>
・ 機能性表示食品制度は、ガイドライン案が2月中旬公開される見込み。おおまかな内容については、既に終わったパブリックコメント資料や消費者委員会での説明資料、消費者委員会食品表示部会資料、規制改革会議資料等で伺える
・栄養機能食品制度については、既に終わったパブリックコメント資料や、消費者委員会食品表示部会資料、現行の制度を説明する東京都のページ等が参考になる