東日本大震災の被災各地で巨大な防潮堤が建設される。豊かな生態系を持つ海岸線での事業だけに、環境や景観を損ねないか懸念の声もある。住民の意思が反映されているか再チェックが必要だ。
建設が進む防潮堤は、数十年から百数十年に一度という頻度で起きる巨大地震を想定してつくられる。その結果、既存の防潮堤よりも二倍から四倍もの高さのコンクリートの壁ができあがる。
復興庁によれば、昨年九月末段階で工事完了は19%で、73%が契約に入っている。災害復旧事業として建設されるが、むろん新規で建設される防潮堤も数々ある。問題は環境影響評価の対象となっていないことだ。
環境保全の視座は当然、求められる。被災地は藻場の豊富な湾や生物多様性に富んだ貴重な沿岸域が多数ある。日本の重要湿地に選ばれた地域もある。岩手県から宮城県にかけての三陸海岸沖は世界三大漁場として優良な漁場であるし、リアス式の海岸は養殖の好適地である。
巨大な防潮堤ができれば、自然豊かな沿岸部と内陸部との間で、生物や土砂の移動を妨げる。干潟や湿地での固有の生態系そのものや、自然の営みの連続性も破壊される心配がある。
だから、環境影響評価が必要であるし、導入を義務づける緊急性があるといえる。第三者がチェックできる仕組みも求められよう。
さらに重要なのは、住民の意思がきちんと反映されているかどうかだ。日弁連によると、住民説明会はあっても、建設への賛成派と慎重派で意見が分かれる地区もあるそうだ。地区協議会の議事録が十分に公開されていない事例も報告されていると聞く。
復興の主体はあくまで被災者自身であり、その在り方を決定していく担い手でなければ、生活再建などおぼつかない。防潮堤が海との遮断壁となって被災地の過疎化が加速すれば、建設の意味も薄れる。人々の生活や文化、経済システムなど大災害で失った価値を取り戻すことこそ望まれる。
南海トラフの巨大地震も予想され、今後は全国規模で防潮堤が整備されることも予想される。だが、まず「建設ありき」で物事を進めると、将来に禍根を残しかねない。
防災はハード面とソフト面を総合的にとらえて考えるのは当然だ。生態系や景観などに百年の影響を及ぼす大事業だけに慎重を期したい。
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