アメリカ軍など有志によるシリアでの「イスラム国」への空爆を始めました。
しかし、これは先月から始まったイラクにおけるイスラム国空爆とは話が違います。イラクでのイスラム国空爆は、イラク政府の要請を受けてのもの。ということで、アメリカ側としてはイラクとの集団的自衛権行使としての空爆という理屈が立つわけです。
一方シリアの場合は、シリア政府が要請したわけではありません。事前にシリア政府高官は、「同意のない空爆は国際法違反」という姿勢を示して反発を強めていましたし、これに安保理常任理事国のロシアも同調していました。当然、空爆に対して各国の反応は様々です。
<ロシア外務省は23日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への攻撃が目的でもシリアに空爆する場合は、シリア政府の同意を得なければならず、そうしなければ周辺地域との緊張を高めることになると指摘した。>
<中国外務省の華春瑩報道官は23日の定例記者会見で、米軍がシリア領内でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対する空爆を開始したことについて、具体的な言及を避けつつ、「中国は一貫していかなる形式のテロリズムにも反対している。国際社会は共同でテロリズムに打撃を与えるべきだ」とする中国政府の原則的立場を強調した。>
ウイグルやチベットでの抗議行動に手を焼いている中国共産党政府としては、テロとの戦いという錦の御旗の下に、人権弾圧なども正当化できると踏んでいるのかもしれません。この記者会見があったのと同じようなタイミングでこんなニュースもありました。
<中国で新疆ウイグル自治区の現状などについて積極的に発言し、国家分裂罪に問われたウイグル族学者、イリハム・トフティ氏の公判が23日、同自治区ウルムチ市の中級人民法院(地裁)で開かれ、無期懲役と全財産没収の判決が言い渡された。弁護士の一人が家族からの話として明らかにした。>
さて、アメリカはどういう理屈を付けて今回の空爆に踏み切ったかというと、安保理決議を取ろうにもロシアが拒否権を行使することは目に見えていましたのでずいぶん古い証文を持ち出したようです。
<武力行使について政権は、包括的な対テロ措置を規定した安保理決議1373などを基本に、7章で国連加盟国に認められた「個別・集団的自衛権の行使」であり、国際法上問題はないと説明することで乗り切るとみられる。>
ポイントは、この安保理決議1373にあります。この決議は、2001年9月28日、アメリカ同時多発テロが発生した直後に出されたものです。もともとは、あの当時アフガニスタンでの有志同盟の行動を正当化するために使われたものなんです。
あの当時は、アメリカはあれだけのテロを受けたのだから、個別的自衛権の行使は当然認められるものでありましたが、今回はどうか?潜在的なテロの脅威、あるいは昨今アメリカ人ジャーナリストが惨殺されているということを根拠としているようです。自国民が無残な殺され方をしている。だから報復するのだ!というのは、気持ちの上でわからないこともありませんが、しかしこれを言い出すと、自国民保護を理由に実力行使することが簡単に正当化されてしまいます。
さあ、自国民保護での出兵といえば、これは第2次大戦以前の世界でよく使われた侵略の口実ですね。アメリカが自国民保護を理由に空爆したというのが前例となると、ほくそ笑むのは誰か?まず思い浮かぶのは、ロシアのプーチン大統領なのではないでしょうか?東部ウクライナの親ロシア派支援の口実は、やはりロシア系住民の保護でした。
もう一人、中国の習近平国家主席も思い浮かびます。南シナ海で周辺国との摩擦が激しくなっている中で、自国民保護を理由に人民解放軍海軍が出てきた場合、ベトナム・フィリピンの海軍ではひとたまりもありません。その時、国連決議1373を大義名分に押し出してきた場合、果たしてアメリカ軍は対峙できるのか?そして、これが南シナ海ではなく、東シナ海で同じことが起こらないと誰が断言できるでしょうか?その時に矢面に立たされるのは、ほかでもない日本政府ということになります。
今回のアメリカのシリア空爆は、将来へ禍根を残す可能性があります。世界は再び、帝国主義の時代に突入しようとしているのかもしれません。