国際報道2015

メニュー

[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2015年2月2日(月)

「イスラム国」 真の狙いは?

後藤健二さんを殺害したとする「イスラム国」。日本への敵意をむき出しにし、日本人を「標的」にすると宣言した。日本政府は国際社会と連携してテロとの闘いに貢献する決意を示すとともに、日本人の安全確保に万全を期す構えだ。イスラム国の真の狙いは何か。日本はどのように脅威と対峙していくべきか、専門家とともに考える。
出演:池内恵(東京大学准教授)

放送まるごとチェック

特集の内容をテキストと画像でチェックできます

徳住
「今回の事件について、世界中で非難の声があがっています。」

後藤さんの解放に向けて日本と連携してきたヨルダンでは1日、議会が「日本の皆さんに心から哀悼の意を表します」と日本との連帯を表明した上で、「イスラム国」を強く非難する声明を採択しました。


ヨルダン タラウネフ下院議長
「ヨルダンと日本、そして友好各国は、一致団結して立ち向かうのみだ。」





さらにトルコの外務省が声明を発表。
国際社会と連帯して、テロとの戦いを続ける決意を表明するなど、中東各国でも、反「イスラム国」の論調が強まっています。





また、アメリカのオバマ大統領は異例の早さで「イスラム国」を非難する声明を発表。






イギリスのキャメロン首相や、フランスのオランド大統領がこれに続き、「イスラム国」の壊滅を目指す国際社会の団結は強まりつつあります。





勢力拡大はかる「イスラム国」とは

国際社会から厳しく糾弾される「イスラム国」。
イスラム教スンニ派の過激派組織で、イスラム教の極端な解釈に基づいて、抵抗する勢力を次々に虐殺してきました。





中東のシリアからイラクにまたがる広い範囲を支配し、活動を活発化させています。
「イスラム国」は、もともと国際テロ組織アルカイダの流れをくむ「イラクのアルカイダ」としてイラクに拠点を置いていましたが、2011年、隣国シリアで始まった内戦に乗じて急速に勢力を拡大しました。
去年(2014年)6月には一方的に「イスラム国家」の樹立を宣言し、いまやアルカイダをしのぐ過激派組織になっています。


指導者は、イラク出身のアブバクル・バグダディ容疑者。

アブバクル・バグダディ容疑者
「おまえたちの同胞であるイスラムの戦士たちにアラーは勝利を与えた。」

バグダディ容疑者は、すべてのイスラム国家の最高指導者を意味する「カリフ」を一方的に名乗り、かつて強大な勢力を誇ったイスラム帝国の復活を目指しています。


その勢力拡大に大きな役割を果たしているのが、「メディア部門」です。
動画や音声などをインターネット上に投稿し、組織の思想を拡散させてきました。

“『イスラム国』の仲間たちに会いにこないか?”

巧みな宣伝活動に乗せられて、「イスラム国」に渡った外国人戦闘員や技術者の数は数万人に上るとされています。



日本人殺害事件 どう見たか

徳住
「スタジオには、イスラム政治思想にお詳しい東京大学、池内恵(いけうち・さとし)准教授にお越しいただきました。」

有馬
「今回、日本人2人が亡くなって、日本にもむき出しの悪意と敵意が突きつけられました。
そういう2週間だったんですけれども、どうこの事件を振り返ってらっしゃいますか?」


東京大学准教授 池内恵さん
「一番最初のメッセージ、1月20日に脅迫のビデオが出たわけですね。
その冒頭のシーンに私は注目していて、そこで日本は非軍事的な支援、金銭による支援を行ったと、明確に犯行グループのほうがそう書いてるんですね。
つまり、非軍事的な支援に対して、それはわれわれに対する敵対行為であって、ジハードの対象にしますと言っていると。
これは非常に重要なところであって、つまり、軍事的ではなく経済的な支援をする国も明確に敵とするという、彼らは以前からそういう意図は持っていたと思うんですけど、それを明確にした。
軍事的な支援はしないけれども、経済的支援をする代表的な国が日本ですから、その日本をいわば見せしめにして、世界の多くの国、大多数の国をいわば敵に回したかたちになったわけですね。
それから、このような強硬な姿勢の背後にあるイデオロギー、このジハード主義のイデオロギーですね、この広がりが非常に危険である。
しかも、イラクとシリアに今ある『イスラム国』という集団の影響力は、これ自体はややもう拡大は止まっているわけです。
それは、軍事的な介入もあって止まっているわけですが、しかし、自発的に世界各地で自分も『イスラム国』みたいなことをやりたいという個人とか組織が出てきて『イスラム国』を名乗ると、そういうタイプのいわば中東中心に世界各地で“まだら状”に『イスラム国』が現れてくる。
むしろ、そっちの方向の展開が今後危惧されるというふうに感じましたね。」


