人間が1秒でも早く目的地にたどり着きたいという欲求に終わりはない。

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2008年にアメリカから世界に飛び火したリーマン・ショックは多くの人が、「信じていた価値観」を壊し、自分自身のライフスタイルを再度考え直すきっかけを作りました。

このような人類の歴史に残るような「危機」は、家庭も仕事も順調で、何の問題もなく生活をしていた人にとっては、ただの災難でしかありませんが、人類の進化を長期的な目線で考えれば、従来の価値観(住み方、消費の仕方、そして働き方)をリセットする、時代の大きな節目になることが多いです。

↑リーマン・ショックなどの歴史的な危機は、従来の価値観をリセットする役割を果たす。(Pic by Flickr)

アメリカの作家、カート・アンダーセンも「価値観のリセット」と呼んでいますが、人々はこのリーマン・ショックを通じて、やたらに消費したがる傾向や、家、車を所有する欲求から脱却し、時代に求められている新しい価値観に少しずつ適合していくことが求められます。

ゼネラル・エレクトリックのCEO、ジェフリー・イメルトは、リーマンの金融危機直後の講演で次のように述べています。

「金融危機は、周期的にめぐってくるものではない。感情、社会、経済におけるリセットなのだ。この点をわきまえている者は、今後も上手くいくだろう。だがその理解が不十分であれば、遅れを取ってしまう。」

↑危機を楽観的に捉えることができる人は、いつの時代も上手くやっていける。(Pic by Flickr)

リーマン・ショック直後の現在のように、世界恐慌の嵐が吹き荒れていた1931年、歴史学者のジェームズ・トラスロー・アダムスは「アメリカン・ドリーム」という表現を使って、アメリカという国土に住む誰もが、その努力に応じて一軒家に住み、車を所有することができるというコンセプトを伝えました。

それから約70年、多くのアメリカ人は郊外に大きな家や車を所有するために、せっせと汗を流して働きましたが、現代の若者は上がり続けるガソリンの値段や職場までの通勤時間にストレスを抱えており、車や持ち家も必要ない都市に住むことで、そのお金を自分自身のスキルに投資しています。

↑家のローンやガソリン代に苦しむぐらいなら、ルームシェアと自転車を活用して、自分のスキルに投資する。(Pic by Flickr)

都市に人口が集中すれば、それは自然と郊外に広がっていきます。東京では板橋区に若者が新しい文化を作り始めていますし、ニューヨークで言えばブルックリンなどがそれに当たるのかもしれませんが、政府は都市と郊外を最速で結ぶ交通のインフラに投資し、人々の動きをもっと活発にしていかなければなりません。

そして、それと同時に近郊の都市と都市を結ぶ交通のインフラを整えていくことがさらに大きな相乗効果を生み出します。

ロンドンでは、北部のミルトン・キーンズやギルフォードまで、移動時間を少しでも縮めようと、政府が電車や高速バスなどに巨額の資金を投資していますし、カリフォルニアでもサンフランシスコからロサンゼルスまでを結ぶ高速鉄道の整備が計画されており、人間が1秒でも早く目的地にたどり着きたいという欲求はまだまだなくなりそうもありません。

↑人間が1秒でも早く目的地にたどり着きたいという欲求に終わりはない。(Pic by Flickr)

現在、ヴァージン・ギャラクティック社が開発中の超高速ジェット機は、シドニー〜ロンドン間を2時間半でつなぎ、もしかすると数十年後には、ものすごい移動革命がおきて、東京からロンドンを1時間でつなぎ、ロンドンから東京へ出前を取ることも可能になるかもしれません。

今から50年ほど前、東海道新幹線が開通した時、「これ以上移動時間を短縮する必要があるのか?」という議論があったそうですが、都市という点と点を結ぶスピードが上がることにデメリットなどあるのでしょうか。

政治家は古いシステムを守るために、多額の税金をつぎ込んでいますが、危機は古い価値観をリセットするための数少ないチャンスだということを、もう少し理解すべきなのかもしれません。

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中山実生
ロンドン在住。ロンドン大学ゴールドスミス、ダンス・ムーブメント心理療法修士課程在学。子どもの労働問題に関して多方面で執筆。「内発的発展と教育」(新評論出版)共同執筆。広島出身。