青森県は下北半島。本州最北端の地に、とんでもねえ宿がある!
到着してから宿をたつまで、店主の飛内さんがマンツーマン接客をしてくれる。話して、話して、話しまくる!
100畳敷の大宴会場はコレクションで埋まり、地獄極楽を手づくりしちゃう。
とにかく、まあ、読んでみてください。圧倒された。
今年の夏、Twitterで「東京別視点ガイド」とエゴサーチをしていたら
@mangetsu1129 やっぱり何度、ワンダーJAPANや珍スポット100景、Deep案内、東京別視点ガイド等を探しても、「とびない旅館」の文字はなし。
国内最強の珍スポなのに。。。どーかしてるぜ!!!
— 満月・テンゴ・ナ・ミンキア・タンタ (@mangetsu1129) 2014, 7月 23
ってなツイートを発見した。
「へ~、そこまで強く断言するなんて、どんな旅館なんじゃろ」
と満月さんのブログ記事(日本最高峰の宿!最強の珍スポット!とびない旅館!!!)を読んでみたら、これがも~、最高!国内最強の珍スポという高評価もうなづける。
「行きたいイキそうイカせてください」と脳内はすべての煩悩を押しのけて、とびない旅館欲で埋め尽くされたが、いかんせん遠いんだ。
なんたって、↑ここだもん。
下北半島の先っぽ、恐山のすぐ真下だかんね。
なかなか行く機会を作れず、悶々とした日々を過ごしていたが、つい先日、今年一番の積雪とテレビニュースが警告を促すなか、青森へと馳せ参じてまいりました。
夜行バスで新宿駅から青森駅まで11時間→青森駅からJR大湊線で下北駅まで2時間→駅からタクシーで10分、合計13時間10分かけて、とびない旅館に泊まってまいりました。
あのね、こんだけの手間をかける価値、有りも有り、大アリですから!マジで最高の一夜だった!
●予約の電話からヤバい!
さかのぼること宿泊の1週間前。
予約の電話をしたのだが、この時点ですでにヤバさの片鱗を見せていた。
泊まりたい旨伝えると、店主はかぶりぎみに
予約の電話をしたのだが、この時点ですでにヤバさの片鱗を見せていた。
泊まりたい旨伝えると、店主はかぶりぎみに
「謎の本を読んでるんですか?」
と意味不明の質問をしてきた。
「え?謎の本??」と困惑していると
「ホビー系のかたですか?」
と意味不明の質問をしてきた。
「え?謎の本??」と困惑していると
「ホビー系のかたですか?」
とさらに謎の質問を畳みかける。
「いえいえ、ホビー系ではないです」と答え、東京からだと伝えると
「わざわざ遠くからご苦労さまです。ご多分に漏れずとんでもない宿でございますよ」と締めくくった。
「いえいえ、ホビー系ではないです」と答え、東京からだと伝えると
「わざわざ遠くからご苦労さまです。ご多分に漏れずとんでもない宿でございますよ」と締めくくった。
●飛内ショーの開幕だっ!!
夕方5時にとびない旅館に到着。営業52年目ということで、なかなか年季の入った建物だ。
まわりにはポツポツとビジネスホテルや雑貨屋などが並んでいる。昔は栄えた町だったが、いまはほとんどシャッター商店街だ。
横から見るとかなりデカい。
2階建てで客室は15部屋ほど。宿泊料は1泊2食つきで6500円だ。
夏の恐山大祭の時期(7月20~24日)をのぞけば、いつもガラ空きだと言う。この日も客は私1人だった。
入り口を開けると、すごい勢いで飛びだしてきたのが、とびない旅館のご主人にして、今宵の主役である飛内源一郎さん。1961年生まれ、53歳。
宿で働くのは彼1人。食事も接客も清掃もすべての業務を1人でこなすエネルギッシュな漢だ。
とくに接客への力の入れようは異常。止まらぬマシンガントークでマンツーマン接客をほどこしてくれる。寝る時と風呂の時以外、ぴったり横にいてくれる。わりと早め、夕方5時に着いたってのに「どのように夜まで過ごしましょうかね!?時間があまりありませんね!」と心配していたほどだ。とにかく話したいこと、見せたいものが山ほどあるらしい。
▲2階廊下
宿帳を書いてると「こんな宿に泊まるなんて、廃墟が好きなんでしょ?」と自虐ジョークをかましてくる。
「廃墟とか怖いのダメなんですよ。こんなデカいとこに1人なんて怖いですもん」と喋ったのが運のつき。旅館のなかの”心霊現象が起こった場所”をみっちりガイドしてくれた。
あれ?怖いのダメって言ったよね?
