東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

企業の内部留保 継続的な賃上げ原資に

 デフレ不況下で企業が貯(た)め込んだ巨額の内部留保に厳しい目が注がれている。経済界は弁明するだけでなく、継続的な賃上げや国内への積極投資で応えなければ、デフレ脱却はおぼつかない。

 「賃金や配当、設備投資に月二兆円は使える。企業は金を貯めるのが目的ではないはずだ」

 先日、都内で講演した麻生太郎財務相の批判は手厳しかった。

 二〇一三年度末までの一年間だけで内部留保は三百四兆円から三百二十八兆円へ、二十四兆円も増えた。一カ月に二兆円。麻生発言は今春闘で企業に賃上げの圧力をかけ、アベノミクスを再浮上させる狙いがあるが、内部留保の実態を示している。

 企業の内部留保は売り上げ増加、人件費などのコスト削減、配当金の抑制で生まれる利益の蓄積だ。利益剰余金ともいわれ現金・預金だけでなく工場などの生産設備、海外子会社の株式などになっている。三百二十八兆円は十年前の約一・六倍。この間、日本経済はマイナス成長だったにもかかわらずだ。

 貯め込む一方で、なぜ賃金の引き上げや投資に向かわないのか。

 「リーマン・ショックのような経済危機への備え」「国内市場の縮小」「海外には投資している」−企業の弁明はバブル崩壊後の経営危機、〇八年の金融危機のショックを引きずる守りの姿勢を浮き彫りにする。

 企業の姿勢の転換と、デフレ脱却には何が必要か。まず政府が役割を果たす。法人税減税などアベノミクスの評価は分かれるが、企業が賃上げや国内投資に踏み切れる環境づくりが求められる。

 一方、企業は積み上げてきた巨額の内部留保を、賃上げと国内投資の原資とすべきだろう。

 デフレになった一九九〇年代末から賃金は低下しており、この長期の賃金下落がデフレの原因だという指摘がある。暮らしの先行きに見通しが立てられる賃上げがなければ消費にはつながらない。長年にわたる内部留保に見合う、継続的な賃上げが不可欠だ。

 もう一つは国内での積極投資。戦後の経済は繊維、造船、鉄鋼、家電・IT、自動車というモノづくりを基幹産業に伸びてきた。その先を担う産業を興す企業家精神と投資が求められている。

 それができなければ巨額の手元資金を貯め込む企業への批判、「企業悪者論」は収まらず、景気の本格的な回復も望めない。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo