今の日本の工業製品は、ユーザーがその製品をどう使うのか、どう感じるのかまで含めた「本質的なデザイン」ができていない。その原因は、デザイナー側ではなく、経営者側にあると筆者は思っている。川島蓉子さんの連載「『ダサい社長』が日本をつぶす!」も、この状況を変えようと筆者と同じ思いで綴られているのではないだろうか。実際、日本には世界のデザイン界から極めて高く評価されているデザイナーが大勢いるし、アップルなどデザインを重視する企業と仕事をしてきたデザイナーも大勢いる(次回、詳しく触れる予定だ)。
日本メーカーのデザインに何が足りないのか
さらに日本は、海外の有名デザイナーを発掘した国でもある。アップルのデザインチームを率いるジョナサン・アイブがアップル入社前に名を上げたのは、日本のゼブラ社のTX2というボールペンのデザインだった。
また、4月に発売になるApple Watchのデザインを手がけたアイブの親友であるスターデザイナー、マーク・ニューソンも元々は日本の家具メーカー、IDEEの黒崎輝男氏に才能を見いだされた。黒崎氏がグッズプレス誌最新号で語ったところによると、そもそもアイブとニューソンも黒崎氏がIDEEで引き合わせたという。日本はこれだけ素晴らしいデザイナーを輩出している土壌になっているにもかかわらず、なぜかそれが日本メーカーの製品には全然活かされない。この理由について、ジョナサン・アイブと共に働いた日本人デザイナー、西堀晋氏の体験を通して紐解いていきたい。
この連載は書籍『ジョナサン・アイブ』と連動しているが、残念ながら同書では、西堀氏の話はあまり触れられていない。本記事は、本書を補う副読資料として楽しんでもらい、日本企業が本質的なデザインについて考えるヒントにしてもらえれば幸いだ。
なお、今回の記事は西堀氏に直接許可をいただいたわけではない。西堀氏が2009年に京都精華大学で行ったリビング・ワールド代表で、働き方研究家の西村佳哲氏との対談で語った内容を元にしている。これらの内容はMacお宝鑑定団Blogのレポートで詳細に綴られ、すでに広く知れ渡っているところだが、この記事では筆者がツイッターで取ったメモの内容や、筆者が西堀氏と個人的にやりとりしたメールの内容を加えて、肉付けさせてもらった。資料が完全ではないので、足りない部分は筆者の記憶で補っている。このため、正確でない部分があるかもしれないことをあらかじめお断りしておく。