▲子どもの声が聞こえる部屋
●なかに誰もいないのに鍵が勝手に閉まる部屋
●下から子どもの声が聞こえる部屋
●霊感ある客が「なにかがいるがはっきり見えない」と言っていた部屋
などを1部屋ずつエピソードを語りながら、丁寧に案内してくれる。
しまった・・、弱みを見せたのがうかつだった・・・。
とはいえ、飛内さんのエネルギーが旅館中に満ちみちているので、恐ろしい雰囲気はまるで感じないけどね。
私の部屋はこちら。結構広いし、わりかしキレイだ。
「ストーブの火には気をつけてください。火事になったら一緒に死にましょう」
と重たいプロポーズみたいな警告をされた。
とびない旅館のセキュリティーは、内側からかけるこの錠前だけ。
ほかに客がいないので、とくに必要はない。
ひとしきり心霊解説を終えたら
「半狂乱で買い出しに行ってまいります」
と、私1人を管理人室にのこし、食材を買いに出かけてしまった。
「能町みね子さんと久保ミツロウさんの番組を見ながら、お茶でも飲んでてください。なんて宿でしょうねえ」
とDVDと急須を渡された。どうやら、とびない旅館が出てくるらしい。
ちなみに、能町みね子さんと青森に特化したブロガーのねこぜさんは頻出ワード。とびない旅館によくしてくれるお二方だとか。一夜で40回は聞いた。
DVDを流し見しつつ、管理人室を見学。
壁には、ウルトラマンや怪獣のフィギュアがぺたぺた貼られてる。
箱に入った老眼鏡も貼りつけられている。
入り口にぶら下がっているのは仏壇みがきクロス。魔除けだろうか。
司法書士事務所の封筒のうえには、拳銃が2丁置かれている。
なんて取りとめのない、シュールレアリスムな部屋だ。
写真をパシャパシャ撮ってたら、突然、テレビが「ボスッ」と音をあげ、切れた。
え~~、もう、一体なんなの。
のっけから異様なことが起こり過ぎ!
●飛内さんと晩飯を食べよう!
▲食堂
1時間もすると、買い出しから帰ってきた飛内さん。
「それではわたくし、泣きながら夕飯を作ります」と厨房に入っていった。海亀のように料理を生み出すつもりか。
突如消えたテレビをもう1度つけ、DVDを見ていると
「やったーーーーーーー!!!あと15分で完成だーーーーーっ!!」
という叫び声が厨房から聞こえてきた。無邪気か。
叫び声から30分たち、午後8時頃、夕飯ができあがった。
イカの刺身、とんかつ、煮物、揚げだし豆腐とかなり豪華じゃあないか。
待たせてしまった客用のヤケクソ盛りで、普通の1.5倍ほどの量になっているそうだ。
宿泊客が多い日は時間がかかりすぎるので、客に配膳などを手伝ってもらうこともあるとか。「助けることができる宿って新しいよね!」と前向きにとらえていた。
▲青森名物いもすり餅。うまい。
青森名物のいもすり餅。ジャガイモをすりつぶして固めたもの。餅のようなプニプニした食感で、すげえ美味かった。とびない旅館自慢の逸品だ。
私が食事している最中も、真向かいの席に座った飛内さんは、一切休むことなくマシンガントークをくりひろげる。
主な話題は3つ。
1:地元住民たちとまったく反りが合わないという話し
2:政治の話し
3:遺産相続でトラブってて人生が嫌だという話し
である。
だいたいこの3つの話題を行ったり来たりしつつ、ときおり趣味のプラモデルや映画の話しをまじえて、トークショーは進んでいく。
「面白い話しがあるんですよ!!」からはじまる政治話しを7つされ、あっというまに2時間経過。
なんだか飛内さんの顔、政治の話しをしているときは安倍晋三に似ているし、金の話しをしているときは岸部四郎に似ている。
話しが核心に近づくと、グッと身をのりだし、真剣な表情で「面白いでしょう」と念を押してくる。
「とんでもないことを話してあげましょう。わたし、縄文人の末裔なんです」とカミングアウトをされ、いったん、お開き。時刻は22時半。お風呂に入る。
風呂からあがるなり「晩酌をしましょう」とウイスキーを出してきた。
「それで遺産のことなんですけど」と髪も乾ききる前に、さっそく遺産相続の問題について相談をもちかけられる。
Googleマップで、問題となってる物件を見せてくれた。
まあ、くわしい事情までは書きませんけど、とにかく親族間でかなり揉めてるらしい。
ことあるごとに「・・・・人生って、なんなんでしょうね!?」「他人事だと面白いでしょ?」と核心的な問いをつきつけてくる。
2時間ほど遺産問題について話したすえ
「は~~~、人生って嫌だ~~~~~~~~!!!」
と絶叫して、締め。
解放されたのは深夜1時。到着から8時間みっちりマンツーマン接客をうけたぞ。
部屋に戻るさい、学生のころ自主制作した映画を渡された。飛内さん、特撮やヒーローものがとことんお好きな方なのだ。
帰宅してから見たのだが、完成度がかなり高い。ウルトラマンのパロディーもの。「無職のヒーローがモタモタしているうちに、自衛隊が怪獣を倒してしまう」という現代にも通じるようなアイロニカルな作品だった。
●朝飯も飛内さんと食べよう!