勢力拡大とその背景

有馬
「頭から危惧を今、お話いただいたんですけれども、今回、先生は『イスラーム国の衝撃』というタイトルで新著を上梓(じょうし)されたと。
その『イスラーム国の衝撃』、何が“衝撃”なのか、今後の問題を正確に理解するために敵方を知らなければいけないと。
これはどう理解すればいいんですか?」

東京大学准教授 池内恵さん
「いくつかキーワードを出してみたいと思うんですね。」

徳住
「こちらに先生からあげていただいたキーワードを用意しました。
まず『グローバル・ジハード』、そして『イスラム法』、そして『統治されない空間』、この3点です。」

東京大学准教授 池内恵さん
「まず『イスラム国』というものが出てきた時に、われわれ、例えばアルカイダとどう違うんだ、なんてことをいっぱい日本の、特にメディアでは議論してしまったんですけど、どう違うかということはあまり意味がない。
もともと同じイデオロギーを信じる人たちが競い合って別の組織になったというだけなんですね。
同じイデオロギーというのを全部まとめると『グローバル・ジハード』というふうに私は呼んでおります。
いろんな組織の人たちが言うことって、大体同じようなことを言っているわけですね。
その『グローバル・ジハード』とは何かと言いますと、その重要な部分というのは、『イスラム法』のある解釈、特に『イスラム法』の中のジハードという異教徒、あるいは『イスラム法』に挑戦する人物や組織、役人を武力で倒さないといけないとする、そういうジハード主義の考え方が『イスラム法』のある解釈の中では出てくるんですね。
その『イスラム法』の解釈に自らの正当性を見出してるのが『グローバル・ジハード』であって、あるいは自らの目的を見出しているわけですね。
ただ、そのような『イスラム法』の、特に政治的な強硬な解釈をする人、そしてそれを実践する人たちが一定数出てきても、最後の3番目ですが『統治されない空間』、つまり彼らが活動できる空間がなければ、それほど大問題にはならないんです。
ただ、今は中東、特にアラブ諸国を中心に『アラブの春』と呼ばれる2011年以後の各国の政治体制の揺らぎ、その中で各国で周辺部に『統治されない空間』が出てきてしまう。
これは昨年9月の国連総会の主要なテーマだったんですね、この『統治されない空間』というテーマですね。

ここの地図にあるように、『イスラム国』というのはここにありますが、その世界各地ともに中東からアフリカ、あるいは南アジアにかけて、特にイスラム主義の、特にジハードを主張する集団が現れてきている。
そして、この人たちは、かつてはアルカイダに忠誠を誓う、アルカイダの名前を使ったりする場合が多かったんですが、今、いわばこれが、私の言い方で言いますと“フランチャイズ化”と言いますか、つまり『イスラム国』とかアルカイダから直接つながっていたり、お金をもらっていたり、命令されているわけではない。

むしろ、その時その時でフランチャイズなのに、自分はアルカイダの一員ですよということを何かテロなどをやって示すと。
示したあとで、今度はアルカイダの有名なメンバーがいわばフランチャイズに入ったことを認めると、そういう形で広がっていく。
つまり、中心がなくて分散的に広がっていくという特徴がある。

そして、これは言い方を変えれば“ブランド化”とも言えるわけですね。
その時、アルカイダという名前がかっこいいと思われていれば、アルカイダという名前を使う。
あるいは、アルカイダという名前を使えば、世界中から注目されたり、資金や人が集まる場合は使うわけですね。
ただ、今、いわば“再ブランド”、新たなブランドとして『イスラム国』が急激に有名になってしまった。



例えば『エジプトのアンサール団』という、シナイ半島中心に影響力を増している、テロを何度も繰り出している組織ですが、つい最近までアルカイダに忠誠を誓っていたんですね。
ところが、最近は『イスラム国』が出てきて調子がいいというので、今度は『イスラム国』にわれわれは乗り換えるということを宣言をしている。
あるいは『パキスタン・タリバン運動』の中にもそういった勢力があります。
『ボコ・ハラム』も、以前はアルカイダに忠誠を誓っている人が多かったんですが、突然『イスラム国』にくら替えする人が出てくる。
“フランチャイズ化”と“ブランド化”、そういうかたちで直接つながりのない組織が世界各地で『イスラム国』を名乗る、あるいはアルカイダを名乗る、あるいはまた別の新たなブランドの名前を名乗るかたちで広がっている。
これを止めるのは非常に難しいんですね。
軍事的に各地で追いかけるなんてことはできませんから、限界がありますから、やはりこのイデオロギーの広がりを止めていく必要がある。
それは軍事的な手段だけでは、このイデオロギーは根絶できないと思っております。」


