リンク先の記事には、日本企業で一流の人材を育て上げる要件として、1.自律性や自主性の高い人材の必要性を提唱している。また、2.成人後の心理的発達を重要視してもいる。
どちらも、大切な視点だと思う。
しかし、1.2.を繋げて「成人後の心理的発達として、自律性や自主性の高さを育てる」とタイプしてみると、なんだか不思議な印象を受ける。
本来、自律性や自主性のたぐいは成人後にじっくり育てるものではなかったはずだ。少なくとも、エリクソンのライフサイクル論を読み親しんでいる人ならそう感じるだろう。成人には成人特有の発達課題があり、例えば「親密さ 対 孤独」であったり「生殖性 対 停滞」だったりする。これらは、ある程度アイデンティティが確立し、自分中心主義的なメンタリティの彼岸に辿り着かなければ想像すら難しいものだから、思春期以前の子どもでは成り立たない。
いっぽう、自律性・自主性・積極性ってのは、幼児期の発達課題である。権威者や年長者に叱られたり禁止されたりすることがあっても、自律性や自発性を手放さないセンスを養い、【ルールや禁止の奴隷】と【野放図な自発性】の両極端に至らない柔軟性を身につける旬の時期は、まだ小学校に上がるか否かの年頃であって、成人後ではなかったはずである。
自律性も自発性も乏しい育ちの人間が増えているのでは?
断っておくと、リンク先のオピニオンが間違っていると言いたいわけではない。たぶん実際に、自律性や自主性が企業内部で問われているのだろう――私個人の経験としても、他業種の方と意見交換をする際にそういった話題を耳にすることが多いので、肌感覚として違和感を感じない。じゃあ何が言いたいかというと、成人の自律性や自主性を云々しなければならないってことは、子ども時代の自律性や自主性の発達課題が相当おざなりにされているんじゃないか、と問いたいわけだ。【ルールや禁止の奴隷】に陥りがちな成人や、誰かにコントロールされることばかり慣れ親しんだ成人が、すごく増えているんじゃなかろうか*1。
最近の子ども、特に手塩にかけて育てられた子どもは、自律性や自発性、積極性といったものを幼児期に体験する機会が少ない。大人に決められた場所で・大人に与えられた遊具で・大人に定められたルールどおりに遊ぶようになり、自分で遊ぶ場所を選び、自分で遊び道具をつくり、自分達で遊びのルールをエディットする機会は少なくなった。少なくとも昭和時代の地域社会のような、街中を使って、カミナリオヤジとの丁々発止をやりながら、自分達で遊びをクリエイトするのは難しくなった。「子どもを遊ばせないで下さい」的なゾーニングはどこに行ってもあるし、へたな場所で子どもを遊ばせていれば、どこからクレームが飛んで来るかわかったものじゃない。
自律性や自発性の不足しがちな境遇は、就学後も続く。中学受験、高校受験、大学受験と、親や教師によって“他律的に”勉強を強いられる場面は多いし、まじめに一流企業の正社員を目指すようなケースでは特にそうだろう。そもそも、子ども時代以来、年長者の言いなりになるままに育てられてきた世代が、そうでなかった世代と同等な自律性や自発性を身につけられるほうがおかしいのである。
こうした自律性や自発性の不足の問題は、1980年代から「指示待ち人間」「リモコン人間」的なフレーズで週刊誌を賑わせていた。その後も似たような批判は絶えないところをみると、日本企業のなかに自律性や自発性の乏しい人材が蓄積していくのは当然だろう。自律性や自発性を大切にしない生育環境が変わらない限り、こうした傾向はたぶん続くのではないか。
もっと自律性や自発性を大切にできる子育て環境を
だから私は、もっと自律性や自発性を大切にした子育てが行き届かないものか、と思う。もちろん「放任せよ」という意味ではない。【禁止やルール】と【自発性や積極性】の調和がとれた、融通のききやすいメンタリティを育てやすい環境を用意できないものか、と期待している。自律性や自発性の不足が囁かれるようになって三十年近くが経ち、こうした問題は極一部の世代だけの問題ではなく、社会病理の通奏低音になっている。親それぞれの子育ての仕方も大切には違いないけれど、それ以前の問題として、現代の子育て環境と子育てスタイルが、自律性や自発性を膨らませるには適しておらず、そうした状況がいまだに続いている事実は、懸念するに値するものではないか。
成人になってから自律性や自発性育てる前に、子ども時代の発達課題の旬の時期に、自律性や自発性の芽を潰してしまわないように子育てできればよいな、と思う。
*1:あるいは、比較的少数の【野放図な自発性】に極端に傾いてしまったオレオレルール野郎もいるかもしれない。というか実際にいる。もちろん、これはこれで子ども時代の発達課題のバランスが悪いまま成人になってしまった例と言える。禁止やルールに対する従順さと、自発性やヤンチャさとのバランスを上手に身につけていくことが肝要なのである
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