▲ボリューム満点の朝飯
朝8時に起床。
食堂で飛内さんと顔をあわせると、おはようございます代わりに「怪しげな旅館へようこそ!」と言われた。いまさら、なにをあらたまって!
納豆、とろろ、煮物に刺身と、朝からボリューム満点だ。
「イソビタンA2」とかいう見たことも聞いたこともない栄養ドリンクもついてきた。
ふと顔をあげると、飛内さんがなにかを手にしている。
「僕はブランド力の高いリポビタンDを飲みます!」と、にこやかに言いはなった。
リポビタンD、あるのかよ!くれよ!!
もちろん朝飯の最中もずっと話しをしてくれるよ。
朝から
「人生って嫌だーーーーーーーーーーっ!!」
と元気一杯叫んでいた。
文字に起こすと、まるでネガティブなように聞こえるだろうが、ぜーんぜんそんなことはない。飛内さん自身が、とんでもない熱量のエネルギーを発しているので、まったく暗い感じじゃない。むしろ、正直すぎる心の叫びに、清々しい気持ちになってくるのだ。マジで。
●飛内テイストあふれる館内
ちょっと館内の様子も紹介しておきましょうかね。
消化器にはさまれてウルトラマンが置かれていた。おそらく色合いが似てるからだろう。
1階トイレは、4個中3個が使用不可だ。
男風呂には飛内さん直筆の壁画が描かれている。
潜水艦と銃も完備しているぞ。
女風呂は男風呂にくらべてさっぱりとした作り。
もちろん、銃はある。
●宴会場はコレクションルームになってるぞ!
▲コレクションルームと化した宴会場
とびない旅館の最大の見所は
●コレクションルームと化した「宴会場」
●理想の商店街をつくった「妖怪ハウス」
の2つだ。
まずは、宴会場を見せてもらう。
100畳敷きの大宴会場。昔は結婚式も開かれていたが、現在は、飛内コレクションでギチギチに埋まってる。
廊下にはプラモデルがうず高く積まれてる。あまりにも量がありすぎて、作りきれないそうだ。
貴重な物もかなりあって、博物館に貸しだすこともあるとか。
中央のロボットは、県立美術館から依頼され、飛内さんが作ったもの。
子どもの頃から大の工作好きで美大に行きたかったが、親を説得できず、工業大学に渋々通っていたらしい。
ここ最近は制作のほうでも認めれてきていて、少しづつ人生が楽しくなってきたとおっしゃっていた。(相続問題さえ片づけば)
モデルガンもすごい数。ゆうに100丁は超えている。すべて鉄製に見えるが、プラスティックをそれっぽく塗装してるのも多いとか。
「お~、すげ~」と感心してると、飛内さんは顔を耳に近づけて「…正直なところ…お好きなんでしょ」と囁かれた。なぜ内緒話みたいに言う。
宴会場の脇には、飛内さんのプライベートルームがある。
立ち入り禁止の張り紙には、どういうわけかロシア語(だよね?)も書かれていた。
●妖怪ハウスを見学しよう!
▲シャッターを開けてくれる飛内さん
▲下北妖怪ハウス
宴会場を見終わったら、お次は「妖怪ハウス」だ。
旅館向かいの空き店舗を借りて、飛内さんが地獄を手づくりしてるのだ。
もともとは10年前に、町おこしとして作った場所。妖怪で下北を盛り上げようという試みで、水木しげるを呼んだりと、精力的に活動していたそうだ。
しかし、地元の協力をあまり得られず、数年たってフェードアウトしたとか。「素敵なエピソードでしょ?」と真顔で問いかけてきた。
以前は、町中に設置していたというベンチ。
座る面に
「大事に座ってくださいよ!」
「小学校の生徒も手伝ったんですから!!」
「わるいことをする人はすわっちゃいけません」
「たたりがあるかもしれないよ!」
と怒涛の脅迫が展開される。
展示に夢中になって、ちょっと彼から目を離したら、なにやら楽しげに踊っていた。
「寒かったので昭和の踊りをしてました」とのこと。かたときも油断できない。
地獄は2階にあるという。
階段の壁には、子どもたちが描いた恐ろしい妖怪が貼られていた。
妖怪にまぎれて指名手配犯も。人間が一番怖いというメッセージか。
手づくり地獄は、ウォークスルー型のお化け屋敷みたいな薄暗い空間。
紙粘土でこさえた鬼がたむろしているぞ。
閻魔大王はけっこうデカくて、2mぐらいある力作。
胸になにか紙が貼られてる。
「うそをついてませんか?」
焦熱地獄の鬼の横には・・
「きょうだいなかよくしてますか?」
遺産問題をかかえる飛内さんにとって、なんとも皮肉なセリフである。
地獄エリアが終わると、青々とした天国が広がる。
菩薩のモデルは、制作を手伝ってくれた女の子だという。
「仏像のまえにチョロっと小銭おいとくと、客も金置いていきますよ。恐山と同じやり口です」
とキャッシュポイントを生み出す工夫を教えてくれた。
地獄と天国を抜けると、そこは商店街。いつ来ても夕方の『まぼろし商店街』だそうだ。
「地元商店街と反りがあわないので、理想の商店街を作ったんです」
と、おっしゃっていた。
なんだかこみあげてくるものがあるな。
父親が市議会議員選挙に立候補したさいの看板もおいてあった。
見たことも聞いたこともない栄養ドリンクも保管されていた。
タフナミンD。朝食で飲んだのとは別種類の見たことも聞いたこともないやつだ。
●飛内さんに車で駅まで送ってもらおう!
下北妖怪ハウスをたっぷりと楽しんだら、最後は、プレハブに収納してある旅客機の首を見よう。
解体業者から譲りうけたもので、大型トラックで運んだそうだ。
▲ファンからのプレゼントをもらう飛内さん
「この飛行機は世界に数台しかなくて・・・・・もはや文化財としての・・・・・」
と、雪が降るなか、解説をしていると
「お届けものですよー」
と宅配便のお姉さんがやってきた。
運ばれてきたのは、かわいい包装紙につつまれた箱。
「ファンからプレゼントが届いた!!」と万歳をして喜びをあらわす飛内さん。「奇跡的な瞬間に立ち会いましたね!写真撮りましたか?」と催促されたのでパシャリ。宅配便の女性に「このファンはあなたよりだいぶ若い女のファンなんです!」と、とてもまっすぐな説明をしていた。
かなり重かったが、いったいなにが入っていたのだろうか。
朝飯→妖怪ハウス→飛行機とずーっと喋りながら見学してまわって、時間はあっというまに午前11時。
そろそろ帰りの電車の時間なので、別れをつげると
「仲良くなったので、これあげます!」
と、紙っぺらを突きだしてきた。
「ん?なんだろ」と見てみると、なんと、遺産分割協議書ではないか!
昨夜からことあるごとに話題にでてきた、渦中の遺産分割協議書をくれるというのだ!
もちろんハンコをついていない叩き台ではあるが、なんとも貴重なものをいただいた。
しかも「記事にしたら、いいネタになるでしょ!」とおっしゃる。相続の話し、積極的にネタにしていいようだ。
なんちゅうの懐の広さだよ、飛内さん!
そして、駅まで送ってくれた。ボロ過ぎてブレーキを強く踏むとエンジンが止まるそうだ。
「俺しか運転できないから、鍵つけたままでも盗まれないよ」と得意気であった。
いやあ~~、とびない旅館、ほんとうに最高の最高だった。
飛内さん、作為と天然がいい塩梅でブレンドされたパワー型の才人であった。自然災害のような凄まじいエネルギーにあてられて、別れたあともしばらく「・・・スゴかった」と呆然としていたほど。
わざわざ下北半島まで行く価値ありますよ、マジで!!春にまた、飛内さんに会いにいこっと!!
■「とびない旅館」の情報■
オススメ度:★★★★★
アクセス:JR大湊線「下北駅」からタクシーで10分
住所:青森県むつ市田名部町8-6
電話番号:0175-22-3815
営業時間:-
定休日:とくになし
予算:2食付き1泊6500円
関連サイト:ねこぜさんのブログ/店主のブログ