過激派「イスラム国」によるとみられる邦人人質事件は、日本を「明確な敵」と位置づけるテロ組織が存在するという現実を、改めて見せつけた。日本もテロの脅威に直面していることを理解する必要がある。そのうえでなお、冷静に考え、対応していきたい。
イスラム社会への反発や批判をいたずらに強め、イスラム社会を敵視することは、むしろテロ組織の側を利することになる。イスラムと反イスラムに社会を分断し、混乱を作り出していくことこそ、彼らの狙いだからだ。
日本はこれまで中東で一度も武力を行使したことはなく、ビジネスや技術の供与などを通して地域の平和と安定に貢献しようとつとめてきた。これは誇っていい。テロ対策としていま行っている支援もまた、食料や医療など人道的な観点からのものである。
こうした姿勢を理解しようとしないならず者がいることが、今回の事件ではっきりした。テロに屈することなく国としてテロを封じ込める手を打ち、国際的な取り組みを支援していくのは当然だ。
その一方、イスラム国が仕掛ける「憎しみ対憎しみ」の土俵に私たちが乗っかり、イスラム社会そのものを危険視するようなことがあってはなるまい。
当たり前だが、イスラム社会のほとんどの人はテロと関係ない。今回の事件でも、人質となった邦人2人の安否を気づかいテロを非難する声が、日本のイスラム社会の中から寄せられた。
気にかかるのは、インターネットの普及などを背景に、極端で攻撃的な主張が近年さまざまな場面で目立っていることだ。特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)なども問題になっている。偏狭な排他主義は状況を悪くするだけだ。
テロの撲滅に向け引き続き各国との連携を強めながら、イスラム社会とこれまで以上につながりを深め意思疎通をはかっていく。それこそが新たな犠牲者を生まない道ではないだろうか。