(cache) 「イスラム国」掃討作戦 なぜ米国はシリア介入に慎重だったか /上智大学・前嶋和弘教授 | THE PAGE(ザ・ページ)

[写真]9月10日、米オバマ大統領が「イスラム国」掃討戦略についてテレビ演説した(代表撮影/ロイター/アフロ)

 イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国(ISIS)」の猛威が続く中、アメリカのオバマ政権は9月15日、イラクの首都バグダッド近郊で初めてイスラム国への空爆を実施しました。これまでのイラクでの空爆は、米公館の施設や要員の保護、人道支援が目的とした限定的な攻撃でしたが、このバクダッド近郊の空爆でイスラム国壊滅を目指した作戦に本格移行しつつあります。「イスラム国」の壊滅を宣言した10日のオバマ大統領の演説を具現化されつつあります。

 この演説ではシリア領内での空爆も躊躇しないとしています。実際、シリアとイラクにまたがって勢力を拡大する「イスラム国」を抑えるには、イラクだけでは片手落ちであるという意見が圧倒的です。今後は反対側のシリアを含めた広範囲での掃討作戦が展開される見通しとなっています。

シリア介入に慎重だった3つの理由

 ただ、オバマ政権はこれまで「イスラム国」を追撃する目的でのシリアでの攻撃拡大には非常に慎重でした。その理由は3つあります。

 まず、第一にシリアの「イスラム国」をたたくことは、アメリカにとっては仇敵であるアサド政権を助けてしまうことになります。そもそも「イスラム国」はアサド政権への反発から急成長した経緯があります。昨年の秋には空爆寸前だったアサド政権側に力を貸すのは、オバマ政権にとってはどうしても慎重にならざるを得なかったのです。

 第二に、シリアでの「イスラム国」掃討作戦が実際に想定しにくかったこともオバマ政権がシリア攻撃に二の足を踏んでいた理由の一つです。地上軍との連携がないままでの空爆では効果が半減してしまうのですが、オバマはかつてから、「イラクに地上軍は派遣しない」と宣言しています。「イスラム国」を追い詰めるためにはアメリカに代わる地上軍が必要ですが、「イスラム国」とは対立関係にある自由シリア軍に代表される反政府勢力の支援について、アメリカ側は不信をぬぐいきれません。というのも、反政府軍にとって本当の敵はアサド政権であり、アメリカが軍事的に支援してもそれが「イスラム国」掃討作戦に向かわないという危惧がいまだに根強くあります。

 第三の理由は、シリアに介入する法的根拠が薄い点です。イラクの場合、「イスラム国」にさいなまれる政権側という当事者からの支援要請がアメリカにありました。国際社会にとっても混乱するイラクを助けることは大きな意義があります。これに対して、シリアのアサド政権の方は、自分を攻撃目標としていたアメリカに支援要請をすることは考えられません。「イスラム国」の掃討作戦にシリアでの軍事行動は不可欠ですが、シリアはあくまでも第三国であり、アメリカが介入する根拠はどうしても薄くなります。

 アメリカの現時点でのシリアへの関与に対しては、まずは国連安保理を通すべきだという意見も国際社会の中には少なからずあります。合法性が疑われれば、「イスラム国」を包囲する有志連合を形成する動きも弱まってしまうかもしれません。

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