Updated: Tokyo  2015/02/06 08:37  |  New York  2015/02/05 18:37  |  London  2015/02/05 23:37
 

住宅保護減額は「死を意味」ハウジングプア追い込む安倍政権

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  (ブルームバーグ):「生活保護費の減額は死を意味するんです。家賃が払えなくなれば、車椅子でホームレスになってしまう」-。東京都世田谷区に住む川西浩之さん(42)は脳性まひで身体が不自由で、生活には訪問介護が必要だ。経済成長の一方で財政健全化も目指すアベノミクス はこうした生活保護受給者をも窮地に追い込んでいる。

約40平方メートルで2DKのアパートの家賃は月8万2000円。住宅扶助費の6万9800円を上回り赤字だ。電動車椅子を使いながらヘルパーの介助も受けるには最低でもこの間取りは必要という。国が生活保護を受ける単身世帯の目安としている住居の広さは25平方メートル。川西さんは「障害者の個別事情を考慮していない」と話す。

名目国内総生産(GDP)では世界3位の経済大国の日本ではいま貧困層が増えている。厚生労働省によると、生活保護の受給世帯数は10月時点で過去最高の162万世帯を記録。人数も過去最高水準で高止まりしている。厚生労働白書では、厳しい雇用環境や高齢化に伴う老後生活の長期化などが背景にあると分析している。

財政健全化を目指す安倍晋三政権は少子高齢化が進む中、一般会計の32%を占める社会保障費を抑制しようとしている。3%(2.9兆円)に上る生活保護費の削減にも着手。13年度から食費や光熱費、衣料に充てる生活扶助費の段階的な引き下げを始めた。

7月から住宅扶助減額

厚労省は1月、生活保護のうち家賃として支払う住宅扶助についても7月から引き下げると発表。2014年度と比べ18年度は190億円削減する方針だ。地域や世帯人数により異なるが、受給額は最大で月額1万円の減額。東京都では最大6000円、大阪では同8000円減る。今後インフレで衣食費用が増せば、住宅に使えるお金はますます減ることになる。

もともと家賃の不足分を食費分の保護費から回してしのいでいた川西さんが住宅扶助まで減らされることになれば、今後さらに食費や光熱費を削らざるを得なくなる。障害があるため働けくのが難しいにも関わらず、介助など生きるのに必要な費用は健常者よりかさんでしまう川西さんは、「今の政権は弱者の意見を聞かない」と訴える。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、2%の物価上昇を目指すアベノミクスの下で「インフレが進めば格差が広がり、社会的弱者がよりダメージを受ける。ダブルパンチで保護が削られるのがいいことなのか」と懸念。財政再建を優先するにしても、受給者の置かれた立場や状況を細かく反映した総合的な改革が必要だと指摘する。

「衣、食、住」-。これらは人が健康な生活を続けるために必要不可欠だ。今後、アベノミクスの効果が広がれば、衣料や食料品だけでなく、家賃も上昇する可能性がある。住まいの貧困(ハウジングプア)は生活保護受給者だけの問題ではない。

ある日突然

「誰にとっても明日はわが身ですよ」-と語るのは東京都新宿区で自活する吉澤豊二さん(67)。長く露天商として働き、毎月30万円程度の収入があったが4、5年前、次々と仕事がなくなり、借家から出た。5万円を手に不動産屋を回ったが、紹介は得られず、一時期は新宿や代々木の公園で寝泊まりした。

神戸大学大学院の平山洋介教授は、「日本では職を失えば誰でも貧困に陥る可能性がある」と指摘する。欧州のように家賃補助や公的住宅が整っていないとした上で、「生活保護が必要なほど困らないと住居支援が受けられない現状は、貧困を増やす要因になりかねない」と危惧する。働いてお金を稼ぐためにも毎日寝泊りできる住宅は必要だ。

吉澤さんは自立心が強く、生活保護は受給していない。今はホームレスの自立支援組織が発行する「ビッグイシュー」の販売者として毎月9万円前後を稼ぎ、なんとか生計を立てている。「稼いでいたころは、自分が路上生活を送ることになるなんて想像したこともなかった」と振り返る。都の支援事業により現在はアパートに住んでいる。

自立生活サポートセンター・もやいの稲葉剛理事は、昨年11月の会合で「都内では低所得者が住む場所がなくなってきている」と述べた。安価で住める木造アパート住宅の割合は老朽化などで年々減る中、「住宅扶助が引き下げられれば、低所得者は食費など削るようになる。政府がデフレ脱却を目指すなら、むしろ引き上げるべきだ」と訴える。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 谷口崇子 ttaniguchi4@bloomberg.net;東京 Chikako Mogi cmogi@bloomberg.net;東京 桑子かつ代 kkuwako@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Brett Miller bmiller30@bloomberg.net; Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.net; Marcus Wright mwright115@bloomberg.net 平野和, 浅井秀樹

更新日時: 2015/02/06 06:00 JST

 
 
 
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