Spotlight on アルムナイ
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ネット界のベストセラー起業家へ
アーガイル株式会社
代表 岡安淳司
■ネットバブル崩壊で起業を諦め、アクセンチュアへ就職
インターネット・バブルに沸いていた2000年、早稲田大学の学生だった岡安淳司さん(39)は開発したWebサービスの事業化を進めていた。出資者を募り、話がまとまりかけて、いざ起業という段取りになって、ネットバブルが崩壊。出資の話はなくなった。すでに翌春、卒業を控えた最終年次の夏のことだ。
悔しかったが、その時共に起業を目指していた仲間とは、「お互いに力をつけてまた集まろう」と約束し合った。
「就職したいと思える会社を1社だけ受けてみて、採用になったら一度起業は諦め、会社員として働いてみよう」と向かった先がアクセンチュアだった。なぜアクセンチュアだったのか。岡安さんはその理由を次のように自己分析する。
「小中学生や高校の途中までは数学が好きでプログラミングに興味がある理系の生徒でした。もともと読書は好きでしたが、高校2年の頃に、創作活動をするサークルの友人とともに小説を書くことに一気に傾倒して、作家を目指そうと大学は文学部に進んだんです。
高校時代の友人が早々と作家デビューするのを横目に、自分はなかなか芽が出ず、在学中は授業そっちのけで色々な仕事をしました。新聞社で記事を書く仕事や、編集プロダクションで書籍や雑誌の制作、ゲームの企画やシナリオライターなどの仕事をするうちに、自分は物語よりも「仕掛け」を作る方が得意だと気づいたんです。
小説も、ゲームやWebサービスの企画も、マーケティングや会社経営も、”仕掛け”を作って人の心を動かす、ということでは共通しています。面白い”仕掛け”を作る仕事をするためにも、コンサルティング会社で、あらためてしっかりとしたフレームワークやロジカルシンキングを身に付けたいと思いました。その中でも、自分の興味分野に合致するITに強いコンサルティング会社としてアクセンチュアを選びました」
入社試験での小論文のお題目は「コンサルとは何か」。岡安さんは「コンサルとは預言者である」と説いた。コンサルタントは、これまでのいろいろなケースを共通の“バイブル”として自分のリズムで読み解き、顧客の課題を解決して進むべき道筋を示す。課題を解決したら、その場から立ち去るのがコンサルの特徴。居座って権威になることなく、常に外部の視点を持ち続けなければならない――文化人類学の視点から、聖書の構造分析と重ね合わせて論じた。
自己分析か小論文が功を奏したのか、はたまた別の理由からか、今となってはわからないが、アクセンチュア戦略部門での採用となり、大手電機メーカー、携帯キャリアなどのプロジェクトを担当した。在籍期間は1年ちょっとだが、濃密な体験だったという。
「アクセンチュアのプロジェクトでのスピード感はまさに火事場に消防士が出動するときのようなものです。この課題をどう解決してやろうかとワクワクしてきて、大変であればあるほど燃えるマインドが身につきましたね。経営者としてピンチに遭遇した時、冷静でいられるのはそのおかげです」
■15年間追い求めたテーマを社業に、ついに起業
次の転職も、アクセンチュアとの“縁”を感じるものだった。偶然にも、転職先の人材サービス会社の経営幹部にアクセンチュア出身者がいたからだ。同じ現場で働いたことはなかったものの、その経営幹部に「アクセンチュア出身者」である経歴を買われ、Webを中心とした広報宣伝やマーケティングの担当者として働き始めた。
当時、2004年は人材業界の市場勃興前夜に当たる。規制緩和によって民間の活力を引き出すという国の基本方針のもと、「製造業務や医療関連業務への派遣解禁」や「専門業務の派遣期間無制限」などの労働者派遣法改正が行われ、その後、人材業界全体が急拡大した。
「2004~2009年の人材業界はかなりおもしろかった。200~300人規模だった社員は4000~5000人に膨らみ、同業との吸収合併後、どのような形で企業ブランディングを統一するかなど、小さな組織が巨大化していく様子を内側から見られた。リーマンショック後の落ち込みまで、1企業の栄枯盛衰を組織の中の一員として感じられたのは得難い経験だったと思う」