呼応する動き 広がるのか

有馬
「組織的なつながりがない、自発的にフランチャイズに参加してくる。
そしてブランドを巧みに名乗り、看板がけのようにしてくる。
なぜ今、活発化しているように見えるんでしょうか?」

東京大学准教授 池内恵さん
「まず、イデオロギーの広がりが過去10年間続いたわけですね。
そこで、すでに多くの人が知ってしまってるわけです。
自分自身が今いる場所、例えば先進国にいて何か問題があると思ったら、このイデオロギーに基づいて勝手に行動してしまうわけですね。
それが、今年(2015年)1月7日のシャルリー・エブド紙襲撃事件にもあるように、ほとんどつながりがない。
4年前にイエメンに行って何か指示を受けたという人が、4年後に突然行動を起こすわけですね。
同じように各国で『イスラム国』に、同じようなかたちで今、『イスラム国』が調子がいいから手をあげる。
そうしますと、自分は今ここでジハードやりますと、あるいは今ここに行ってジハードやりますという人がいる。
そのエリア、いる場所がそのままジハードの場になってしまうわけですね。
それか、もちろん外的要因として、各国の政権が周辺部をちゃんと統治できていない国がどんどん増えていっていると、それによって環境条件が整っているということがあります。」


日本はどう対応すべきか

有馬
「組織がつながっていないだけに対峙するのも大変なんですが、これ日本とすると、この『イスラム国』という存在にどう対峙していけばいいんでしょうか?」

東京大学准教授 池内恵さん
「先ほど3点あげましたが、まず『グローバル・ジハード』のイデオロギーそのものを、日本が正面から議論してなくすなんてことはちょっと難しいんですね。
『イスラム法』そのものについても、例えば日本に対して『イスラム法』のある解釈が非常に敵対的でしたら、それに対しては困るんじゃないかと、もちろん言うべきですけど、しかし異教徒には『イスラム法』を変える権限というのはありませんから、非常に言うことは難しいんですね。
そのようなイデオロギーが活動する範囲が生まれてしまっている、条件が整っている、それを変えていく。
やはり地道な経済支援、社会問題を解決していくための支援、あるいは統治がうまくいっていない所で、より人々が正義にかなったと感じるような政府を持てるようになる、そのための草の根の地道な支援を重ねていく。
それによって、例えばちゃんと各国の政府が国境を維持できて、国の隅々まで統治する。
しかも、人々はその政府を正当なものだと認めている、そういう状態をつくっていく。
これは、すでに秩序が崩壊してしまったシリアとか、イラクなどで日本がそういう活動をすることは難しいわけですが、まだなんとか国家が体をなしている国というのはあるわけですね。
それは今回、安倍首相が歴訪した、歴訪しようとした国とも重なっているわけですね。
例えばエジプトであるとか、あるいはヨルダンであるとか。
そしてイスラエル・パレスチナの和平を、世界の関心は薄れてしまいましたが、ここで支えていく、そういった活動ですね。
それからレバノンといった揺らいでいる国との境目にある最前線の国ですね。
そういった国のインフラを支援して、そして政治的な対話を、社会的な統一を支援していく。
その下からの支えが必要であると思います。」

有馬
「しかし、悩ましいですね。
その支援を敵だと、『イスラム国』はしていると。
これは委縮するなと言われても、委縮してしまう所も出てしまうわけなんですが…。」

東京大学准教授 池内恵さん
「まさにそれはテロの効果であって、われわれ委縮します。
しかし同時に、例えばヨルダンの政府、例えばレバノンの政府、例えばエジプトの政府、みな『イスラム国』からは敵対されているわけです。
ですから、われわれはここで政府間の連携を強める、それから国民間の連携を強める。
こういうことが必要であって、実際、人質事件の間、日本とヨルダン政府は非常に緊密に協力をしました。
そして、日本からは幸いなことにヨルダン政府に、あるいは国民のレベルで不当な要求を突きつけると、つまりわれわれ日本人返してほしいんだからヨルダンは何かしなさいと、これまで援助してきたんだから何かしなさいと、そういった声はほとんど出なかった。
私は、これはいいことだと思いますね。」

有馬
「統治が揺らぎそうな所、そこに率先して手を出していく、支援していくと?」

東京大学准教授 池内恵さん
「そうですね。
下から経済的な、そして社会的な国の成り立ち、それを再び揺らぎそうな国を揺らがないようにして支えていく。
そういった下からの支えが必要だと思います。」

ページの先頭へ