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つまようじ、イスラム国…エスカレートする悪ふざけ投稿 “目立ちたい”が喪失させる倫理感

産経新聞 2月5日(木)20時5分配信

 いたずらをインターネットに投稿する行為が相次いでいる。商品棚の菓子につまようじを刺し入れるなどの動画を投稿した少年が警視庁に逮捕された。日本人殺害脅迫事件でも悪ふざけのような画像の投稿が出てきている。一度ネット上に出回れば転載を繰り返し、完全に消去することはほぼ不可能だが、問題投稿を事前に規制することも難しい。「いいね!」欲しさなの安易な投稿か、広告収入を得る「ユーチューバー」への憧れか…。だが過激な投稿は実社会にも影響を及ぼす事態となっている。

■“万引風”でも立件

 「万引なんて余裕です、余裕」「万引マスターを目指しています」

 少年は投稿した動画の中で何度も話した。しかし実際には万引していなかった。逃走を続けた少年は1月18日午前、滋賀県米原市のJR米原駅で身柄を確保された。

 警視庁は、万引をしたように見せかける虚偽の動画を撮影する目的で東京都武蔵野市のコンビニエンスストアに立ち入ったとして、少年を建造物侵入容疑で逮捕した。

 この動画について警視庁が調べたところ、少年は撮影の数分前にも入店し、持ち込んだ紅茶を商品棚に置いた。店の防犯カメラが捉えていた。26件の動画が万引として撮影されていたが、同庁は、すべて万引を偽造したものとみて調べている。棚の菓子につまようじを刺し入れる動画についても、事前に購入したものだった可能性が高い。

 少年はなぜ万引をわざわざ“偽装”したのか。

 逮捕後、その理由について少年は「万引で捕まりたくなかったから」と供述。捜査幹部は「いたずら目的で店に入ることが、建造物侵入という犯罪に当たるとは予想していなかったのだろう。人の目を引きたいが、犯罪をしたくなかったとの思いがあったようだ」と推測する。

 警視庁は建造物侵入容疑のほか、ネットに動画を投稿したことで店を警戒させ正当な業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑でも立件する方針だ。実際に商品に手を加えなくても悪質な動画の投稿そのものが、単なるいたずらでは済まされないことが示された。

 「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件では、1月20日に湯川遥菜さん(42)と後藤健二さん(47)が拘束されている動画が公開された後から、イスラム国を揶揄(やゆ)したような映像をコラージュした画像の投稿が相次いだ。

 これに対し、イスラム国関係者によるものなのか、「日本人よ。ずいぶんと楽観的なようだな」との投稿も。「お前の顔が見たい」などと、攻撃を示唆する書き込みもあったが、今度は動画の構図をまねて撮影した写真の投稿が続々と出てきた。

 これらの投稿はさまざまなサイトで拡散し、海外からも見られている。

■事前の差し止めは検閲

 少年が動画を投稿したユーチューブは、利用者からの不適切な動画の報告を募っている。報告を受ければスタッフが内容を確認し、利用規約を示した「コミュニティガイドライン」に違反すると判断すれば、削除する。

 ただガイドラインで明記しているのは、「ポルノや性的なコンテンツ」「大けがにつながる危険性のある行為を促すような動画」「暴力的で残酷な動画」など。いたずらについては記載がない。

 ユーチューブを運営する米グーグル日本法人の広報部は削除の是非について、「個別の動画に対する判断は答えられないが、いずれも総合的に判断している」と説明する。

 ネット事情に詳しい久保田健一郎弁護士は、「サイトの運営者が投稿を規制するルールを設けることは可能だが、事前に差し止めるのは一種の検閲になり、憲法上問題になりうる」と指摘。「事後的な対応をとらざるを得ないのが現状だ」と話している。

■ユーチューバーへの憧れか

 ネットへの投稿をめぐっては、約2年前にも、アイスクリームの冷凍ケースに入ったコンビニのアルバイト店員の画像などが大きな問題になった。コンビニ側は謝罪し、店員は解雇。別の飲食店の店員らによる悪ふざけ写真も多く見つかった。

 なぜこういった投稿が後を絶たないのか。

 博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平リーダー(37)は、「昔から不謹慎な悪ふざけをする人は一定程度いる。それを拡散するネットが普及したため、これまで見えなかったものがより過激になって、可視化している」と分析する。

 近年、ネットで話題になる投稿をして広告収入を得る人は「ユーチューバー」と呼ばれ、注目を集めている。また原田リーダーによると、携帯電話を持ち始めるのは中学3年ぐらいが多く、ほぼ同時にツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の世界に入り、ネットの交友関係やネットで注目されることの価値が高くなっているという。

 少年もある動画の中で、ユーチューブのトップページに躍り出た自分の動画を示し「日本一になった証ですよ、これは。日本一はおれに譲ってもらいます」「いろんなところで私のニュースやってますね」と感情を高ぶらせていた。

 「今の若者は、SNSのフォロワーや、『いいね!』の数を競い合う。数を増やすためには注目のコンテンツを投稿することが必要だ。そのために過激な表現を選んでしまうのではないか」と原田リーダーは分析する。

 日本人殺害脅迫事件を揶揄する投稿では、日本のネットユーザーから「不謹慎」「平和ボケ」などの批判も寄せられていた。安易な投稿が犯罪に手を染めることのみならず、人の生命に影響を及ぼす可能性もある。ユーチューバーの倫理観が問われている。

最終更新:2月5日(木)23時40分

産経新聞

 

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