米国の財政を巡る与野党の対立が一段と強まりそうな気配だ。民主党のオバマ大統領が議会に提出した2016会計年度(2015年10月~16年9月)の予算教書に野党・共和党が強く反発しているからだ。
米国の予算編成の行方は、成長と財政再建の両立に苦闘する日本にとっても無縁ではない。どんな論争が交わされるのかに目をこらしたい。
予算教書は大統領が示す毎年度の予算編成方針。今回の柱は、法人税率の引き下げのほか、格差是正のため中間層を税制面などで手厚く支援することやインフラ投資の強化などが含まれている。
だが、上下両院で多数派を占める野党・共和党は「財政再建にも成長強化にもつながらない中身」と激しく批判しており、予算編成は難航しそうだ。与野党の対決に拍車がかかれば、債務上限の引き上げを巡って大荒れになった11年と同様の混乱も起きかねない。
与野党が根本的に対立しているのは経済をどう成長させるかだ。法人税減税の必要性では両党とも一致するが、オバマ大統領はこれに加えて、インフラ投資など公共支出の拡大によって雇用を創出する考えを示す。共和党はこうした歳出拡大策に強く反対している。
財政再建のやり方でも考え方は大きく異なる。民主党は富裕層への増税などを重視するが、共和党は医療費などを含めた歳出削減を求め、増税に反対している。
「小さな政府」を標榜し、一切の増税を拒否する共和党のかたくなな態度が、政府閉鎖の危機などの混乱を過去に招いたのは確かだ。しかし、その姿勢が一方的な歳出拡大を防ぐ歯止めになってきた面があるのも確かだ。
国内総生産(GDP)に対する米国の財政赤字の比率は金融危機後の2010年には13%台と日本より5ポイントも高くなったが、今は日本よりも低くなっている。成長の回復と歳出の抑制、過去の減税を失効させる実質増税の3つが効いた。ただ医療費など社会保障費への切り込みはまだ手つかずだ。
こうした米国の財政論争から何を学べるか。米国と比べてはっきり違うのは、日本の国会では歳出の削減を主張する勢力が強くないことだ。成長力をどう高めていくかの議論も弱いように思える。理論だけに走った不毛な議論に陥っても困るが、経済全体を見回した骨太の論争が望まれるところだ。