<神話の果てに>少ないCO2排出量強調/第15部・議論の土台(3)クリーンですか
<意外な組織から>
原発の環境負荷は大きいのか、小さいのか。意外な組織から物言いがついたことがある。
対象になったのは、電気事業連合会(電事連)が2008年、雑誌に出した原発広告。「発電の際に二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンな電気のつくり方です」との内容だった。
読者からの申し立てを受けた日本広告審査機構(JARO)は、このコピーに「不適切」との裁定を下した。
問題は「クリーン」の表記。裁定書は「地球環境に及ぼす(放射能の)影響や安全性について十分な説明なしに、発電の際にCO2を出さないことだけを限定的に捉えた」と指摘した。
電事連サイドは納得せず、「CO2を出さない趣旨で(用語を)使っている」と反論している。JAROの判断に法的な拘束力はなく、裁定は宙に浮いた形になっている。
<合理的な愚か者>
電事連の言い分にも理はある。発電時のCO2排出量に限れば原子力は太陽光、風力とともに環境負荷はゼロ。一方、石炭火力は発電量1キロワット時当たりで864グラム、ガスと蒸気のタービンを併用するコンバインドサイクル式の液化天然ガスは376グラム発生する。
電力中央研究所の資料に基づいて原料の採掘から発電所建設、廃棄までの排出量を試算しても優位性は明らかだ。1キロワット時当たり38グラムの太陽光、943グラムの石炭に比べ、原子力は20グラムにすぎない。
しかし、環境面で懸念されるのは温室効果ガスだけではない。横浜国立大大学院の伊藤公紀教授(環境計測科学)は「全体を見ずにCO2排出量だけを考えると『合理的な愚か者』になってしまう」と指摘する。
仮に温暖化防止に貢献していたとしても、原発には放射性物質による汚染リスクが付きまとう。事実、福島第1原発事故によって、広大な土地の除染や廃棄物の処理が大問題になっている。
「生活圏の除染すら終了のめどは立たない。全域が事故前の状態に戻るのは非常に困難だ」。福島県の担当者は嘆く。
原発を維持する限り、燃料採掘から発電、使用済み核燃料再処理までの過程で環境に負荷が加わる。かつてウランが採掘された鳥取、岡山の県境には、40万立方メートルを超える放射性の残土が50年以上も置かれたままだ。
<「主張は筋違い」>
影響は海にも及ぶ。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場は07年10月、放射性物質トリチウムなどを1リットル当たり最大1億7000万ベクレル含んだ排水を放出した。濃度は福島第1原発の海洋放出基準1500ベクレルの10万倍以上だ。
事業者側は「海水で希釈される」と説明するが、蓄積による実害を懸念する声は根強い。
「放射性物質を大量に出す電力業界が『クリーン』を主張するのは筋違い」と伊藤教授。印象にとらわれずに全体を見渡さなければ、原発のメリット、デメリットは見極められない。
2015年02月05日木曜日