中東の人質事件をめぐり、日本と協力関係にあったヨルダン社会を悲報が襲った。

 過激派組織「イスラム国」が、拘束していたヨルダン軍パイロットを殺害したとする映像がネット上に公開された。

 親族や市民の悲嘆は察するにあまりある。各国首脳がこぞって非難するのは当然だ。心から哀悼と連帯の意思を表したい。

 ヨルダンは米主導の「有志連合」に加わり、空爆作戦を展開している。「イスラム国」は、ほかのアラブ諸国を含め、参加国全体に対する威嚇と揺さぶりを狙ったのかもしれない。

 しかし、こうした蛮行は国際社会の団結を強めるだけだ。人命をここまで残忍に扱う犯罪集団を許す余地はない。

 米欧の主要国と日本は、改めて国連安全保障理事会などに呼びかけつつ、組織に対する包囲網の強化に動かねばならない。

 活動資金や武器の供給ルートの遮断、指導層や活動メンバーのリストづくりなどへ向けて、周辺国と主要各国・国際組織が本腰を入れるべきだ。

 今回の悲痛な出来事を機に、テロに向き合ううえで、根源的な問いを改めて考えたい。国際社会が人命とともに守るべき原則は何か、果てしない暴力を生む土壌は何か。

 過激派組織が破壊しようとしているのは、世界が長い歴史を経て築いた人権と自由の価値であろう。それを許さないためにも、各国は民主世界が共有する法治のルールにのっとってテロ対策を進める必要がある。

 先のイラク戦争と内戦がおびただしい人命を奪い、民心の荒廃が過激思想を強めたのも確かだ。暴力に暴力で立ち向かうだけでは憎しみの連鎖に陥る。

 ヨルダンは、「イスラム国」が釈放を求めた死刑囚の刑を執行したと伝えられる。復讐(ふくしゅう)にも見えるタイミングだ。組織に対する世論の反発は理解できるが、政府は冷静さを失わないよう願いたい。

 いまの中東を見渡せば、ヨルダンはとりわけ穏健で安定した数少ない国だ。これからの中東の安定回復や、イスラエル・パレスチナの和平構想などをめぐっても活躍が期待される。世界とアラブの橋渡し役として一目置かれる存在でいてほしい。

 日本の悲しみと、ヨルダンの怒りはまた、現地で「イスラム国」に支配される人びとが日々受けている苦しみでもある。

 悲惨な事件を機に、日本はヨルダンを含む中東の政府とともに、幅広い民衆とも、互いに助け合うきずなを深める意識を新たにしたい。