大学生時代、共に起業を目指しつつも、いったんは諦め、散り散りになった仲間の一人であるプログラマーと、人材サービス会社で同僚だった「勢いのある奴」を営業・企画担当に迎え、3人で起こしたのが、岡安さんが社長を務めるアーガイルだ。アーガイルではツイッターを中心にソーシャルメディアを活用したマーケティング支援やキャンペーンの企画、クチコミの分析、Webメディアの制作・運用などを行っている。
「学生時代に起業しようと考えていた時から、テーマは一貫しているんです。そもそも大学の卒論テーマが“ネットワーク社会の自我と表現”。Web上のソーシャルメディアと呼ばれるものが、“日記”と“掲示板”しかなかった時代に、ソーシャルメディアがコミュニケーションに与える影響について考えていた。かれこれ15年間ずっと同じテーマを追い続けていることになりますね」
■考え方のフレームワークを完成させてくれた場所がアクセンチュア
実はアクセンチュア時代、顧客である電機メーカーにSNSを作ろうと提案したこともある。「ユーザーの家族構成を模した人間型のキャラクター(アバター)に、一人ひとりの趣味嗜好や持っている電化製品などの情報を登録すると、画面の中で勝手に生活するアバターが家族に似た行動をするようになり、時々おすすめ家電をレコメンドしてくれる」といった機能を持たせたSNSが、当時岡安さんが提案した企画だ。この企画は採用されなかったものの、いまでは似たような仕組みが、任天堂のゲームで形となっていることを考えると先見の明があるようだ。
起業した会社で、「ツイッター」活用支援をサービスの中心に据えた点にも、岡安さんの先見性が光る。ただ、日本でツイッターが使われ始めたのが2007年。2009年時点では「ツイッターを活用したマーケティング」の事例はほとんどなく、興味を持ってくれる企業もなかなか現れなかったが、2010年4月に国産初のツイッタークチコミ分析ツールをリリースすると、次々にツイッタ―を活用したマーケティング支援業務を受注。
「クチコミ分析ツール」の導入や、ツイッターキャンペーンの支援実績には、カゴメ、JCB、ガリバーインターナショナルなど名だたる企業が並んでいる。
■人とコンテンツをマッチングする
岡安さんが次に見据えるのは、自社開発したソーシャルメディア「グラフィー」のサービス開始だ。
“次世代型ミクシィ”とでも呼べるグラフィーは、「趣味」でつながるSNSサービス。「映画」「音楽」「アニメ」「グルメ」などのカテゴリに分かれ、「いままでに見た映画ベスト10」「東京のラーメン屋ベスト10」など好きなものだけを厳選したマイベストを作って、その情報を「趣味仲間」と共有する。
マイベストに連なった映画や店名がプロフィールの代わりとなり、好みの近いユーザー同士が自動的にマッチングされ、1週間の間“お試し相互フォロー”される。「このサービスのポイントは趣味嗜好の本音、本当に好きな物についての、とことん正直な情報が集まる場となること」だと岡安さんは言う。
そのため、フェイスブックのような実名ではなく、ハンドルネームでの利用を想定している。現在、事前登録者の中から参加ユーザーを絞ったα版テストを開始しており、当面の目標は10万利用者までの拡大。「アーリーアダプターが、フェイスブックやツイッターよりも細分化された、新しいSNSを探し始める時期が来ている。この自社メディア、グラフィーを起爆剤に資本を集め、第二創業期としたい」と意気込む。
趣味の領域は言語の壁をやすやすと超えるため、グローバル展開も当然視野に入れている。日本発のプラットフォーム作り。演出するのは、ヒトとコンテンツのマッチングだ。古今東西、人類が貯めてきたコンテンツという資産と、今を生きる人が必要としているモノを結びつける。
『天地明察』などのベストセラー作家冲方丁さんとは高校時代、同じサークルでリレー小説を共に書いた友人で、今も年末年始には家族ぐるみで過ごす仲だ。岡安さんも“ネット界のベストセラー起業家”をめざす。
■アーガイルホームページ
■グラフィー事前登録サイト