スマホの充電などに使われる掃除機用の電源=関西国際空港

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 国際線の外国人旅客数が昨年、630万人と平成6年の開港以来、最多になった関西国際空港。

 外国人の急増で、空港内では乗り継ぎ待ちをする外国人同士が仮眠をするベンチを奪い合ったり、不足するスマートフォン用の電源の順番を待ったりする事態が発生。利用者からは対応の遅れに不満が相次いでいる。運営する関空側は、こうした不備を認める一方、「“おもてなし”が問われかねない」として、スマホをかざせば多言語に対応して施設案内を表示するQRコードを初めて導入するなど、急ピッチで対策を進めている。(吉村剛史)

ベンチで夜を明かす

 「もともと到着時間の遅い便がさらに遅れたので、電車もバスもない。始発までここで休むつもりだ」

 深夜の関空。中国・上海からの便で兵庫県で働く兄に会いにきたという中国人の男性(31)は、こう話すと、第一ターミナルビル2階のベンチで横になった。

 このように関空は夜、ベンチで夜を明かす外国人が少なくない。

 特にコンビニエンスストア近くのベンチは“早い者勝ち”になる人気ぶりで、終電後にはすべてのベンチが埋まる。

 これがベンチの強引な奪い合いや荷物の盗難などトラブルにも発展しかねないとして、最近ではターミナルビル交番も警戒を強化。空港警備員は2時間置きに巡回している。

 新関西国際空港会社の子会社「関西エアポートエージェンシー」は夜を明かす外国人などを対象に、希望者には毛布を貸し出しており、毎晩30枚程度の利用があるという。

 空港島内にはホテルもあるが、就航が相次ぐLCC(格安航空会社)を利用する外国人たちは「飛行機代を上回る値段の部屋にたった数時間の滞在なんて、ありえない」と口をそろえる。

 一方で、ネットカフェ形式の24時間利用可のラウンジもあるが、独立したブースの収容可能人数は20人余りに限られ、こちらも競争率が高い。

 さらに最近は、昼間も国内線乗り継ぎの時間調整のためベンチに寝る外国人の姿も増えており、ベンチの不足は日に日に深刻度を増している。

 関空に到着し、これから北海道の友人に会いにいくというオーストラリアの男子大学生(22)は「日本のカプセルホテルは安くてクール(格好いい)。そんなドミトリー(簡易宿泊設備)が空港内にあれば、利用するのに…」と不満を漏らす。

電源も順番待ち

 さらに外国人の間で不満が根強いのが、急速に普及しているスマホやタブレット型端末の充電用電源の不足だ。

 飛行機の長旅で、到着時には電源が切れているケースも多い。

 「メールチェックができないと、待ち合わせの友人とも連絡できない」と話すのはオーストラリア人の青年(21)。自身の荷物で最初にベンチを確保すると、すかさずターミナルビルの壁の片隅に掃除機用の電源を発見。スマホの充電器をつないで、そのまま床に座りこんだ。

 すると、スマホを手にした別の外国人女性が近寄ってきて「空いたら、使わせてほしい」。たちまち順番待ちの列が発生した。

対応に追われる関空

 こうした事態に、新関空会社の幹部は「急激なIT機器の普及や訪日外国人の急増など、急激な変化に正直追いついていない」と明かし、スマホ充電などに対応した電源付きベンチの導入準備を進めるなど、対応に追われている。

 一方、外国人への“おもてなし”充実策として、スマホなどをかざせば、多言語で空港内の施設利用案内などを表示するQRコードを初めて導入し、運用を始めた。

 開発したのは、情報システム会社PIJIN(本社・東京)。

 同社によると、日本で誕生したQRコードはスマホの普及で、いまや世界各地で使われている。この技術を今回、施設案内や商品説明などに応用した。

 関空の案内は従来、日・英・中・韓の4言語だけだったが、このQRコード導入で、タイやベトナム、アラビア、インドネシア、マレー語も加えた9言語対応が可能に。QRコード自体も空港内の約100カ所に掲示した。

 第1ターミナルビルのチケットデスクやコインロッカー、シャワールーム、観光案内、売店の商品などの案内が受けられる。

 QRコードは、一度掲示すれば張り替える必要がなく、案内内容の更新や修正が容易で、関連ページへのリンクも可能だ。

 新関空会社などは、利用状況などを踏まえ、今後はレストランなどへも適用範囲を拡大していく。

 QRコードを利用した香港の女子大学生グループは「日本は初めてですが、なかなか英語も通じない。でも、こんなサービスがあれば安心できる。空港だけでなく、いろんな場所に普及してほしい」と改善に期待を寄せた。