移民子孫が発展途上国へ 過激派生む(2月6日日本経済新聞)
旧ソ連崩壊を予言した「最後の転落」(1976年)、米国の衰退期入りを指摘した「帝国以後」(02年)などのトッド氏に聞く
トッド氏に聞く
フランスの移民に多いイスラム教徒を弱者ととらえ、宗教の冒涜(ぼうとく)に懸念を表明する著名な歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏に聞いた。
――事件後に仏国民の多くが「私はシャルリ」という運動に参加、反テロの連帯を示しました。
「理性的でない何かが『私はシャルリ』という現象とともに姿を現した」
「フランスには個人を対象にしなければ、何でも風刺できるという風潮がある。
だが、私は事件前から預言者ムハンマドのわいせつな風刺画を出版したシャルリエブドの神聖化には同意できない」
――事件を通じて何が見えましたか。
「中間層の心理や行動に注目している。
フランス全土での『反テロ行進』には400万人が参加し、その多くは中間層だった。
大都市の郊外に住む(移民やその子孫)若者と、極右政党を支持する労働者階級は参加しなかった」
「私の目に映ったのは自分たちを中心に世界が回っていると思い込む中間層だった。
歴史家としては不安を感じる。社会システムの安定は移民や労働者階級でなく中間層が担うからだ」
<移民、労働者、中間層(肉体労働でない会社員)の三グループに分けている>>
――仏社会はイスラム系の移民とどう向き合えばよいのでしょうか。
「高い教育を受けた富裕層の若者はオーストラリアやカナダに移る。
だが移民とその子孫は貧しく、十分な教育を受けられない。経済危機で職もない。
いらだつ若者は発展途上国に向かう。
その一部が過激派『イスラム国』を目指すのだ」
「わが国の大都市郊外に住むイスラム教徒の若者は西洋で生まれたフランス人だ。
将来の展望が開けないことが若者の疎外感の一因なのだ。西欧は自らの問題に目をつぶっている」
「フランスはイラク(のイスラム国)、シリア北部、アフリカのマリにも軍事介入した。
(これだけ外国で軍事活動を展開して報復を受ける可能性があるのに)自分たちが突然攻撃されたと考えるのは理性的とはいえない」
――表現の自由と宗教の尊重のバランスは。
「それでも(キリスト教など)自分たちや祖先の宗教を皮肉ることと、(イスラムのような)ほかの人たちの宗教を侮辱することは違う話だ。
イスラムは郊外に住む職のない移民の心のよりどころになっている。
イスラムを冒涜することは、こうした移民のような社会の弱者を辱めることだ」