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Acid Black Cherryはなぜ売れる? V系ロックのホントを分析

Acid Black Cherryはなぜ売れる? V系ロックのホントを分析

日々、新しい音楽が生まれ続けている。それらの多くは既存のカテゴリーに類型化され、レコードショップの適切な棚に陳列されて、あるいはインターネットのリコメンド機能を通して、リスナーのもとに届けられる。音楽のみならず、ただでさえ情報量の多い今の世の中であるから、受け手は特定のジャンルに対して素通りしてしまうことも多い。しかしもし、自分が知らなかったその場所に、思わぬ発見や、驚くべきシンパシーがあったとしたら? 受け身でいても情報に不足しない今の時代だからこそ、「越境」や「多様化」という行為を自ら選び取ることで見えるものがあるのではないか。

Janne Da Arcのボーカリスト・yasuによるソロプロジェクト「Acid Black Cherry」(以下、ABC)も、一筋縄では理解できない濃さを持ったアーティストだ。ヴィジュアル系のエッセンスを耽美的に活かしながらも、耳なじみが良く、少し懐かしいような邦楽ロックを奏でる。さらにyasuのクリエイティビティーが存分に発揮されたアートワークやコンセプトアルバムの並々ならぬこだわりは、彼自身の気づきや疑問に満ちており、人柄の奥深さを垣間見せてくれる。オリコンチャートの常連であり、全国アリーナツアーを満員にするABCの本当の理由はどこにあるのか? 彼らの森に踏み込んでみたい。

PROFILE

Acid Black Cherry(あしっど ぶらっく ちぇりー)
ロックバンド・Janne Da Arcのボーカリストyasuのソロプロジェクトとして2007年始動。通称ABC。2007年シングル『SPELL MAGIC』でデビュー。現在までシングル19枚、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム3枚をリリース。 2012年3月21日にリリースした3枚目のアルバム「『2012』」では自身初のオリコンウィークリーチャート初登場1位を記録し20万枚を超える作品となった。収録曲でもある15枚目のシングル『イエス』は2012 年USEN 年間 J-POP リクエストランキングで1 位を獲得し、youtube の再生回数は865万回を超えるなど、ABCを一般層へと広げたきっかけの楽曲となる。2013年8月からは、「ABCの音楽を通して少しでも笑顔になってくれる人がいるならば、近くに行って唄いたい」という主旨で“Project『Shangri-la』” をスタート。全ての会場がSOLD OUTした全都道府県TOURと、追加公演として行われたアリーナTOURも含め自身最多の18万人を動員。
|||| Acid Black Cherry [ABC] Official Web Site ||||

ほぼ全てのオリジナル作品がオリコンチャート3位に食い込むのはなぜ? 明確なコンセプトを形にする豪華ミュージシャンの存在


Acid Black Cherry(以下、ABC)は、売れている。卓越した演奏テクニックに裏打ちされたヘビーな音作りで人気を誇るバンド、Janne Da Arcのボーカリスト・yasuが、2007年より始動したソロプロジェクトであり、2007年7月18日、1stシングル『SPELL MAGIC』でメジャーデビュー。これまでにシングル19枚、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム3枚をリリース。2012年3月に放った3rdアルバム「『2012』」はオリコンのウィークリーチャート1位を獲得し、売り上げ枚数20万枚を超えて話題を呼んだが、その他のアルバム、シングル共にほぼ全てのオリジナル作品をチャート3位以内に送り込んでいる。

曲作りにおいては、yasuが本名の「林保徳」名義で全ての楽曲の作詞・作曲を手がけ、キーボード&プログラミング、ギターのリフのアイデアなどのアレンジも行う、まぎれもない実力者である。

Acid Black Cherry
Acid Black Cherry

ABCというネーミングはまるでバンド名のように見えるが、yasuのソロプロジェクトのため、yasu以外、固定メンバーを設けていない。レコーディングもライブもバンドスタイルで行なってはいるが、その都度、yasuがやりたいことを最も具現化できると思うミュージシャンにオファー。ギターにΛuciferのYUKI、BREAKERZのAKIHIDEやLUNA SEAのSUGIZO、SIAM SHADEのDAITA、La'cryma ChristiのHIRO、ベースにはLa'cryma ChristiのSHUSE、ドラムにSIAM SHADEの淳士ら、ヴィジュアル系、HR / HM(ハードロック、へヴィメタル)界では屈指のテクニシャンが顔を揃える。確かな演奏に支えられ、ABCが奏でる楽曲は、ヘヴィネスと美しいメロディーが織りなすダイナミズムを体現し、女性ファンのみならず、ハード&ヘビーなメロディックロックを愛する男性ファンからも、熱い支持を得ているのだ。


ヒットメイカーが官能的なコンセプトを掲げる本当の理由


ABCは活動のスタート時から、一貫した1つのコンセプトを掲げている。そのコンセプトとは「エロ」。ちょっと鼻白む人もいるかもしれないが、yasuは単に目先の刺激やインパクトを狙ったわけではない。「エロ=性欲」は人間の本能が求める三大欲求=食欲、睡眠欲、性欲の1つだ。つまりABCの「エロ」は「人間が隠しきれない」ことや「本当に満たして欲しいもの」などの象徴だと言えよう。ABCにとっては、人間の本能を「音楽」という最も情動を揺さぶる表現行為を通して訴えることが、人間そのものの姿を浮き彫りにしていくことにつながるのだ。

余談かもしれないが、昔、ロックミュージシャンとロックファンの合い言葉は、まさに「セックス、ドラッグ、ロックンロール」だった。若者の憤り、やむにやまれぬ初期衝動を音楽として具現化したロックは、セックス&ドラッグとカルチャーとして強く結びつき、ロックは人間の本能としてセックスを歌った。yasuが己の表現に込めた「エロ」は、「ロックであること」への原点回帰と結びついているのだ。


阿部美香

北海道出身。音楽・芸能・ゲーム・アニメ・声優・デジタル玩具などエンタメ系分野で、フリーライターとして活動。『ダ・ヴィンチ』『デジモノステーション』『PATi PATi』『CAST-PRIX ZERO』『Quarterly pixiv』『DVD&ブルーレイ Station』、Web『日経トレンディネット』などの他、ゲーム系オフィシャルサイトでなど様々な媒体で執筆中。

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